月兎
その時ふと別の枝に吊るされた短冊に〔月〕と書かれているのが目に留まり、もしやと手に取ってみると、やはり〔月影 小兎子〕と記名された短冊だった。
そこに書かれた願いは──
「宇宙飛行士になって月に行けますように」
「ぎゃーっ‼」
悲鳴を上げた
「笹、折れちゃうよ?」
「折れてない! 人の願いごと拡散しないでくれる⁉」
「ごっ、ごめん! マズかった? 人に知られて恥ずかしいような願いだとは思わなかったからさ」
むしろ、この4人で唯一まともだ。
魔法少女になりたいと願った
「月は前人未踏ってわけでもないし」
「ハァ……簡単に言ってくれるわね」
「
「えっと、もの凄く勉強した人たちの中から、ほんの一握りしか選ばれないってことくらいは」
「そーよ。それに、その狭~い門をくぐり抜けられたとしても、月に行ける可能性はとても低い」
「そうなの?」
「確かに月に行った人はいる。でも1972年以降、有人月面着陸は行われなくなった。宇宙飛行士がロケットで宇宙に上がっても、月までは行かなくなったのよ」
「それは知ってる」
「けど、なんでだっけ」
「予算が足りないとか、世間の宇宙への関心が低下したとか、色々よ。それから半世紀、最近ようやく『また月に行こう』って話になってるけど」
「けど?」
「今後どうなるやら。それより問題なのはね、宇宙に行く計画は国や企業が立てるもので、現場スタッフの宇宙飛行士には決められないってことなのよ」
「……ああ!
「そっ、最後は運よ。そんなの神頼みするしかないじゃない? だから短冊に書いたのよ」
「でもね」
「逆に言えばそれって、運良く有人月面着陸の計画が立っても、宇宙飛行士になってなかったら月に行けないってことじゃない。その自分で努力すべきところを
「
「
「『こう見えて』とはなんだー‼」
目の前で友達とじゃれあう姿はどこにでもいる女子のようなのに、
だって──
「すごいね、
「でしょ?」
「もう、許してぇ……」
親友を褒められてご機嫌な様子の
あと、かわいくて困る。
朝、
「月なんか行ってどうするんだ」
ぴしっ──空気がヒビ割れた音が聞こえるようだった。
「な・ん・か?」
「すまない! 侮辱するつもりはなかった」
「どうだか」
「俺も宇宙に興味はあるが、そこまで月に行きたいとは思わない。だが
「はぁ……ごめん、誤解してた。理解されず馬鹿にされることが多かったから、今回もそうかと早合点したわ」
「いや、俺の言いかたが悪かったんだ。口にする前にもっとよく吟味するべきだった」
「それで
空気を変えようと、
「……」
「
「もちろんだよ」「約束する」
「(ジャンプしたいの)」
「「え?」」
「あ~っ!」
「重力が地球の6分の1しかない月でジャンプすると地球上より高く跳べる、アタシはそれを体験してみたいだけ! 月面探査で科学の発展に貢献したいとか立派なこと思ってないの! だから言いたくなかったのよ‼」
「立派じゃなくても、いいと思うよ」
「動機とか、どうでもよくない? どんな理由でも、それが世のためになることに変わりはないんだし」
「
「逆に、世のためになることしようって人の動機にケチつけて、それで辞められたりしたら、人類の損失になるじゃない。むしろ害悪なのはそっちでしょ」
「ならこの世は、害虫だらけよ」
「知ってる。だから気になるのも分かるけど。そんな奴らより
「虫ケラ──ぷっ」
その目から、涙が一筋こぼれた。
「
「ちが、これは、嬉しくて」
「えっ」
「だから、
「ど、どういたしまして」
悪い意味で泣かせたのではないと安堵したとたん、
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