彼女と俺の相性は最強なのでラブコメ路線を外れて修羅場(物理)一直線である
天津 虹
第1話 プロローグ
一万数千年前、八卦を用いた八方位より、災い来りて、鬼と為す。
その鬼どもは、それぞれ、眷属となる十二支鬼を従えて、人の世を滅ぼす。
北には、坎鬼(かんき)そして、坎鬼が従える子鬼(しき)
北東には、艮鬼(ごんき)そして、艮鬼が従える丑鬼(ちゅうき)と寅鬼(いんき)
東には、震鬼(しんき)そして、震鬼が従える卯鬼(うき)
南東には、巽鬼(そんき)そして、巽鬼が従える辰鬼(しんき)と巳鬼(しき)
南には、離鬼(りき)そして、離鬼が従える午鬼(ごき)
南西には、坤鬼(こんき)そして、坤鬼が従える未鬼(みき)と申鬼(しんき)
西には。兌鬼(だき)そして、兌鬼が従える酉鬼(ゆうき)
北西には、乾鬼(けんき)そして 乾鬼が従える戌鬼と(じゅつき)亥鬼(がいき)
大地を鬼が埋め尽くし、世界中を地獄絵にしながら、鬼都に向かって百鬼夜行が洪水のように押し寄せる。
その時、時空の裂け目から忽然と現れた九鬼(くき)は、この鬼都の地で、神格を分けた眷属とともに、七日七晩、戦い続けたのち、自らを犠牲に八鬼を時空の彼方に封印した。
そして、人類に訪れるはずだった滅亡を未然に防いだのだった。
俺、九鬼征哉(くきせいや)の生まれ育った九鬼神社には、今も伝わる古文書に書かれた与太話と一枚の姿絵が残されていた。
九鬼が八鬼を封印したと言われる鬼都市。その都市は魔素と名付けられた未知のエネルギーが充満していた。そして、そのエネルギーを使いこなす人達が多数生まれてくるようになった。
魔素を使いこなす呪術を鬼道といいを鬼道によって得られた能力をスキルと呼ぶ。その人たちがスキルを使って世界中から富を集め鬼都市築き上げた。
その市の中心部に、有数の歴史を誇り、この国の政治や経済、そして文化や芸術を怪しいスキルを使って支配する家系の子女たちが通うらしい全校生徒が千人余りの鬼都学園高等部を舞台に、この物語は始まりを告げる。
らしいというのは、俺はこの学園の中等部に編入、上下関係がガチガチのブルジョア学園の中で、このカースト制の空気を読まずに振る舞い続けたため、目つきの悪さからくる悪人顔と相まって、クラスでハブられ、この学校の実体というものが、今一つ理解できないまま、高一の時に遭ったある事件のため、今やクラス中から無視されることになり、クラスの空気の一部と認定されているからだ。
しかし、こんな俺でも、いざ、面倒臭い仕事が発生すれば、クラスの連中は一気に団結し、俺にその仕事を押し付けてくるのだ。
そこで押し付けられた仕事と言うのは、高二の二学期が始まり、生徒会役員の改選のための会長選挙を取り仕切る選挙管理委員会の委員の仕事である。
会長に立候補したのは、一年の時から副会長の職務をこなし、その容姿と言動は、学校中の生徒を魅了し、羨望と尊敬を一身に集めていた一条院一覇(いちじょういん いちは)であり、彼女の出馬により、他の対抗者は揃って辞退していた。
そのため、先日、彼女の信任投票が行われ、先ほど投票結果を発表したところなのだ。
「ああっ、なんでこんなことに? 信じられない」
一条院一覇は、自身の鬼都学園生徒会会長の投票結果について、納得が出来ずに、選挙管理委員会に抗議すべく、単身、選挙管理委員会室に乗り込んできていた。
委員会室の扉を開け放った一条院一覇。
その顔は、投票結果を見て、慌ててきたのだろう、やや高揚したほほは赤みを帯びていて、整った顔立ちをより一層際立たせ、背中まで伸びた青みがかったストレートの黒髪は少し乱れて、髪の色と同様、少し青みがかった大きな瞳と高揚したほほに掛かっている。
そして、そんな状態でも彼女の美しさを妨げることはなく、より一層輝きを増し、その容姿も、痩せすぎもせず、太りすぎもせず、出る所は出て、引っ込む所は引っ込み、その比率は、太古の昔から、男の遺伝子に刷り込まれた理想の黄金比であることは、その制服のミニスカートから覗く太ももからもからも、俺も納得ずみだ。
しかし、俺が知る彼女の武器は、その卓越した容姿だけではなかった。
一条院が扉を開け放った瞬間、選挙管理委員会室の空気が変わる。
一条院が、何を考え、何を訴えるのか? その場の空気は、有無を言わせず、彼女に付き従い、彼女の理想の有るべき姿を実現する。
日本有数の財閥のお嬢様である彼女の生まれ育った背景がそうするのか、彼女が覇道を突き進むうちに身に着けたのか詳しいことは解らない。ただ誰ひとり、彼女に逆らうことができないだけなのだ。
いや、彼女が生きていく中で、ひとりだけ、その空気に従わない者がいたのだ。それはもちろん俺なのだが。
「あの、生徒会長選挙の結果について、聞きたいことがあるの。教えてくれるかしら?」
一覇の尋問に、逆らえる雰囲気はない。
すでに、席を立っていた委員長は、気圧(けお)されながらも口を開いているようだ。
「あの、一条院さん、なにを教えればいいんですか?」
「わたくしの生徒会長の信任投票、一票だけ不信任票が在ったんですが、それが誰かを教えて欲しいのよ」
「えっと、あれは、無記名式なので誰かは分からないんですよ」
尋ねられた委員長は、ほっと安堵している。
分からないということは、選挙管理委員長としての尊厳を辛うじて保つことができる。
選挙の四原則のひとつ秘密投票に関して、誰が誰に投票したか? 投票の有無も合わせて選挙従事者が守るべき原則でさえ、一条院の放つ空気の前では、意志に反して無効にされてしまうのだ。
しかし、委員長、たかが生徒会役員選挙で気を使いすぎじゃないのか? それに、一条院さんもムキになりすぎだろう。
しかたなく、その空気の中、俺はとぼけたような声を出して答える。
「ああっ、それって俺だ。悪い、悪い。別に一人ぐらい、反対したってどーってこと無いと思っていたんだけど、まさか、俺一人だったなんてな」
「九鬼征哉! また、あなたなの?」
「九鬼君、それを選挙管理委員会が言うのって不味(まず)いって」
一条院と委員長が同時に声の方を向いて、驚きの声を上げる。
まるで、それまで、その場に俺が居なかったように。
「別にいいだろう。俺なんかクラスで無理やりにやらされただけなんだから。それに、個人が誰に入れたかを勝手に話すのは、守秘義務の範疇に入らないんだよ」
不機嫌さを全開にして、俺は委員長と一条院を睨み返す。
俺は目つきが鋭く、髪は短髪で、茶色に染めている。それに、締めているネクタイを大きく緩るめ、品行方正な生徒ばかりが目立つ鬼都学園の中ではひと際異彩を放って、威嚇しているはずなんだが、彼女の怒りは収まらない。
「あなた、わたくしのあのすばらしい演説を聞いても、心を動かされなかったとでも?」
「演説って「わたくしに従いなさい。そうすれば、この鬼都学園を世界一の学園にして見せるわ」って一言だろう。もっと具体的に、何か言ってくれないと信任も不信任もないだろう。
せめて、夏休みと冬休みを世界一長い学園にするって公約でもしてくれないと、俺は信任する気にならないな」
「あの演説を聞いてそんな風に考える人が居るなんて、もっと庶民は盲目的だと思っていたわ。 それにしても……。わたくしが話を始めて、思考を巡らせることができる人間がいるなんて。いや、わたくしがまだまだ未熟だということですわね……
まあ、確かに、あなたの言うように、休みを長くするというのは検討に値しますわ。この学園の生徒たちは、休みは、海外のリゾート地で、自らの見聞を広めたり、親の仕事を手伝ったりして、人脈作りに当てていらっしゃる方も多いですしね」
「いや、その理由は俺には当てはまらないんだけど」
「まあ、誰がわたくしを不信任にしたかが、知りたかっただけですから、疑問は解決しましたわ」
一条院は、一番知りたかったことがはっきり分かって、すっきりした。と言うか、もともと、そういう予感はあったと顔に書いてある。
何か考えごとをしているような一条院さん。何か悪いことでも企んでいるのか?
(二年になって、初めて同じクラスになった九鬼征哉。たしか、八方位から災いをもたらす八鬼を封印したという九鬼神、この九鬼神を祀り、この鬼都市を結界で守るために、建てられた九鬼神社の跡取り。
クラスで、たった一人、あえて空気を読まない男。
私にとっては、初めて見る類(たぐい)の人間です。いや、同じクラスになる前から二度ばかり、ある事件があって面識だけはあったわ)
(そして、わたくしが届かなかった中、私の正義を執行した代行者)
二コリと笑って、一条院は選挙管理委員会室を後にする。
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