第42話 そして数日後、
そして数日後、俺は未体験のくちどけとカカオの風味の生トリフチョコとチョコチップクッキーを、二人から共同名義でプレゼントをされたのだった。
「義理チョコだからね。本気のお返しとかマジ勘弁、笑えないオチはいらないからね」という手紙が添えられていた。
「ふうっ、二人とも、なんとかいつものペースに戻ったみたいだな」
同じようにチョコとクッキーを貰って、食べている九鬼神に向かって話しかけた。
「そうじゃのう。共同名義とは知能犯じゃ。どちらかに本命のお返しをするわけにはいかんからのう」
そう返された俺は一覇と茜の顔を思い出し、「二人の機転に、一番救われたのは、俺かもな?」、誰にも聞かれないようにつぶやくのだった。
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そして、日常を取り戻した一覇と茜は、また九鬼神社に現れるようになった。それに電話やメールも、また来るようになっていた。
今日も、九鬼神社の社務所に集まり、丸椅子に座って八鬼対策を講じている。
次の結界解呪の媒体となる祭りは、三月三日の上巳(じょうし)の節句だ。そして、結界が破れて、次に出てくるのは未来が予知できる坤鬼(こんき)が最有力候補。
一覇がインテリらしく未来予知の原理を俺たちに、レクチャーしてくれる。
「未来予知といえば、ラプラスの悪魔でしょう。ラプラスという科学者が、世の中のすべての物質の運動を、一瞬で分析できたとしたら、未来に起こる物理現象は、すべて予測できる。そして、そんな物がいたとしたら、それは悪魔に違いないといったことから、未来を予測することをラプラスの悪魔って言うようになったんです」
「ふーん。でも、テレパシーとかの可能性は? ほら、妖怪サトリみたいに相手の心を読んで、対応しているのかもしれないぞ」
「それは、無いじゃろう。わらわの信徒の大軍がまんまと、沼地に誘い込まれ、そこに雷の連撃を受けて惨敗を喫したからのう」
「なに、坤鬼は天候も思いのままに扱えるのか?」
「いや、坤鬼は沼地に落ちる落雷を予知したのじゃ」
「なるほど、ということはやはり一覇の言う通り、ラプラスの悪魔って言うことなのか」
「そうじゃな、しかし、前の様にはいかん。こちらには天候さえ変えるスキルを持つ一覇がおるのじゃ」
「そうか、じゃあ楽勝か?」
「そうもいかん。こちらの攻撃は、すべて躱されることに変わりはない」
「九鬼神、でも、坤鬼は一条院宙に封印されたんだろう。だったら予測されたとしても、一覇だって可能だろう」
「そうじゃな。一覇もレベル50を超えておる。魔素を操る能力は、宙にも劣らんじゃろう」
「なら、俺の考えは坤鬼に通用する。あいにく、今の時代じゃ、ラプラスの悪魔は否定されているんだ」
魔素とは、空気中に存在する電子より小さい素粒子エネルギー。それなら……。
俺は組み合わせた両腕に力を籠める。そう死なないと思うからからこそできる特攻。ただし、死なない保証はどこにもない。小刻みに震える。その手に一覇と茜の手が重なった。
「わたくしたち、正義の味方は負けません!」
「うん!」
全くだ。何をビビッてんだ俺。正義の味方に必要なのは覚悟だろ。
「ところで、九鬼神。坤鬼ってどんな姿をしているんだ? 未鬼(みき)と申鬼(しんき)は大体わかるんだけど」
「そうじゃなあ、三面六臂の大男じゃ。全身至るところに目が在るバケモンじゃ」
「全身に目が在るだって?」
「それ、気色悪いです」
「そうじゃ、その目で現代のあらゆる事象を見通し、未来を予想していると言われておるのう」
「障子の格子にでるバケモンなら、すべて墨で塗りつぶしてやればいい! よし、準備を始めよう」
坤鬼と未鬼と申鬼はこの九鬼神社の裏山で迎え撃つ! 四人は、早速、結界と召喚のための魔法陣を用意するのだ。
そして、上巳の節句当日、学校が終わって、俺たちはすぐに九鬼神社に集合する。
裏山に張った結界や魔法陣は、前回、乾鬼と戦闘した痕地。未だに木々が倒れ、大地が抉れ、生々しく残っている場所に設置している。
そして、すでに日没、俺たちは魔法陣を注意深くみているのだ。
「すごいよな。女の子の誕生や成長を祝う気持ちに混じって、鬼に厄を押し付けているんだけど、それが鬼を強力にして、結界を解呪する原因になっているとは思っていないんだろうな」
「そうなの? わたくしにはよくわからないんだけど?」
「ほら、替え歌にあるだろ。明かりを付けましょ爆弾に~、ドカンと一発、禿げ頭~」
「なによ、それ?」
「まあ、どんな祭りにも、闇があるということだろうな」
俺は一覇にもっともらしく返事をする。
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