予兆
林間学校
出会った日の中休みに4人で話した時はまだ
別のクラスの異性を訪問!
それは最早、告白も同然!
実際は告白でなくても訪問を目撃したクラスメイトたちからは勝手に告白と決めつけられ、キャーキャー騒がれることは必定!
それは、とても恥ずかしい‼
だが
しかし、それしかないなら……と中休み後の授業中に悲壮な決意を固めていたところ、昼休みに2人のほうから1組を訪問してきて杞憂に終わった。
正しくは、
当然、騒ぎになった。
ただ女子が男子を訪ねたに留まらない。
そのヒロインである
だが
《助けてもらったお礼がしたくて、でも恩が大きすぎてすぐには返しきれないから、時間をかけて返していきたいの。だから……これからも、会ってもらえますか?》
《うん!》
恩返し、それは人として至極当然の義理。それを果たすという名目で会い続けるのなら、それは恋愛とは別の話。少なくとも周囲にはそう説明できる。
それは
ともあれ。
そして
4人組の完成。
かくして4人は、登校時間も休み時間も下校時間も休日も、会える時間にはほぼ毎回 会って一緒に遊んだり勉強したりするようになった。
いくら恩返しと説明しても
からかわれるのを嫌がっていた
(これ、二股じゃ、ないよね?)
相変わらず
女友達が2人いるのを二股とは言わない。
なんの問題もないはず。
大体、どちらからも恋愛感情を告白されたりしていないのだ。どちらにもそんな気はなかったとしたら自分の自意識過剰、恥ずかしすぎる。
こんなこと考えていてもしょうがない。
今はただ、これまでは
なお。
《恩返し、自分から言いだしておいて内容は決めてないの。どうすれば喜んでもらえるか分からなくて。だから
《なんでも⁉》
気になる女の子からそんなことを言われては、
助けた恩を盾に取って関係を迫るなど最低だ──という正義感もあったが、そもそも己の性欲を女子に知られること自体、性に目覚めて日の浅い少年には恥ずかしすぎて無理だった。
それで──
〔一緒にいてくれるだけで嬉しいから、それで充分だよ〕
──と。
実質『なにもしなくていい』と、恩返しと気負わず普通に仲良くしてほしいと答え、
これで良かったんだ!
ああでもHしたいな!
(
返される恩のない
だって、胸が大きいから。
ただ
《見てた? なんか用?》
《なんでもありません‼》
その度にそのおっぱいに色々とする妄想が沸きあがり、友達に性欲を覚えていることへの罪悪感にさいなまれ、それが当人にバレる恐怖に怯え、何重にもドキドキして心臓がヤバくなった。
(こんなドキドキ、恋とは言えないよね)
なお
が、袖なしの夏服からのぞく首周りや腕、性的でないはずのその辺りの白い肌を見るだけでも、
(僕って奴は……!)
これではやはり告白などできない。この気持ちは恋じゃない。こんな奴が『好きです』とか言ってもHしたい下心で言っているとしか思えない。
ただの性欲を愛と偽り告白するなど、愛という神聖な感情と、相手の尊厳への冒涜だ。そんなことは許せない。たとえHさせてもらえなくても2人を大切に想う気持ちは確かだから。
……と。
内心では思春期の男子らしい懊悩をしつつも、表面上はただの仲良しグループとして2人との日々を送った。それは楽しくて、幸せで──
世界が鮮やかに変わった。
それまでとは比べものにならない濃密な時間。7月7日に出会ったばかりなのに、7月下旬の一学期の終業時にはもう数年来の付きあいのように感じていた。
そして、夏休みが始まった。
¶
夏休みに入ってから数日後。
それは学校の教師に引率されて生徒たちが山間部や高原にある施設に泊まり、野外活動や博物館見学などを行う校外学習。
要は泊りがけの遠足だ。
そして当日の朝、宿泊用のバッグを担いで家を出て、近所の
「
「おはよう、
「オハヨ。
「おう、おはよう」
明るく元気な
4人は夏休みに入ってからも毎日一緒に遊んでいる。今日も、違うクラスでも一緒に行動できる時間にはずっと一緒にいようと決めていた。
が、さっそく〔一緒にいられない時間〕がやってきた。学校前に数台のバスが到着。宿舎まで向かうバスで、1クラスにつき1台。出発時刻になり
「
「うん、またね」「じゃーね」
「リッカ、急げよ」
「分かった! 2人とも、じゃ!」
「はーい♪」「バイバイ」
担任の命令で呼びに来た
バスが、発車した。
担任やバスガイドの話が終わると、すぐに車内が騒がしくなった。クラス一同で同じバスに乗る機会はこういう時に限られるので、その非日常感だけでもう皆テンションが上がっている。
そして外にはしばらく見慣れた景色が続き、車内では
「大きい車って、いいよね」
「ああ、いい……」
「だって改装すれば──」
「「ロボットの移動基地になる!」」
声をハモらせた2人は顔を見合わせ、ニッと笑いあった。創作上のあらゆる搭乗式ロボットは当然、人よりかは巨大だが、それでも大型車両に積みこめるほどには小さい物も存在する。
それから2人は『このバスを改造して客席を取っぱらい、後ろ半分をロボットの格納庫にし、前半分を指令室にする』などと空想を膨らませて語りあう。
久々のロボット談義だった。
反面、
彼女たちのせいとは思わなくてもロボットについて語る機会が減って、欲求不満だったらしい。抑圧が解放されたことで時を忘れて話に花咲かせ、気づけばバスはどこかの湖畔を走っていた。
夏の太陽をキラキラ反射する水面。
バスガイドの声がマイクで響いた。
『こちらは【
社会科の授業で習った。
地名の暗記など退屈でしかないが、そうして習った土地を実際に目にするとなんだか嬉しく、勉強した甲斐があったと思う。霞ヶ浦がある都道府県は……そう、
学校から北東へ向かったバスは
林間学校の宿舎もこの県にある。
もうそんな所まで来ていたのか。
バスはほどなく湖の近くの工場で停まり、
宿舎に着く前に、これからここで社会科見学。ここはクラス別行動ではないので、バスを降りた
「
「
「……よっ、
「
「「
「……おう」
『ようこそ皆さん!』
拡声器を使った男性の声。ここの人だろう、朗らかな笑みの
それはショベルカー、車輪が
まるで、ロボットのようだった。
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