匪石之心
ゴォォォォォッ‼
炎に包まれた工場敷地内の路地を走って逃げる生徒たちの最後部に、
グループの先頭を走る
「ついて来てるか!」
「「うん!」」
声は
「リッカ? 返事してくれ!」
だから今、
「リッカ? リッカ‼」
「
「リッカ‼ どこだ‼」
「
「ウソでしょ、
「
「お前ら置きざりにしてやんの~♪」
「「「‼」」」
「そんな大事なこと、なぜもっと早く教えん!」
しかし今はニヤケ顔を崩さなかった。
「いや~、俺たちも逃げるのに必死でなぁ?」「それに俺らー、お前らには声かけづらいじゃーん?」
「そんな場合か! 人の命がかかってるんだぞ‼」
「ははっ! そうだな、
「‼」
不愉快だが、そのとおりだった。
ここで怒っている場合じゃない。
「離して
「
「素人の俺たちが行っても二重遭難になるのがオチだ! あいつが助かっても、自分を助けようとして友達が死んでたら、あいつは一生それを引きずって苦しみ続けるんだぞ‼」
「「ッ‼」」
「リッカのことはプロに任せるんだ。俺たちはそのためにも早く避難して、あいつが取り残されていることを消防に伝えないと」
親友の自分こそが火に飛びこんででも
「そう……だね」
「ゴメン、
「構わん」
自分が
「オイオイ行っちゃうのか⁉」
「なんだなんだ、薄情だな‼」
こうしているあいだにも他の生徒たちは先に行って、ここにはこの3人と2人しかいなくなっている。これでは自分たちも逃げ遅れているようなものだ。
「戻れよ!
「そして4人で焼け死ねよ‼」
こんな奴ら死ねばいいとは思っても、自分で手にかける覚悟などない。
「いい加減にしなさいよ‼」
「馬鹿なの⁉ ここだっていつまでも安全じゃない、こんなことしてたらアンタたちだって死んじゃうかも知んないのよ⁉」
「俺たちは、もう死んでるんだよ社会的に‼」
「お前たちに殺された、だから殺しかえす‼」
「ハァ⁉ ……ダッサ」
それもまた5年2組の生徒たちによる2人に対する〔イジメ〕ということか……実態がどれほどか知らないが、少なくとも2人がそれでこんな暴挙に出るほど追いつめられたことは事実だ。
「
「イジメじゃねぇ! イジッただけだ‼」
「たかがあれくらい、村八分にされるほどのことかよ‼」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ! アンタたちが軽い気持ちでやったことが
「お前らこそ! クラス全体で俺たちのことクスクス笑ってんのは軽い気持ちでだろ‼」
「俺たちが、どれだけ……!」
「自業自得よ! 甘えんなクズ‼」
(ダメだ、これは)
どちらも自分たち側の受けた苦痛は不当であり、自分たち側が苦痛を与えたのは罰を受けるほどのものではない、と主張している。
平行線だ。
パチ……
火の爆ぜる音。暑さが増した気がして振りむけば、火の手が迫っていた。もうここも危ない。かくなる上は、男子2人に怪我させぬよう加減しながら力ずくで突破するしか──
「⁉」
「お前らそこをどけぇ‼」
「は。どけと言われて」
「どく馬鹿が──」
潰された。
すぐ傍の建物の屋上から跳びおりてきた、双腕重機ボガバンテを破壊して工場に火をつけたあの巨大な虎型ロボットの、2本の前肢にそれぞれ下敷きにされて。
2人だったモノから飛散したドロッとした色々を浴びて、倒れている
「「イヤァァァァ‼」」
2人を死なせずに済むように、そう考えていたのに結局、自分のせいで死なせてしまった。殺してしまった。その事実は11歳の少年には重すぎた。
「逃げるぞ‼」
「ええ‼」
「あ、あれ?」
「り、
ガクン! と
(死んだ)
やはり自分はヒーローになれなかった。
死を前にして感じたのは悔しさだった。
やんややんやと皆から称賛されて。
正にヒーロー。それに比べて自分はなんだ。ずっと対等だった
大好きな親友に笑顔を向ける裏でこんなことを考えている自分がたまらなく嫌で早くこの状態から抜けだしたかった。
でも。
そんな邪念を忘れて、ただ助けたいと思った。
走馬灯を見ていた一瞬が終わる間際。
「──ァァッ‼」
「「「ッ⁉」」」
幻聴ではない! 確かに
機械の虎を吹っとばし、入れかわりに
「みんな、無事⁉」
人型ロボットの中から響いてきた声は、くぐもっていても聞き間違えようのない、
「リッカ! ああ、無事だ‼」
「
「早く逃げて! トキワ、2人を‼」
「ああ!
「あ、うん‼」「ごめんなさい!」
「行くぞ‼」
「「うん‼」」
背中から
「
「ああ、大丈夫だ!」
こんなロボットアニメの第1話みたいな展開で主人公が負けるはずがない! だが自分や
「なにせあいつは、ヒーローだからな‼」
¶
搭乗式人型ロボット【ブルーム】のコクピットで、側面モニターに映った走りさる3人の背中を見て、
(あんなに密着したら
こんな時になにを考えている。
大好きな(きっと恋ではないけど)女の子の
だがあれが
ガオォォッ‼
自分がこの
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