美人教師と美形首席

 昨日の入学式の日に発表された1年生のクラス分けでさくたち4人は全員、同じクラスになれていた。


 そして今日、授業初日。校舎1階、1年A組の教室に入って、4人で固まって着席する。同級生クラスメイトで他に、同じ小学校の卒業生はいないようだ。



「はーい♪ ホームルームを始めますよ~」



 担任の教師が現れた。のほほんとした雰囲気の、20代くらいの超絶美女。緩やかに波打つ黒髪を腰まで伸ばし、紫色のスーツに包んだ肢体はグラマラス。



 おっぱいが、大きい。



 2年前から少しも成長していないりっはもちろん、2年前でも歳の割に大きかったのが2年でさらに成長したより……と考えていたら2人から殺気がしたのでさくは考えるのをやめた。



 カッカッ──



 女教師がチョークで黒板に名前を書く。


 風間菫と横書きし、上にルビを振った。



かざ すみれです! 担当科目は理科! よろしくね~?」


「せんせーい! スリーサイずッ⁉」



 スコーン‼



 不埒な質問をしようとしたその男子生徒は、風間教師の投げたチョークを額に食らい、のけぞって椅子から転げ落ちた。そして床に倒れた直後、顔面をズガッと風間教師に踏まれた。


 ひゅっ──風間教師の右手が一閃。


 空中を舞ったチョークをキャッチ。



(え⁉)



 男子生徒が倒れてゆく様を目で追っていたさくは、そのあいだ目を離した風間教師が瞬間移動したように見えた。


 彼女のいた教壇と男子生徒の席とは結構な距離があったのに、チョークを投げて男子生徒が倒れるまでのわずかな時間で傍まで駆けよった?


 大体チョーク投げって。教師の中にはそれを会得して生徒への体罰に使う者がいるのは昔から有名だが、コントロールも威力も尋常ではない。



「おい、クソ野郎♡」



 風間教師が、かわいい声音のまま凄む。


 男子生徒は、苦しそうにうめいている。



「先生は~、教師として生徒に体罰を加えるつもりはありませんけど~。1人の人間として~、いじめ・ハラスメントをしでかす生ゴミに~、容赦する気もありませんから~♪」


「あ、が……!」


「皆さんも~、分かりましたか~?」



 はいッ!



 踏まれている男子をのぞいた生徒一同、声を揃えて返事した。「よろしい♪」と微笑んだ風間教師は足元の男子の襟首を掴み、窓際まで引きずって、窓を開けて外に捨て、窓を閉めた。



(ええええええ⁉)



 さくはセクハラ野郎に同情はしない。心情的には彼女の行いを支持するが、その過激さにはさすがに驚いた。問題にならないといいのだが。



(てか今、人を片手で投げました?)



 チョーク投げから始まった一連の動き、素人からも一目瞭然で只者ではない。きっと武術かなにかを高いレベルで修めている。


 常磐ときわりっも顔を引きつらせていた。教室の空気も、震えあがっている。1年A組は、暴力によって支配された。


 外の男子がどうなったか分からない。


 彼を置いてホームルームは進行した。



「では~、出席番号順に前に来て、みんなに自己紹介してもらうわね~? まずは男子から、出席番号1番、いわなが 常磐ときわくん!」


「はい!」



 ハキハキと答えた常磐ときわがスッと席を立ち、がっしりした巨躯の背筋を伸ばした堂々たる歩みで教壇へ向かった。


 その中学1年生になったばかりに見えぬ偉容に、彼を知らない教室の面々が感心しているのを見て、さくは幼馴染として気分が良かった。


 常磐ときわが教壇の上で振りかえる。



いわなが 常磐ときわです。好きなものはロボット、特技はアーカディアン。皆さん、よろしくお願いします!」



 ぱちぱちぱち



 拍手をしたのは、さくりっだけだった。他の生徒は呆気に取られているようだ。常磐ときわの外見の印象から、自己紹介の内容が意外だったのだろう。偏見だが無理もない。


 これだけ体格のいい男子から運動の話が出なければ。


 アーケードゲームであるこうゆうアーカディアンに体を動かす競技という印象はない。実際のアーカディアンはゲームの中でもかなり運動量の多いほうではあるのだが。


 常磐ときわが席に戻ってくる。



「ありがとう~。では次、出席番号2番、とう 飛鳥あすかくん!」


「おう!」



 さくはギョッとした。その礼儀の欠片もない返事に、教室中が凍りついた。風間教師は咎めないようだが、生徒たちがヒヤヒヤ見守る中、その少年は気楽そうに歩いていく。


 豪胆なヤツ。



 あれ? あいつ昨日、入学式で答辞を読んだ奴じゃ──



 生徒の誰かの囁きが聞こえた。


 言われれば、そうだったかも。


 入学式で在校生から新入生へ送られた祝辞に対して、新入生の代表として答辞を読む。それは入学試験を最高得点で合格した、首席の役目。


 まだなにも知らない相手だが、今の空気を読めてない様子だけでもバカっぽさ全開なのに、そんなに成績いいのか。


 そいつは教壇の上で、胸を張った。



とう 飛鳥あすかだ! 頭脳明晰、スポーツ万能! ケンカも強ぇ! 今日からオレがこの中学の番長だ! オレの名前を『女みたい』とか抜かした奴はブッ殺す! よろしくなッ♪」



 きゃーっ!



 ツッコミどころ満載の自己紹介にもかかわらずりっを除いた大抵の女子が黄色い悲鳴を上げた。因果関係は不明だが、飛鳥あすかは、顔が良かった。


 背も常磐ときわほどではないが高い。


 細身だが貧相ではなく引きしまった筋肉をしているのが、その所作だけからも伝わってくる。自分で言ったとおり運動はかなり得意そうだ。


 さくは2年前にいばらきの工場で会った(殴られたあと和解した)ボガバンテの運転手──そう ろうを思いだした。顔は少しも似ていないがモテ男ステータスが似ている。キャラかぶってる。


 その後も自己紹介は続いていき……



たちばな さくです。好きなものはロボット、特技はアーカディアン。皆さん、よろしくお願いします」


つきかげ です。好きなものはロボット、特技はアーカディアン。皆さん、よろしくお願いします」


ゆき りっです。好きなものはロボット、特技はアーカディアン。皆さん、よろしくお願いします」



 3人とも常磐ときわの丸パクリだった。


 さくには本当に常磐ときわと同じことしか言うことがない。


 りっには他に〔ファンタジー、特に魔法少女モノ好き〕という個性があるが、それらは独りで楽しむ主義のため、ここで明かすつもりはないらしい。


 も今の4人組の仲間以外からは理解されたことがない、宇宙飛行士になる夢をここで明かしたりはしなかった。

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