第33話 君が、九鬼征哉君か?
「君が、九鬼征哉君か?」
「はい、九鬼征哉です」
「そうか、まあ、掛けたまえ」
「はい」
俺の隣に、一覇が寄り添うように腰掛けてくる。
俺の心の中は、なんで俺が、なんで俺が、を繰り返し、居心地の悪さはMAXである。頼む一覇、アシストをよろしく頼む。
「わたしが、一覇の父、総一郎で、こちらが妻の阿下覇(あげは)だ」
「妻の阿下覇です」
そこで、一覇は俺の脇を突っついてくる。直球でいいのか? 直球で? 一覇の顔を覗くと真っ赤になって下を向いている。それを同意と受け取った俺。両親の方をまっすぐ見る。
「君は、目つきが悪いなー」
はっ、お父さん、いきなり出鼻をくじかないでください。こっちは意識を失いそうなんですから。
「お父さん。お母さん。僕と一覇さんは今付き合っています。どうか、交際を認めてください」
わあっ、なんの世間話もせずド直球で言ってしまった。
「君に、お父さんと言われてもなあ。それに、一覇には両親同士が決めた許婚(いいなずけ)がいるんだ」
「はっ、許婚?」
「おや、君は一覇から聞いてなかったのか? 五大財閥のひとつ、五条院家の二男だ」
おい、九鬼神、お前の作戦、最初から無理があったぞ。まあ、俺が一覇の両親に会った時点でミッションは完了だ。(そうでしたか。それでは一覇さんの事は諦めます)そう口に出そうとした時、一覇が俺を遮り、一覇が、父親の言葉を否定するように口を開いた。
「お父様。わたくし、あの五条院静馬の顔も性格も大っ嫌いです。たいした能力も無いのに、家の権力を笠にやりたい放題。家の力を自分の力と勘違いしているバカ野郎です」
なんだ。一覇。お前、俺を出汁(だし)に婚約破棄を狙っていたのか。それで九鬼神の企みに乗ったのか。どこまでも利己的な奴だ。
合点がいった。そう俺が理解した時、一覇は言葉を繋げる。
「だから、わたくしは九鬼征哉様とお付き合いをしたいのです。征哉様は見かけはどうしょうもありませんが、中身は、なんかいい人ぽいんです。お父様、お母様どうか、わたくしのわがままをお許しください」
なんだ、そのいい人ぽいって。しかし、それを言葉に出して言ってしまうと……。
「わかった。一覇。五条院には私から断わりを入れておこう」
ああっ、場の空気が変わってしまった。
それから、あとはとんとん拍子に話が進む。婚約は? 式の日取りはいつ?
「やっぱり、式はバッキンガム宮殿かしら? 女王に連絡を取らなくっちゃ。それに政財界の方たちにお披露目も必要になるし」
「阿下覇、まだ、そう言ったことは早いだろう?」
「なにをおっしゃるのよ。政財界の方々の全員のスケジュールを押さえるとなると、五年先でも危ないわよ」
「確かにそれもそうだ。今から日取りを決めておけば、全員に出席してもらえるな」
なんだ。その五年先でないとスケジュールが抑えられないって、みんな、なんでそんなに忙しいの。俺なんて明日のスケジュールも埋まってないのに。それにバッキンガム宮殿って。
「あの、私の家は九鬼神社なので、出来れば、神前でお願いします」
お願いしますって、俺、何を口走っているの? なんで、俺は一覇と結婚することを前提に話を進めているの? 横に座っている一覇もほほを高揚させて、俺の話に頷いている。
それから、一時間後、すっかり意気投合した両親に見送られ、玄関で挨拶をする。
「それでは、今日はこれで失礼します。それで、あのご両親には申し訳ないんですが、今日、明日と一覇さんをお借りします」
一覇には、九鬼神社の巫女として、正月の間、社務所に居てもらうことをお願いしているためだ。
「なんだ改まって。私たちの事はお父さん、おかあさんと呼んでくれたらいいから。それに、嫁が旦那の実家を手伝うことは当たり前だ。君も遠慮せず、自分の家だと思って、いつでもここに遊びにきたまえ」
お父さんの最初のとっつきにくさはどこへやら、まったく、一覇のスキルには驚かされる。
「「早く、孫の顔が見たいぞ(わ)」」
恐ろしいことを言う両親に見送られ、俺は一覇の家を後にした。
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