龍虎相搏
火事場で1人 遭難中、たまたま見つけた全高4mほどの搭乗式人型ロボット【ブルーム】に乗って悲願が叶い、脱出を目指すついでのロボット操縦ドライブを満喫していた
心臓を鷲掴みにされたようだった。
ひどい怪我をしたのか
そう思った瞬間、
(もしや、余計だった?)
3人は怪我しておらず、血は今ブルームの足下に転がっている死体のもので、それらが
だったとしても、攻撃してきた
ガオォォッ‼
本能的な恐怖に身がすくんだ。ブルームの全高は自分の倍以上あるが、
「ヒッ⁉」
威嚇では済まなかった!
ギュルッ‼
「待って! 話しあいましょう‼」
3人に危害を加えようとしていたと思ったのが誤解なら謝る。誤解でなかったとしても今後 自分と3人の安全を保障してくれるなら許す。
どちらの場合も3人が傷つけられていたなら許せなかったが、そうなっていない以上、自分にはムキになって戦う理由はない。
(カタキは討たないよ!)
「僕たちは分かりあえる‼」
「話せば分か、るぅーッ‼」
悲鳴は上げたが、想定はしていた。左右のレバーを握る手と、左右のペダルを踏む足を、冷静に動かし対処する。ギリギリまで引きつけてから、さっきと同じ方法で回避──ドカッ‼
「うあッ⁉」
ブルームの
さっき
そこへまた、
「くそ‼」
もう後ろへはよけられない。なら横だ。
蹴ったのは地面ではなく足下のペダルだった。
ブルームのペダルは、爪先側を踏むと踵側を支点に
バッ──ドガァッ‼
ブルームに突進をかわされた
(横にも動けたのか!)
ペダルの可動部は『爪先側が前に倒れる』だけと思っていたが『全体が下に沈む』もあったのだ。そうすると機体は沈んだペダルと同じほうの足で地面を蹴って反対方向へ移動する。
(このロボット、想像以上だ!)
真正面か真後ろ以外の方向へ移動したい時は半身同士の動きのズレを利用して機体の向きを変える。直接的には左右へ移動する手段がない──と思っていたが、そんなことなかったのだ。
きっと他にも未知の機能がたくさんあるのだろう。そして今、率先して試すべきは。
グルルルッ!
カチッ──ガァン‼
右レバーの先端についた3つのボタンの内、最も大きく目立つものを親指で押すと、ブルームは
ガァン‼
今度は左レバーについた同じボタンを押すと、やはり左手でパンチした。よし、お次はカチカチカチッと左右のボタンを連打して、ブルームの両拳で連続パンチだ!
ガンガンガン‼
ブルームの手の甲からは前方に向かって龍の爪のような
「なら、こっちだ!」
ブルームが示した反応は、左右の前腕を体の正面に立てる動作だった。ボクシングのファイティングポーズのような。なにをやって──バチィ‼
「うわぁッ⁉」
突然、鞭のようにしなった
いや、絶対に射撃にも使うはずだ。
けど今は射撃武器を装備していないから防御入力に切りかわっている? ブルームが銃もなにも持っていないのは外見からも分かっていたが、どこかに内蔵されていたりもしなかったようだ。
ガラッ‼
「ダメだ!」
倒せるなら倒してしまおうと思ったが攻撃力が不足している。やっぱり逃げよう。そう、敵に背を向けて一目散に──そこまで考えて、
恥とかではなく、
ガオォォッ‼
「くっそぉッ‼」
結局、
進行方向が見えないバックも怖いが、さっきのように障害物にぶつかっても今度は慌てずに対処すると肝に銘じる!
バッ! ギュルッ‼
ブン! ズシャッ‼
ブルームがひらり、はらりと身をかわし、その脇を通過した
ブルームは
(この状況、マズくない……?)
今、攻撃をよけるのはそんなに難しく感じていないが、それでも不運にミスする可能性は常にある。自分は別に強運の持ち主とかではない。こんなのいつまで続くか。
運が尽きたらジ・エンド。
尽きると言えばブルームの稼働時間もだ。あとどれだけ
バッ! ギュルッ‼
ブン! ズシャッ‼
「ハッ、ハッ、ハッ!」
焦燥感に呼吸が荒くなってきた。倒せないし、逃げられない、いつまでこうしていればいい? この先、
どちらかが先にガス欠になる。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼)
こんな理想のロボットに、一生 無理だろうと絶望さえしていたロボットに乗るって夢がせっかく叶ったのに、まだ全然 楽しんでいない! こんなところで死んでられるか‼
ドンッ!
ついにまた、背後のなにかにぶつかりブルームがとまった。コンソールパネルにある機体後方を映したサブモニターを見ると双腕重機ボガバンテの残骸が。
(元の場所に戻って──!)
ここは工場敷地内の、地肌が剥きだしになった重機の実演場だ。最初に
だから、すぐ傍に。
ボガバンテがその前にしていた試し斬りで振りおろし、重ねた畳を台座ごと斬って地面に刺さった、271cmと長大な反りのない片刃の刀剣【
そしてコクピット側面のモニターに映る景色の中のその刀の傍には
レバーの親指ボタンを押すのと、人差指トリガーを引くのを、同時に行え。とのアイコンからの指示に、
ガッ! ググッ……
ブルームが両手で刀の柄を握って力を込めるとズシャッ‼ と土砂を撒きちらして地中からそれを引き抜いた。選ばれし勇者が伝説の剣をその手にする様そっくりに。
ブルームが大直刀を中段に構えた。
ブルームの腕の長さに合っている。
なんだこの
これでは信じていないはずの神に『いいからロボットアニメの主人公らしく戦え』と言われた気になるじゃないか。人が殊勝にロボット狂の
「やってやる‼」
ガオォォッ‼
ブルームが中段に構えた刀の向こうから
ブルームの足底部の車輪が最高速で回りだし、機体を爆発的に加速させて
「⁉」
白兵攻撃の間合いに入る寸前に、
少々の火に当たった程度ではブルームはなんともないし、コクピット内もすぐに高温にはならない。だがこれは目くらましだ。正面モニターが赤く染まって
永遠に感じる刹那、
「うわぁぁぁぁ‼」
「虎は⁉」
カッ──
その瞬間、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます