第18話 そして、座卓と水屋箪笥が置かれた居間に

 そして、座卓と水屋箪笥が置かれた居間に座らせると、水屋箪笥の引き出しを開け、封筒を取り出す。

 たしか、親たちが旅行に行く前に、俺に当面の生活費と言って置いていった金が在ったはずだ。

 もっとも、俺は庶民派だし、ここ一か月の生活費はバイト代で何とかやっている。だから親が置いていった金には、一切手を付けていなかったのだが。

 初めて確認した封筒の中身は五〇万円。やはり、俺の親らしくしけた金額だ。おまけに手紙が入っていて、「四方八方から災いがやって来る(・o・)。わし等は海外に避難する(T_T)/~~~。後は頼んだ<m(__)m> 」って、あのおやじ、やっぱり、八鬼の復活をうすうす感じていやがった。しかも可愛らしい顔文字付だ。仕事を放棄するのもいい加減にしてほしい所だ。

 もっとも、光熱水費や保険代は、口座引き落としになっているはずだから、実質、食費だけで半年を五〇万円とは少し微妙な所だ。あのおやじ、九鬼神までここに転がりこむとは予想していなかったようだ。

「悪い、みんな予算不足だ。タヌキ屋のかけうどんでいいか?」

 俺は、近所にある大衆食堂のタヌキ屋のかけうどんを提案する。

「「タヌキ屋? かけうどん?」」

 一覇と茜が、疑問符を投げかけてくる。

「ほら、この近所のでっかい金……、いやタヌキの信楽焼きの置いてある店だ。結構うまいぞ」

「わらわは、かつ丼じゃ。たぬき屋のかつ丼が、久しぶりに食べたいのじゃ!」

「こら、九鬼神様、お前、かつ丼を食ったことがあるのかよ?」

「おおっ、一万数千年前にも、かつ丼はあったんじゃ」

「じゃあ、かつ丼でいいか。お前らもそれでいいよな?」

「九鬼神様がそれをお望みなら」

 一覇が言い、茜も頷いている。俺はそれを見てタヌキ屋に電話で注文する。


 タヌキ屋は暇だったのか、注文したかつ丼はスグに来て、みんなでかつ丼をかっ込むのだが。もちろん、一覇はおっかなびっくり、茜も上品に少しずつ半熟玉子が絡まった米粒を口に運んでいる。

 お前ら、ペースを上げないと、喰い終わるまでに、日付が明日になるぞ。それに比べて、九鬼神の食べっぷり、カツから豪快にかぶりついている。なんか微笑ましいな。

「このだし汁を吸った衣が、格別なのじゃ。一覇、お主、この甘辛い味、わらわの好みじゃ。しかと覚えておくのじゃぞ」

 九鬼神のやつ、なに一覇に自分の好みを教えているの? 今度から飯は一覇にたかろうとしているのか? それはそれで助かる。

 そうこうしている内に、一覇と茜の家の者が俺の家を訪ねてきた。どうやら、着替え一式を持ってきたようだった。明日、明後日は文化祭の代休で学校は休みだが、男の家に泊まるのは問題ないのか? あっ、そうか、一覇のスキルを持ってすれば、別に言い訳を並べる必要もないのか。


 そして、みんな、かつ丼を食べ終え、茜の入れてくれたお茶をすすっている。

「おい、お前ら、先に風呂に入れよ。うちの風呂、大きいから三人いっぺんでも問題ないぞ」

「征哉君、あなた、三人いっしょに風呂に入れて、見張りが居なくなったところで、覗こうと考えているんじゃないでしょうね?」

「ギクッって、違うよ。お前ら、女子は風呂が長いだろうが。三人別々に入ると、それこそ三時間ぐらい掛かちゃうんじゃないのか。そんなに待たされたら、俺、寝ちゃうから」

「まあ、信じているわよ。なるほど、こうやってわたくしはレベルを上げればいいわけね」

 そういうと、いままでのお茶らけた空気から、本当に覗かれたら嫌そうな空気に変えられた気がした。

「まあ、そうだな。俺もレベルが上がってギブアンドテイク。約束しよう。絶対に覗かない」

 最強のスキルを持つ一覇のレベルが上がるのは、これから鬼との戦いに臨む俺たちにとって、最重要課題だ。なるほど、俺はこうやって一覇のしりに敷かれることになるのか……あーあっ。

「それでは、わたくしたち、お先にお風呂を戴きますわ。あら、寝間着を忘れてきていますわ。困りました」

「あれ、私もです」

 一覇と茜が、家の者が持ってきた旅行鞄の中をごぞごぞした後、ため息を吐(つ)いている。

 お前ら、友達同士、お泊り会とかしたことが無いのか? パジャマパーティの定義から、教育してやろうか? だが、それはそれでチャンスかも知れない。

「うちに、来客用の浴衣があったはずだ。それを着るか?」

 俺の自分的には魅力的な提案は、一覇によって速攻で否定される。

「でも、ここ寒くって。浴衣は寒いですよね」

「わかった。暖房をガンガンに効かせるから」

 俺は薄着と聞いて、速攻で代案を提示する。どうせ暖房の電気代は、親の懐から出て行くのだ。

「仕方ありません。制服で寝るわけにもいきませんし」

 やっと一覇を納得させた。ところで九鬼神の下着とかはどうするんだ?

 そう考えていると、一覇は九鬼神に子供服の高級ブランドの紙袋を手渡している。どうやら、その辺の所は抜け目がないらしい。


 俺が、押入れから浴衣を引っ張り出して、三人に手渡し風呂場に案内する。

「それじゃあ、ごゆっくり。俺はその間に、布団を敷いて、暖房を効かせておくから」

「わかったわ」そう言って、脱衣所に入っていく三人。気配を探れば、服を脱いでいく音が聞こえる。俺は、ゴクリとツバを飲みこんだ。

「さて、布団を敷きにいきますか」

 俺は聞こえるように声を出して、その場を離れていく。

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