第35話 そんな思考をする間もなく

 そんな思考をする間もなく、乾鬼は魔剣を振りかざし、俺に向かって斬りつけてくる。

 俺は、何とかかわし続けるが。下がるうちに背中に衝撃を受け、気が付くと結界の神木を背負うところまで、押し込まれていた。そして、その背中の衝撃が俺に隙を作らせた。

一瞬動きの止まった俺に、容赦なく二本の魔剣が襲い掛かる。一本を跳ねあげ、一本を叩き落とす。

「これで、八回。次で斬鬼丸は砕け、消し飛ぶ!!!!」

乾鬼が叫んだが、後一回あれば十分。ここでけりを付けてやる。

千歳一隅のチャンス! 俺は乾鬼の胸に斬鬼丸を突き立てる。

しかし、一瞬早く、三本目の腕にある盾で防がれる。

パリン!! ガラスの砕けるような音がして、斬鬼丸が砕け散った。

「なに! 盾にも、スキルが付与してあったのか?!」

「ばかめ、死ね!!」

 岩を砕き、山を吹き飛ばす一撃が俺の顔面に迫ってくる。そして、俺は殴り飛ばされ、神木に激突。神木がバラバラになり遂に結界が破られた。

「ちっ、空気がわしの腕に絡みついて威力が落とされた? そうであった。この男は死なんのだ。この女が死なん限りな!」

 俺は、神木に打ちつけられ、痛みで体が思うように動かない。しかし、予定通り乾鬼の油断を誘えたか?

 乾鬼は一覇に音速を超えて肉薄し、そのまま首を締めて、ネック・ハンギング・ツリーの要領で一覇を釣り上げてしまう。

「これで、最後だ!!」

 乾鬼が勝ち誇ったように言い放ち、一気に一覇の首をへし折ろうとした瞬間、乾鬼の左脇から、心臓に向かって、斬鬼丸が生えている。

「な、なにが……」

そして、それを両腕に持って支えるのは、銀髪、銀の瞳を持つ茜であった。

 茜の足元には魔法陣が浮かび上がり、斬鬼丸に向かって、光の筋を伸ばしている。

「あんた、大分、人の恨みを買っていなさるようで……。仕掛けて、殺して、日が暮れて……。あなた(征哉)のうらみ晴らします!」

 うん。セリフ回しも上々だ。俺は久しぶりに聞くセリフにちびりそうになる。もっとも、俺は殺しを依頼してないないし、なけなしの小遣いも茜には払っていない。


「なぜ……、ここに斬鬼丸がー!」

 一覇を取り落とし、思わず膝を突きそうになる乾鬼。胸から生えている切っ先を拝むように掴んだ一覇は大見得を切る。

「ヒロインだって、見ているだけじゃないのよ!」

 そう、一覇を通して斬鬼丸に流し込まれた魔素は、斬鬼丸を輝かせ、乾鬼を霧散させる。


 そして、俺は懐から拳銃を抜き、破れた魔法陣に向かって引き金を引く。レベルが上がった茜が錬成した弾丸は、威力を上げて魔法陣に突き刺さる。

 その威力に、戌鬼と亥鬼が魔法陣から出てくるのを躊躇ったところを、一覇が魔法陣を時空の裂け目ごと消し去った。


 後は、結界の中に居る戌鬼と亥鬼だけだ。俺は自分が切った結界付近で拳銃を構え、弾丸をぶっ放す。そして、弾切れと同時になだれ込んでくる数十匹の戌鬼と亥鬼を相手に、蹴りや拳をぶち込んで蹴散らしていく。俺も0時を超えて、レベルアップしたようで体が軽い。武器を使わず、肉弾戦で、ライオンぐらいの大きさの戌鬼を殴り飛ばし、亥鬼にぶつけるとどちらも霧散して消えていく。


「はっ、はっ、これで全部か? 結界から逃げたやつはいないよな」

「ええっ、大丈夫よ。それにしても、征哉君。ププっ、へんな顔」

 一覇に顔を笑われて傷ついてしまった。確かに、乾鬼に殴り飛ばされ盛大に腫れ上がっているようだ。でも、一覇のスキルのおかげで頭を飛ばされなかったともいえるのだ。

「そんな、俺の変化より、茜のその銀の瞳に髪の方が、驚きだろうが!」

「えーっ、ホントだ。茜だけじゃなく、征哉君、貴方もよ」

「まじか? どういうことだ?」

「えへん。お主らは、遂にレベル50を超えたのじゃ」

「レベル50を超えた!」

「そうじゃ、わらわの髪や瞳も最初から銀色だったわけじゃないぞ。魔素を体に取り入れ、輝く銀の瞳に銀の髪になるのじゃ」

「なるほど、ヒーローはレベルアップすると、容姿が中間フォームに変わります」

 一覇が気が付いたように宣言する。

 ヒーローお約束、17か条の中に確かにある。特に、クリスマス前に新しいフォームに進化するのだが、髪の毛と瞳の色が変わるのは、やはり、あの国民的ヒーローの影響なのだろう。一覇、あいつは実写だけでなくアニメもいける口だったか。


「でも、今日の倒し方、わたくしあまり奨励しませんわ。正義の味方は、正義の味方らしく正々堂々とですね」

「でも、最近は悪人に、自分の価値観を押し付けるダークヒーローが主流だぞ。不意打ち、裏切り、勝ちゃあなんでもいいんだ。そうなれば、やはりあの時代劇は外せない。俺の中では、ダントツのダークヒーローなんだ。派手な殺陣(たて)もなく、世間話をしながらブスって」

「それにしても上手く行きました。魔法陣で完全に斬鬼丸の気配を消して、乾鬼を油断させ、背中をブスッ。私、魔法陣から斬鬼丸を引き抜く時、伝説の聖剣を抜くアーサー王になったかと思いました」

「悪かったな。せっかく茜が錬成した斬鬼丸。砕けてしまった」

「仕方ないですよ。九鬼神様がレベル99の時に打ち上げた斬鬼丸。私のレベルでは、半分の打ち合いで砕けちゃいます」

「そうだな。まあなんにしても、乾鬼は打ち取った。さてあと三鬼だ。取り敢えず、神社に帰ろう。初もうで客がぞろぞろ来ているはずだぞ」

「「「分かりました!」」」

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