夏祭
数日後。8月中旬、某日──夜。
今夜は4人で夏祭りに行く約束。
「
「リッカくん!
「オッス。
「ああ、こんばんは。
自分と
夜空の下、地上は屋台の灯りで明るい。見慣れた公園に普段はない屋台が並んで、辺りには良い匂いが漂っていて、大勢の人で賑わっている非日常感にワクワクする。
人々の格好は、洋装と和装が半々。
上は半袖・腰丈の羽織で、それ自体についた紐で前を合わせるので腰帯はない。下は上と同じ生地の半ズボン。履物は特に和にこだわらず運動靴。
加えて目を引いたのは髪型。いつもは下ろしている長い黒髪を後頭部で
上は背に大きく〔祭〕と書かれた半袖・腰丈の羽織で、
茶色い短髪はいつも後ろ髪を残して左右でまとめるツーサイドアップなところ、後ろ髪ごと左右でまとめるピッグテールに。
個性がよく出ていた。
と言われている。
実際、小学5年生なのに背も顔つきももう中学生のような
一方、
一方、その
それに、2人とも。
今夜のいつもと違う髪型では、うなじが見えていた。いつもは見えない背中側の首筋、髪の生え際。なんだか色っぽく見える。
(2人とも最高……ッ!)
「2人ともカワイイ」
「えへへ」「そう?」
「リッカくんもカワイイ♪」
「か……」
「あっ! ごめんなさい、男の子は『カワイイ』って言われても嬉しくない、よね……?」
「ううん、悪い意味じゃないの分かってるし。
「リッカくん、イザって時はすっごく、かっこいいから。普段はかっこつけなくて、大人っぽくなくていい。かわいくていいの、かわいいのがいいの……!」
「そ、そう?」
性差による感覚の違いのせいか、なにがそこまで『いい』のか
「ショタコンなのよ、この子」
「リッカくんは同い年だよ!」
そういう嗜好か。
「僕は気にしないよ、
「ありがとうございます! ショタコンです!」
本人の許しを得ると、
むしろ心が軽くなった。
それに発育のいい
「
「
「って正直すぎ!」
「どう答えれば⁉
「いや、いいけど。ならアタシのこの服、本当はどう思った? 『 カワイイ 』ってだけ?」
「えっちで素敵だと思いました」
「……で、でしょ? ふふーん」
などとしていると。
「公共の場でする話か?」
「「「ごめんなさい」」」
「屋台、行こうぜ」
「「「は~い」」」
祭りで賑わう雑踏を歩く。数年前の2019年に発生した致死率の高い新型コロナウイルス感染症COVID-19が世界に蔓延し、感染防止で人の密集がさけられていた頃なら非常識な光景。
無事に収束してよかった。
平和な喧噪の中、4人がまず向かった屋台はドネルケバブ屋。店頭で、無数の牛肉の薄切りを円柱のように積んだ塊が、1本の串に貫かれて垂直に立てられ、豪快に
香ばしい、いい匂い。
注文があると店主がその炙った肉塊の表面をナイフで削いで、ピタ(薄いパン)に野菜と一緒に包み、注文された味のソースをかけて渡している。4人の注文は──
「いや、2人のあいだを取ったわけじゃ」
「「ふ~ん?」」
好きな子2人と同じものを注文しようとして、2人のあいだで注文が割れたので、その両方のミックスを頼んだ──かのような形になってしまった。
本当に違うのに。
「俺たちが生まれる前に放送されたロボットアニメで、主人公がこのミックス味のドネルケバブを食べるシーンがあるんだ。俺もリッカも、それでこれを食べたくなった──だろ? リッカ」
「そう、それ!」
さすがは
「そうなんだ! そういえば
「
「……そういうことだ」
疲れた表情でそう言った
「分かってもらえた?」
「疑ってごめんなさい、リッカくん」
「ごめん、
「怒ってないから、シュンとしないで」
「「ありがとう」」
2人が笑顔に戻ってくれて
「そのアニメ、題名は?」
「あ、アタシも知りたい」
気を取りなおすように訊いてきた
それでいい。
合う合わないは人それぞれ、合わなかったら無理に全部を見る必要なんてない。2人がこうして自分に合うロボット作品を探すようになってくれただけで
元々はロボットに興味のなかった2人だが、林間学校の日から積極的に知ろうとする姿勢になってくれている。
最初は自分と
出会った頃には考えられなかった。
自分も、
(そうなるといいな)
¶
それからも4人で屋台を巡って楽しんだ。
各自アイスキャンディーを購入。
空気銃で撃ったコルク栓を当てて倒した景品をもらえる射的に4人で挑み、初めに
ビスケットの小さな箱1つ。
当然、4人分の射的の代金より普通に買ったほうが安くついたが、4人で射的を楽しんだ時間にお金を払ったと思えば。4人で分けあったビスケットの味は、いつもより美味しく感じた。
そして
「よぉ
「
「「うぇーい♪」」
こちらと同じく、男女2名ずつの4人組。同じ小学校の、同じ5年生の同期生たち。男子の片方が冷やかすように言った。
「おまえらもダブルデートか?」
(は?)
ダブルデート、それは2組のカップルが一緒に行うデート! つまり
ふざけるな、どちらも自分の恋人(未満、友達以上)だ──と
その非常識さを外野にとやかく言われるのをさけるためにと。だがこういう時どうすればいいか分からず、
「そんなとこよ。だから邪魔しないで?」
「ひゅーひゅー♪」「お熱いね!」
「お邪魔虫は退散するね」「じゃーねー♪」
その4人はあっけなく去った。
「よかったのか? あいつら、おそらく学校の他の連中の多くもだが、俺とお前がカップルだと思ってるぞ」
そう。
7月7日に
そして噂は独り歩きして、その2人といつも一緒にいる
「あー。1学期からそう見られてるわよね。アタシたちの実態を知られても面倒だし、そう思われてたほうが好都合でしょ……あ、
「いいや。お前がいいなら俺もいい。この4人の中でだけ真実を共有していれば、他人にどう思われようと構わん」
「アリガト♪」
それからまた屋台を回り……時計の針が回って、もう遅いので帰ろうとなった時。
「リッカ、2人を家まで送ってやれ」
「あ、うん! ありがとう、トキワ」
「ああ、じゃあな」
あとは3人で過ごせという、この気配り。なんていいヤツだ。
「うん、また
「またね、
「バイバイ、
歩きながら2人と他愛のない話をしているあいだ、
そして住宅街、2人どちらの家もこの近くという所まで来て、
「2人とも、ちょっといい?」
「「え?」」
怪訝な顔で足をとめた
「「っ」」
2人の顔に緊張が走った。指輪は、たとえそれがオモチャでも結婚指輪を連想させる。意図は正しく伝わったようだ。
「リッカくん……」
「
「今は、こんなのしか。だけど大人になったら本物の結婚指輪を贈りたい……っていう、僕の気持ち。受けとって、くれるかな」
2人はじっと、こちらを見つめて。
やがて……コクン、と頷いた。
そして柔らかく、微笑んでくれた。
「嬉しい。
「アタシも。どっちにしろ日本で重婚はできないけどね」
「カハッ……!」
指輪は受けとってくれても二股はダメか。仕方ない、延長戦は始まったばかりだ。2人の気持ちを変えられるよう、これからも努力しよう。
そんなことを考えて黙りこくった自分が落ちこんでいるように見えて心配してくれたのか、
「水差しちゃってごめんね?」
「嬉しいのはホントだから!」
「そっか、よかった」
「えっと……そうだ! その指輪、リッカくんの手ではめて? もちろん、左手の薬指に♡」
「アタシの左手の薬指にも。
「っ……うん‼」
指輪を贈っておいて、そんな一部とはいえ結婚式のマネをする展開になるとは予想しておらず、
深呼吸して、気合いを入れる。
「「~っ!」」
2人は顔を真っ赤にした。でも嬉しそうに口許が緩んでいて、それを見れただけで
「「大好き」」
ちゅっ──と。
初めてのキス。
3人で決めた規約により唇にはできないので、頬にだったが。熱く、湿った感触がずっと頬に残っていて、じ~んとする。
「リッカくん?」
「ぼーっとしてないで、アンタからもしなさいよ」
「あ、うん! じゃあ、
ちゅっ
「えへへへへ……」
「
ちゅっ
「ふーん。
「いやそれは! ほんの少し、本当にほんの少しだったけど
「あーもー分かったから、イジワル言って悪かったわよ……まだ感触、残ってる。胸も、ドキドキして……悪くないわね、これ。ほっぺたになら、これからもいっぱいしよ?」
「う……うん!」
「リッカくん!」
「もちろん、
「うん♪」
「「「……ぷっ」」」
3人同時に吹きだして、しばらく体を震わせて笑った。全く、なんて会話をしているのか。我がことながら可笑しい。
自分の願いどおり2人ともと恋人になって、ずっと3人一緒にいられる未来は、まだ確定していないけど。少なくとも今、この瞬間は。3人で幸せな時間を共有している。
この一瞬を、永遠にしてみせる。
¶
その翌日。
そこで観られる新たなモータースポーツ【
〔搭乗式巨大人型ロボット〕
元は空想の産物であり、これまでも様々な団体が開発を行ってきたが。ここまでしっかり戦える、ロボットアニメの中の本物と言っても通るほどの性能を備えた例は、世界初だったから。
アギャァァァ‼
世界中のロボット好きが狂喜乱舞した。
そして8月下旬、ロボット島園が開園。
初日から日本はおろか世界中から客が押しよせた。チケットは完全予約制で予約開始直後に売りきれて、入手できなかった
画面越しにも、歴史が動いたのを感じた。
ロボット島園には当面のあいだ行けそうになかったが、そこの目玉商品はロボット島園でなくても楽しめる。
アークによる模擬戦競技【機甲道】は日本全国のスタジアムやサーキットで開催されることになった。
アークとは操縦方法の基礎を共有する、ロボット型ゴーカート【ロボット・カート】も全国の遊園地などにあるゴーカート場で乗れるように。
そして。
アークのコクピットを模した大型の
その、稼働開始の日──
4人の内、宇宙飛行士を目指す
今後、自衛隊がアークを導入すれば、自衛隊のアーク操縦士に転向するのも視野に入れて。
どちらにせよ相当の腕が要る。
そこまでの実力者になれる保証などない。だが、この生きかたしかないと心に決めた3人は『やるしかない』と闘志を燃やしていた。
「僕たちの戦いは、これからだ‼」
「リッカ、打ちきりみたく言うな⁉」
「おーっ♪」
「アタシも一応、おーっ♪」
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