星祭
「僕とトキワは5年1組。2人は?」
「どっちも5年2組だよ」
「
「あれ?
「ダメって言うか……ちょっと
「いや、適当に話題 振っただけで……会いに来るなってこと?」
「ぜ、絶対ダメとは、言わないけど……そんなことされたら、みんなに勘ぐられて、からかわれるじゃん……」
「そう……だね。うん、分かったよ」
「えー、わたしは別にいいのに」
「
「(俺もいるのだが)」
この2人に、惹かれていたから。
初めて意識した女性である2人と早くも話す機会を持てたことは嬉しいが、そんな相手だからこそ緊張するのも他の女子との会話以上。平静を装いながら内心ではドキドキしていた。
「そんじゃ、ここで。行くわよ、
「うん。
「あ、うん」「おう」
学校に到着して下駄箱で上履きに履きかえると
「俺たちも急ぐぞ、リッカ」
「そうだね。すっかり遅刻」
(また会いたい)
小学校 高学年、思春期を迎えたみんなが恋愛話に興味津々な中、男子がわざわざ別のクラスの女子を訪ねれば、それはもう告白も同然。即座に噂が広まる。
それは、とても恥ずかしい‼
それが嫌だから
それでも相手が好きで告白したいなら乗りこえるべきだろうが、自分のこの気持ちは恋ではないはずだ。
恋なんてしたことがないのでよく分からないが、それは1人を相手に抱くもののはずなので、相手が2人いるということはまだ恋と呼べるほどの感情ではないのだろう。
なのに告白と思われては困る。
だから会いにはいけないが……2人とこれっきりなのは嫌だ。もっと話したい、いつも話す仲になりたい、強くそう想った。
¶
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴り、2時間目の授業が終わって、3時間目とのあいだの長めの休み時間になった。日本の地方ごとに名前の異なるこの休み、ここ東京都で【20分休み】と呼ばれている。
「あ」
「どうした、リッカ」
「いや、朝の2人が」
「ん? ああ」
トクン、トクンと胸が高鳴る。
いや……自分が2人の姿を見つけただけで、まだ向こうはこちらに気づいていない。このまま声をかけなければ再会したことにはならない。
女子に声をかける。それだけでも恥ずかしいが、これは教室を訪ねなくとも彼女たちと話せる貴重な機会、逃してはいけない。
様子がおかしいと気づいた。
「その歳で夢と現実の区別もつかねーの?」
「はっずかしー奴!」
「やかましいわね、失せなさいよ‼」
「……」
冷やかすような男子2人に怒声で返す
「なんの騒ぎ?」
「あっ、
「よう、
「
「そンなこと短冊に書いてんだぜ」
「ああ……」
どうやら話題になっているのは、すぐそこに飾られている笹に吊るされた数多くの紙片(
今日は7月7日、
地上からは天に輝く星に見える、神々の世界の住人である
地上の人間たちはこの日に竹や笹を飾り、そこに願いを書いた短冊を吊るす。すると
という、日本の伝統行事。
この学校でも毎年、生徒たちが願いを書いた短冊を吊るした笹を七夕当日、廊下に飾っている。
今年も先日、学級活動で短冊に願いを書いて提出した……その短冊に、
(そういうことか)
魔法──古くから信じられてきた、空想を現実にする不思議な力。だが現代では実在しないと否定されている。
魔法少女というのはアニメなどで題材とされる、その力を得た少女のこと。だがそれは
そんな虚構を信じていて許されるのは子供だけ。魔法少女も変身ヒーローも、妖精も妖怪も、神も仏もサンタクロースも、みんな同じ……嘘。
そして小学5年生。
小学校の高学年は。
それらの夢から覚めていないといい加減マズイという、刻限。だが
そんな彼女を笑いたくなる心情も理解できないことはない──が、それは本当に笑っていい理由にはならない。
「君らはなんて書いたの?」
「「え?」」
「プロ野球選手になれますように!」
「俺はプロサッカー選手!」
「ぷっ」
「ああ⁉ ンだ、テメェ‼」
「なにがおかしい‼」
「おかしいに決まってるさ。だってどんな願いだろうと、そもそも
「「んなッ⁉」」
男子たちの顔が引きつる。自らが冷やかしていた
「はっ、ハァー⁉ し、信じてねーし‼」
「そういう風習だから書いただけだし‼」
「でしょ? 信じてないけど信じてる
「そうだよ!」
「だから──」
「だから前提としては、星に願いを叶える力があるって認める。その力は魔法みたいなもんじゃん。
「それは……あ、あれ?」
「お、おかし、くない?」
2人に自分の言ったことを頭に浸透させ、その
頃合いだ。
「
「「‼‼‼‼‼」」
「オカルトを否定するんだったら短冊を無記入で提出するくらい徹底しておくんだったね。自分だってしっかり願いごと書いておいて人の願いを馬鹿にするとか頭にブーメラン刺さってるよ?」
「「な、な──」」
「「あっはっはっはっは‼」」
男子2人が絶句したところで、
アハハハハハハハハ‼
孤立した男子たちは『~ッ‼』とおそらく負け惜しみを叫んで逃げていったが、その声は周りの笑い声にかき消され、なんと言ったのかは聞こえなかった。
奴らはオカルトを否定する、
ワーッ‼
男子2人組が見えなくなるや、彼らへの嘲笑が
「
「かっこよかったよ~っ」
「見事な屁理屈だったな。テストの点数は悪いくせに、こういう時の頭の回転は速いよな」
「へへ、ロボットのパイロットに敵との舌戦はつきものだからね! 将来そういうシーンになった時に言い負けないよう鍛えてるのさ!」
どっと笑いが起こる。
冗談ではないのだが。
それより今は
「
「ちょっとアンタら邪魔よ!
「おう、お前ら。邪魔だ……消えな」
ヒィッ‼
野次馬連中は
「サンキュー、トキワ」
「なに、これくらいは役に立たんとな」
親指を立てた
「
「
「うん……また、助けられちゃったね。ありがとう。
「あ」
「あのね! さっきはああ言ったけど魔法の存在を否定してるわけじゃなくて、それに無いことの証明はできないから無いとは言いきれないし、僕もあったらいいなと思ってるし!」
「ぷっ」
「えっ」
手を口に当てて。かわいい。
「安心して。わたしも魔法なんて信じてないから」
「そうなの⁉」
安心した。体中から力が抜けた。
「この歳になればね……それでも『魔法を使いたい』『魔法少女になりたい』って気持ちまでは、なくならなくて」
「そっか……」
だが常識的観点も持ちあわせていた。
「
「……分かるよ、そういうの。僕『4年生になったら異世界に招かれてロボットに乗って悪者と戦って、その世界を救うんだ』って割と本気で思ってたんだ」
「あ、そういうアニメあるよね」
「うん……でもなにも起こらないまま5年生になって。異世界なんてなかった、あったとしても僕は選ばれなかった……あの時は絶望したよ」
「分かるぅー‼」
さすがに広く理解はされないと分かっているので
「それなら
「うん。まぁ似たような内容だけど……ほら、コレ」
[人がロボットに乗って戦う時代が訪れますように。立花咲也]
[人がロボットに乗って戦う時代が訪れますように。岩永常磐]
「って
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