第50話 そして、俺が目覚めたのは

  そして、俺が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。

 その病室は豪華な部屋で、俺と茜が体中を包帯でぐるぐる巻きにされ、寝かされていたのだ。茜は自分の体内の魔素を錬成して、何とか弾を心臓の手前で止めていた。一覇を含めた三人とも出血の割には命には別条はなかった。

 ただし、俺と茜は二四時間以上昏睡状態が続いていたらしい。

 そして、意識が覚醒すると、体中に走り出す痛みに思わずうなり声をあげた。

「ぐあっ、いてててっ」

「あっ、征哉、目を覚ましましたか?」

「俺、どうなってたんだ?」

 同じように前身に包帯を巻かれて、椅子に座っていた一覇に聞いた。

「力を使い果たしたんでしょうね。あなたも茜もばったり倒れて、そのまま、昏睡状態に陥って、医者の話ではかなり危ない状態だったようよ。私は大丈夫だって信じていたけど」

 そりゃあ一覇は、正義は死なないと思っているだろうけど。

「それで、艮鬼はどうなったんだ?」

「征哉は覚えてないの?」

「ああっ、何も覚えていない、あの……、その……。キ……の先からはあやふやで、覚えていないんだ」

「そうなんだ……。 えっと、最後は九鬼神様が止めを刺して、何とか鬼都学園を守ったわ」

「そうなのか……」

「気落ちしないの! 私たちは勝ったんだから……。でも、体内の魔素を消費したおかげで、3人とも急激なレベルダウンをしたようなの。髪や瞳の色も戻ったみたいだし、九鬼神様も忽然と消えてしまったの」

「まあ、ヒーローは最後の悪を倒すと、力を失い人知れず生きて行くのが定石(じょうせき)だしな。仕方ないよ」

 突然横から話しかけられてびっくりする。

「そうだったんですか? それに、九鬼神様がお父さんを止めてくれたんだ」

「茜も気が付いたの?」

「ええっ、一覇会長と征哉先輩が話し始めた頃からずーっと起きていました」

「そうですか……。では、皆さんを呼んできます」

 一覇は、そういうと病室から出て行った。


「茜、一つだけ聞いていいか? お前、九鬼神から聞いていたのか? 自分の子ども、甲斐君だったか、が征覇と結婚するってこと?」

「うん、私、その話を聞いて救われたんだよ!」

 茜が俺をまっすぐ見て、最高の笑顔で答えたのだ。


 一覇は病室から出て、生徒会の真治や麗奈、一覇のご両親や、学校の友達を招き入れた。

 後は、がやがやと大変なことになったが、一覇の両親には一覇のスキルはいまだに健在なようで、一覇を守ったと大変感謝された。

それに学校も一部校舎が半壊したようだが、シェルターのおかげで全員が無事。過去から現れた鬼も、俺と一覇そして茜が退治して、大災害を未然に防いだということで、すごく感謝されたのだった。


「まあ、ヒーローの活躍としては、上々か……」

 俺は、騒がしさの中、ひとり呟いたのだった。


 

そういえば、八鬼との戦いが終わった後、ひっそりと一冊の小説が出版された。

 その小説の世界観は、封印された八鬼が次から次へとこの世界に蘇り、その八鬼を長ランや長いスカートの変形学生服を着た不良と呼ばれる一人の男と三人の少女が倒していく物語なのだ。今時こんなの流行らねぇって。

 そして、まったくの架空ファンタジーなのだが、なぜか鬼都湖であった南の離鬼(りき)と西の兌鬼(だき)の戦いだけが、まさに俺たちの戦いを見てきたように、息を飲むほどリアルで、臨場感あふれる描写なのだ。


 正義の味方は、自分から真実を語ることなどできない……。

 いつも、誰かが膨らませた空想が、たまたま真実の一遍に迫るだけなんだ。



 

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彼女と俺の相性は最強なのでラブコメ路線を外れて修羅場(物理)一直線である 天津 虹 @yfa22359

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