ただしイケメンに限る
私立カルセドニア学園・中等部──1年A組。
本日、1学期の授業初日の
実は彼は即座に退学になって公立中学に転校になったのだが、彼の元・同級生たちは知るよしもない。1人を欠いた状態でも、A組の授業は何事もなかったかのように始まった。
そこで
とはいえ、自らの秀でた能力をHRで謳ったその男子生徒の、入試最高得点の頭脳はまだ目立ってはいない。
各人に学力の差はあれど1~3時限目の英語・国語・数学では初日からそれが浮きぼりになるほど難しい授業はされなかった。差が出たのは──体育。
¶
バスッ‼
ピーッ‼
体育館の壁の高所に巡らされた細い通路上の
種目はバスケットボール。
1年A組の約40名の生徒たちは男子4チーム・女子4チームに分かれ、男子は男子同士・女子は女子同士の4組の対戦カードを組み、体育館の4つのバスケットコートで試合をしていた。
その一試合、
素晴らしいコントロール。
背の高いイケメンが不敵に笑い、白い歯を光らせながら華麗なシュートを決めた──女子たちから黄色い悲鳴が上がった。
(君たち、自分の試合は?)
だが、その自分が恋する2人が
「トキワ!」
「おう!」
ボールを受けとった
うまい!
そのタイプとしては、かなり上手。
運動神経のいい
今はただ、親友を頼もしいと思う。
バッ‼
敵陣のゴール下で
かなりの身長がなければ跳躍したところでリングの上まで手が届くものではないが、中1離れした体格の
「はい残念」
「んなッ⁉」
バシッ! ゴール直前、
弾かれたボールは
真剣勝負で手は抜かない!
それは相手に失礼だから!
ドリブルするそいつの前に立ちはだかる‼
「来い!」
「クラブ経験者のおれに、そんな動きで!」
「あ」「え?」
「いただき!」
バシィ! そいつの持っていたボールはあっけなく奪われた。
「
「いーから任せな」
味方からボールを奪った
「「おおおおお‼」」
先程とは逆に
ズガァン‼
ピーッ‼
きゃー‼
得点の笛と女子たちの歓声が響く中、勝者としてそれを浴びる
「トキワ! 大丈夫⁉」
「ぐ……ああ、平気だ」
その
「ウドの大木」
「「なに⁉」」
親友を侮辱された
「図体だけじゃオレはとめられねぇよ」
「言ったな……目にもの見せてくれる」
それは叶わなかった。
その後も、誰も
そして、
きゃーっ!
女子たちの声が大きくなっていく一方、
試合は100対0で、
100点全て、
「初めてやったけど、こんなモンか」
¶
4時限目の体育が終わり、昼休み。
「なんなんだ、あいつは……!」
いつも冷静沈着な
「
「
「なに名前で呼んでんのよ、図々しい!」
「るっさいわね、早いモン勝ちよ!」
「おいおい、オメーら。オレのために喧嘩すんな」
「「はーい♪」」
あの中に
「漫画みたいな奴だよね」
ただ、親友を侮辱されたことは腹立たしく思っている。しかし怒りは自分より怒っている人が傍にいると鳴りを潜めるもの。
「漫画といえば
「なんか、口が悪いところも『ワイルドで素敵』だとか『いい人ぶってなくて、かえって親しみやすい』とか言われてるね」
「なにが『かえって』だ。俺が同じ態度だったら絶対に彼女たちから不興を買うぞ。ただの短所を魅力の一部だと許される者と、許されない者。その明暗を分けるのは」
「顔」
なお
その2人は不安そうに
「そういうことだ」
会話が途切れたところで、
「
「
「すまなかった、苛立ちを撒き散らしたりして。もう大丈夫だ。怒らないと誓うから、なんでも言ってくれ」
「ありがとう……
「こんなゴリラみたいな顔、気にするのは当然だ。この面子では楽しい話しかしたくないから言わないようにしてきたが、ついに破ってしまった。反省している」
「気にしないで。
「アタシもよ。いいんじゃない? 『優劣を意識するのは当然』ってアンタも
「
「で? さっきから慌てた素振りもない
「うん」
「トキワはイケメン嫌いだよ」
「「えっ」」
「特にひねった理由もなく、自分が不細工でワリ食ってるから、顔がいいだけで得してる男は嫌いなんだ。だから出会った当時は僕にも当たりが強かった」
「「ええっ⁉」」
2人が驚いたのは、
「俺たちも美的感覚は人と変わらない。お互いの顔面についての見解も同じだ。リッカは美しく、俺は醜い。そのことにふれずに親友になれるか。とっくの昔に一悶着あって、乗りこえたんだ」
「いや、醜いとは思ってないって。世間的に偏差値の高い顔じゃないとは思うけど。僕はトキワの顔、男らしくてカッコいいって出会った頃から思ってる」
「そうだったな。俺は自分ではそんなふうに思えず、ずっと気にしていた。だから美しいリッカがうらやましかったが、リッカはリッカで自分の女顔を気にしていたんだ」
「今では『たとえ女顔でも美形に生まれたんだからラッキー』て思えてるけど、小さい頃はね。名前も女の子みたいだし」
「「……」」
自分の内面に関することだからだろう。
それが
「俺たちは本気で互いのことを妬んでいた。その妬ましい部分を相手が誇るどころか気にしているとは想像もつかず……ある日、ついに衝突して、互いの胸の内を知って」
「『望む顔が逆ならよかったのにね』って、意気投合したんだ」
「お互いコンプレックスが解消されたりはしなかったが、少なくとも俺たちが妬みあうのは馬鹿らしいと思えた。その時、本当に友達に……親友になれたのだと思う」
「素敵!」
「いい話」
「「だけど……ロボットの話は?」」
「この話には出てこないよ。僕たち当時3歳か4歳だったから、まだそんなにロボット作品、見てないって。2人ともロボットにどハマりするのは、もうちょい先」
「あの頃の俺たちは世界の色々なものに興味を持っていた。今のようなロボットばかりの人間になるとは思っていなかったな」
「リッカくんと、
「そんな時期があったんだ……」
いい話をしたと思ったのだが。それに全部、持ってかれた。
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