第19話 一方、風呂に入った三人は

 一方、風呂に入った三人は‥‥‥。

 体を洗い終えた一覇が、髪をアップにまとめ上げ、湯船に入っている茜に話しかける。

「まあ、ギリギリ三人が入れる広さですよね。うちのお風呂の方が広いぐらいです」

「でも、檜のお風呂で、木の香りがして、気持ちいいです」

「そうね。大理石のお風呂もいいけれど、たまには木のお風呂もいいですわね」

 そこに、九鬼神が飛び込んでくる。

「なんじゃ、お主ら、良いちちしとるの。わらわは魔素をここから一番吸い取られたようじゃ。それにしてもこの感触、一番安らぐようじゃのう」

 そういって、一覇に抱きついてゆく。

「あの九鬼神様、そこは……」

「別に、女どうし、構わんじゃろ。わしも久しぶりに抱っこされたいのじゃ」

「そうですか。困ったものです」

 そう言う一覇も、まんざらでもない様である。


「ところで、茜さん。わたくし、九鬼神さまの絵を見て思い付いたことがあるの。ほら、やっぱり、ヒーローには付き物じゃない」

 そういうと、一覇は茜の耳元で囁く。茜は耳が弱いのか、ちょっと体をよじっている

「一覇さん。くすぐったいです。でもそれ面白いです」

「でしょう。アイテムは私が用意するから、あなたは、魔素を付与してください。あとサイズも教えますから」

「はい、頑張ります」

「なんじゃ、お前ら、わらわに内緒ごとか?」

 そう言って、九鬼神が一覇の身体をくすぐり始めた。

「あん……。もう……」

 そうして、お風呂の中で、三人のキャッキャ、ウフフが始まった。

 そして、たっぷり一時間後、浴衣を着た三人が、暖房の効いた居間に戻って来たのだった。


 俺は、濡れた髪をアップにして、色っぽいうなじを見せる一覇と茜に、目は釘づけだ。 

しかし、浴衣の前をきっちり合わせているあたり、かなり俺を警戒している。

「お風呂、お先でした。この恰好であなたの前をうろうろしていると、身の危険を感じるわ。すぐに、客間に行かせてもらいますから、あなたは入ってこないでね」

 そう言って俺に釘を刺していく一覇。やっぱり、俺はパジャマパーティに呼んでもらえないようだった。がっかりしても仕方ない。俺もひとっ風呂浴びてすぐに寝るか。傷口はふさがったとはいえ、体中まだまだ、ずきずきと痛みを感じている。


俺は、風呂の中で、体を伸ばしのんびりする。当然ながら、美少女たちの残り湯に興奮する異常性癖は持ち合わせていないのだ。そう宣言しながら、先ほどまで湯船に浮ぶ髪の毛、あくまで髪の毛なんだが、を探してみたりしたのだが、さすがしつけが行き届いているようで、綺麗に後始末されていた。

 はあー、思わずうなり声が出た瞬間、俺はいやな予感に囚われ、背中に悪寒が流れる。

「なんだよ。風呂で温まっているのに、悪寒って……」

 俺はすぐさま風呂から上がり、寝間着がわりのジャージを引っ掴み、脱衣所を飛び出して行く。


 一方、一覇、茜そして九鬼神がいる客間では、一覇が茜に指輪を渡し、魔素を付与する錬成を行っていた。

 そして、廊下をばたばたと走り抜けていく俺に気が付き、客間のふすまを開け、外の様子をうかがおうとする九鬼神。

「お主、何を慌てておる。なにが有ったんじゃ?」

 俺に声を掛けて来るが、俺にも何が起こるかは分からない。嫌な予感がますます大きくなっていくだけだ。

「わからん。いやな予感がするだけだ!」

 そう俺が叫んだ瞬間、大きな振動が、空間を揺るがす。まるで、地震が起こったみたいだ。

「なにが起こったの?」

 一覇も茜も、部屋から出てくる。

「わからん。だが震源は神社の方だ」

「わたくしたちも行きます」


 そして、神社の方に行くと、鳥居に架かるしめ縄が千切れ飛び、鳥居の中心の空間が、ひび割れ、中からどす黒い邪気が溢れだしている。

「なんだ。これは?」

 俺の問いに九鬼神が答える。

「時空が裂けておる。結界が破られるぞ!」

「なら、わたくしのスキルで。時空よ閉じよ! 結界よ閉じよ!」

 一覇が場の空気に作用して、結界を閉じようとするが、さらに、亀裂は大きくなり、中で蠢く闇が、目視できるようになっていく。

「一覇のスキルが無効化されるとは……。まずい。これは震鬼がこじ開けようとしておるぞ」

「震鬼だって! 早すぎるだろうが!」

 俺が、意味の無い抗議を九鬼神にすると、今までで最大の衝撃波に見舞われた。

 足を踏ん張る俺と九鬼神に対して、一覇と茜は、そのまま、後方に吹っ飛ばされる。転んで股を開いている一覇と茜、パンツ丸出しで、乱れた浴衣からは、白い素肌が覗いている。

ブラジャーは付けてないのか? そんなわくわくな状況でさえ楽しむ暇もなく、時空が数メートルわたって裂け、中からうさぎを大型犬ほど大きくした魔物が、獰猛に赤く光る吊り上った目に、大きく避けた口には、犬歯(けんし)が並ならび、一瞬で人間をえぐりとれる鋭い角を振りかざし、時空の隙間から飛び出してくるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る