第24話 俺は見たことも無い金
俺は見たことも無い金の単位にため息を吐く。
ただし、その割り振りは、一覇と真治副会長、麗奈会計が、ほとんどやっているのだが。
それを見ていた俺と茜に声を掛けて来た一覇。
「征哉庶務に、茜書記、仕事が一段落ついたから、お茶の時間にしましょう」
そういうと、別室のドリンクバーに言って、次から次へとコーヒーや紅茶を入れているのだ。
「なんか、こんな態度も少し変わったよな」
「そうですね。最初のころは、まさか一覇会長がお茶を入れてくれるなんて思ってもいませんでした」
俺と茜がそんな話をしている間に、一覇はお茶を入れ終え、ココアを誰もいないテーブルの上に置いて机の方に戻ってくる。
さっきから、隣の部屋で点いているテレビの音、うるさいんですけど、しかも写っているのは、昔のヒーローもののビデオなんですけど。
俺は空気になっている九鬼神の傍若無人ぶりに呆れているが、真治と麗奈はまったく気が付いていないらしい。
そして一覇がコーヒーを一口、口に含むと遠慮がちに話を始める。
「えっと、今回の予算割ですが、少しお金が余りそうです。それで冬休み返上で仕事をしているみなさんの慰労を兼ねて、このお金で生徒会役員の忘年会というか、クリスマス会を開きませんか?」
「「「「賛成(です)!!!!」」」」
全員、一覇の言葉に頷く。もっとも、一覇の発言に意義を唱えることができるのは、一覇よりレベルの高い俺か茜しかいないのだが、茜は基本一覇には逆らわないし、俺も他人の金で遊べるなら文句はない。
「クリスマス会って具体的には?」
どうせ、一覇はすでにすべての段取りを終えているのだろうが、一覇に聞いてみるのだ。
「みなさんの予定を聞いてからと考えているのですが、二四、二五の二日間、鬼都市のはずれにある温泉旅館、鬼都隠れ家の宿はいかがでしょうか?」
「「「「いいですね」」」」
全員、一斉に頷いている。なるほど俺も異議はない。鎮守の森と鬼都湖に囲まれた、金持ちどもの隠れ家的存在。人と会う煩わしさを配慮して、ほとんど顔を合わせないように広い旅館内に泊まれる部屋は五部屋しかない超高級旅館だ。クリスマスの喧噪から離れた静かな場所でクリスマスを祝う。捻くれた俺には最高の演出だ。
しかし、あの宿、確か一泊一〇万はしたはずだが。お金が少し余ったの感覚が俺の感覚と二桁以上違うようだ。
「この時期、泊り客もほとんどいません。なにか作家が一人だけとか。ほとんど、貸し切りの様です」
まったく、一覇の奴、俺に嬉しい情報を次から次へと提供してくれる。
「賛成だ。賛成! まったく異議なし」
俺は、一番に声を上げ、一覇のレベルアップに貢献してやった。
「それでは、決まりでいいですわね。二四日の一時に学校に集合してください。鬼都隠れ家の宿には、一条院家から車を出します」
「ごめん。俺、その日町の方に用事があって、後で個別で行っていいかな?」
そう二四日、一二時は、あの人気ゲーム、ファンタジーガールのゲームソフトの販売日、ここで手に入れなければ、いつ手に入るかわからない。
「でも、鬼都隠れ家の宿は鬼都市のはずれですし、電車もバスも通っていませんよ」
「大丈夫。俺に考えが在るから」
ちょっと、校則違反なんだが、あんな辺ぴなところ、人に見られることもないだろう。ここの人たちは一覇のスキルでなんとかして貰えばいいし。
「そうですか……。それでは、征哉庶務だけ現地集合という事でよろしいですね」
「「「「はい!!」」」」
続き間の別室では、九鬼神は、大喜びしてはね回っている。
「それでは、仕事の続きを始めましょう」
また、生徒会室は、キーボードを叩く音と電卓を叩く音が静かに響き、そして、俺は生徒会室のパソコンをネットに繋いで、鬼都隠れ家の宿のホームページにある美女の入浴シーンを見てニヤニヤしているのだ。
それから一週間ほど過ぎ、今日は二四日である。
今日は始発で町の中心部に出かけ、糞寒い中アニメ―タの前で朝から並んでいる。
当然、ファンタジーガールのゲームソフト、特典つきの初回限定盤の購入のために並んでいるのだ。
店が開く三〇分前に、店の人が出てきて整理券を配り始めた。入荷分だけしか配らないとのことで、俺は始発から出て来た甲斐があって整理券を貰えることができた。
この整理券は当日のみ有効で、無くした場合は再発行もできない。それで一二時にはこちらに戻ってきて、商品と交換するように説明された。
わくわくしながら、十二時まで町をブラブラすることに決める。町はクリスマスセールに沸きたち、大勢の人が街中で押し合いへし合いしながら商店街を進んでいる。
俺は少し人ごみを避け、脇道に入ったところにある自販機で、缶コーヒーを買って、その横のベンチに座っている。
そして、落ち着いたところで初めて空気の異常さに気がついたのだ。
「なんだ? この場の空気……」
クリスマスを祝う晴れやかな空気が暴走を始めている。気持ちが空気に流され、またその空気を作っている。それだけなら良いんだが。その空気にどす黒い邪悪な物が混じっている。理性のタガを外そうとする空気。その空気が大きく膨れ上がっている。
さらに、その空気に気が付いた途端、俺の背中に悪寒が走る。
時計を見ると一二時前、どうする? でもまだ、それほどの悪寒は走っていない。
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