第46話 そうこうするうちに
そうこうするうちに、入学式の準備もほぼ終わり、俺は鬼都市から五〇〇キロ以上離れた大本神社に神主としての修行に出発した。
そして、九鬼神も俺に付いてきていた。それにしても、俺の悪寒はますますひどくなってきて、世界規模の不穏な空気がこの国に流れ込んできているのを知覚している。
何なんだよ。この空気、一体なにがあるって言うんだよ!
一方、四月一六日にこの国に帰って来た一覇は、翌日さっそく学校に出てきていた。生徒会室で、茜たちと合流していた。
「みなさん、迷惑をかけてすみません。それでは、今日から通常通り学園生活を送りましょう。それに、あと一週間で入学式があります。大体、準備の方は滞りなく進んでいます。当日に向けて頑張りましょう」
そして、真治と麗奈に指示を出した後、茜に向かって呟く。
「征哉秘書とは、もうしばらく会えなさそうなんですが、元気にしていましたか?」
「それが、なぜか体調が悪そうでした」
「征哉が? 大丈夫かな」
「それが、いつもの悪寒みたいで、艮鬼の出現をすごく気にしていました」
「それはまだまだ大丈夫でしょう。そういえば、アメリカからお土産を買ってきたんですが……。渡すのはまだ先になりそうです」
「そうなんですか?」
「あっ、いえみなさんにもちゃんとありますよ。征哉秘書と同じものが」
そう言って、紙袋をみんなに渡していく。実は、家に置いてきている征哉用には別のお土産を用意していたのだ。
「一覇会長、ありがとうございます。ところで中を見ていいですか?」
「どうぞ、開けてみて」
開けてみた茜は、感動の声を上げた。
「可愛い!」
それは、ウサギの耳を付けた卵で、その中には、綺麗なハンカチチーフとお菓子の詰め合わせが入っていた。
「一覇会長、これは?」
「アメリカでは、イースター祭の前で、町は結構盛り上がっていたの。この国では、まだそんなに馴染みがないみたいなんですけど。春分の日を超えて満月を過ぎた後の最初の日曜日、ということで、本日がイースター祭と言うことになりますね」
「イースター祭ですか……」
よくわからなかった茜は、スマホでイースター祭を検索してみる。
「キリストの復活祭ですね。行った国ではクリスマスの方が圧倒的に有名ですよね」
茜はそれを聞いてピンと来た。
クリスマス、復活、慌ててその祭りの裏に存在する儀式が思い浮かんだ。さらに、それらのワードを含めて再検索をしてみる。
それは、やはりある宗教団体の悪魔復活の儀式であり、最悪の召喚術式が組まれているのだ。
「一覇会長、まずいです。イースター祭、悪魔復活の儀式です」
「えーっ、本当なの。わたくしたら浮かれて、まったく思いも付きませんでした」
一覇と茜の顔には、困惑の表情が浮かぶ。痛恨のミスである。征哉不在で、この難局に立ち向かわなければならないのだ。
「一覇会長、あれをみてください!」
真治の指さす窓の外には、グランドの上空、周りの不穏な空気を取り込みながら黒い渦が巻き、時空の裂け目が浮かび上がっている。
「真治、麗奈! 学校に居る生徒達には避難勧告を、グランド及び校舎は立ち入り禁止。各校舎にあるシェルターに避難誘導、茜は学校にあるシェルターを練成による強化を! 私はグランドに行くわ!」
「私もグランドに!」
「ええっ、シェルターの強化が出来たら、茜もお願い!」
一覇は、校舎の怪談を駆け下りながら、スマホを取り出し、征哉の現状を説明しようと電話した。
呼び出し音がしばらく鳴り、「ピーという音の後にメッセージをお願いします」という音声が鳴り出した。
「あの男、こういう時に限って役にたたないんだから!」
一覇は毒づきメールを打ち込む。
「征哉、艮鬼が現れるよ。早くメールに気付いて、正義は最後には必ず勝つんでしょ。ヒロイック・フィールド展開!!」
そして、スマホをポケットにしまうと、階段を駆け下りながら、変身する。
「いつものように、三人じゃない。だったら、掛け声はこれね。
アテナ・メーク・タッチ!!」
銀色に輝く光を纏い、その光から飛び出してくる姿は、まさに天衣に鎧を纏った美と戦いの神。銀の光を引きながら、グランドに駆け付けるのだった。
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