ロボット・カート
近くに鋼板を並べた塀が見える。
その向こうは工事中だと分かる。
そこには駅名の由来となった遊園地、
西暦1927年(昭和2年)4月29日の開園から94年間、愛され続けたその遊園地の跡地に今、
「おぉ~い、ここじゃ~っ♪」
「あっ、そうす……い……?」
待ちあわせ相手の老爺、
麦わら帽子にサングラス、アロハシャツという装いはいかにも〔ファンキーな老人〕で彼の気さくな人柄には似合っているが。
「「「「おはようございます!」」」」
「うむ、おはよう。よく来てくれたの」
「本日はお招きにあずかり、ありがとうございます」
「「「あっ、ありがとうございます!」」」
4人の中で最も礼儀正しい
総帥は苦笑した。
「礼を言うのは儂のほうじゃよ。今日はこちらのお願いを聞いてもらう対価として来てもらったんじゃから。どうもありがとう。さ、もう堅苦しいのは抜きにして──これを首にかけて」
「「「「はい!」」」」
総帥が紐つきカードを渡してくる。
関係者であることを示す身分証だ。
それを首からかけると、4人は総帥に連れられて鋼板の一角の出入口から関係者以外 立入禁止の工事現場へと入った。
「「「「‼」」」」
そこはすでに遊園地らしい雰囲気になっていた。ただ
工事中の所ではロボット的 建設機械、双腕重機ボガバンテがその巨大な両手で建材を掴み、機敏に組みたてている。
客はいないがスタッフは見える。
開園前の営業の練習中のようだ。
「これぞロボットテーマパーク【ロボット
「「「「お~っ!」」」」
ロボット大好きな
「凄いです、総帥!」
「それはよかった。
「いえ、そんな……でも知りませんでした、こんなものが建設中だったなんて。世間には未発表、ですよね?」
「うむ。告知からリリースまで
「あ~。それでブルームもまだ秘密なんですね」
大規模ロボットテーマパークも日本では初だが海外にはある。世界的に前代未聞なのはブルームのほう。充分な完成度を誇る、史上初の戦闘用 搭乗式人型ロボット。
あれも、このロボット島園のアトラクションで用いられるのは間違いない。そのお披露目は、ここの発表と同時に行う。
そういう予定なのだろう。
「それもあるの。ただ一番の理由は、あの火災現場にブルームがあったと知られることで、大勢の人が亡くなった痛ましい記憶に紐づけられて覚えられてしまうのを防ぐためじゃが」
「「「「あ……」」」」
さらに、あの火災で町の人たちが大勢 亡くなり、その遺族が苦しんでいると知って、当事者ほどではなくとも心にダメージを負っている。共感疲労という症状だ。
総帥が複雑そうな顔をした。
「それでは商売あがったりという話じゃ。あんな悲劇のあとでも金儲けに余念がない……守銭奴と軽蔑されたかのう」
「いえ、そんなことないです」
常陸グループとしては作って終わりではなく、これからそれを用いたビジネスを収益化させなければ大金をドブに捨てたことになる。従業員とその家族の生活に関わる大問題だ。
「お仕事として当然のことだと思います」
「ありがとう。そう言ってもらえると救われる──っと、すまんすまん。儂が空気を重くしていては世話ないの。では、目的地へ向かおうか。ただちょいと遠いので、アレに乗ろう」
「アレ?」
総帥はすぐ近くのアトラクション用ゲートを指差した。5人でそこをくぐり、遊歩道とフェンスで仕切られた空間に入ると……
「この【ロボット・カート】に!」
そこには吹きさらしの操縦席に手足をつけたといった感じの、全高2mほどの搭乗式人型ロボットが何機も並んでいた。どれも右手にオモチャの銃らしき物、左手に盾を持っている。
「おお……!」
普段の冷静さをなくすのも無理ない。
いかに遊具らしい外見をしていても、搭乗式人型ロボットには違いない。それに乗って動かせるなら昂揚せずにはいられまい。
ブルームにもロボット・カートにも乗ったことのない
一方、総帥は解説を始めていた。
「カートとはごく小さく簡素な自動車のことで、普通の遊園地にある遊戯用のゴーカートもその一種じゃな。ロボット・カートはロボット風ゴーカートというわけじゃ。それでは儂のやりかたを真似して乗ってみなさい」
「「「「はい!」」」」
総帥は1台のロボット・カートに前から近づき、機体の両脚のあいだに垂れたステップに足をかけ、胴体部のコクピットを覆う鉄枠を上げた。昇って席についたら、鉄枠を下げる。
「そしたら右側の施錠ボタンを押す」
ガチャッと音がした。今ので搭乗者が座席から転落しないよう鉄枠がロックされたのだろう。
ガチャッ
「おっ、おお!」
「凄い!
「適当に動かしてみたらスグに分かった!」
「う、動かしてみたら……」
「
「てことはやっぱりコレ、ブルームと基本は同じなんですね? ブルームと違って左右には動けないみたいですけど」
ブルームに乗った時、初めは気づかなくて
それをこのカートでも試してみたが、ペダルは上下には動かなかった。動く構造になっているようにも見えない。
「そう、前後移動だけじゃ」
「分かりました。
「は~い♪」「りょーかい」
「機体の両足の裏に車輪があって、レバーでそれを動かすんだ。右のレバーは右の車輪、左のレバーは左の車輪って、別々にね。レバーを押せば前進、引けば後退。試しにやってみて」
「「はぁい……!」」
2人が左右のレバーを握り、そっと動かすと、即座にカートが動きだす。2人は初めこそビクッとしたものの……すぐに慣れてレバーを
機体が進んだり退いたり回ったり。
「
「
「うん。2人とも上手。飲みこみ早いね」
「「えへへ♪」」
「で、左右のペダルは前に倒しただけ同じ側にあるレバーによる半身の移動速度を上げるアクセル。レバーを左右とも押しながらペダルを踏む深さを左右で変えると前進しながらカーブするよ」
「えいっ……あっ、ホントだ!」
「よっと……うん、分かった!」
2人とも言われたことをすぐ実践し、理解した。
「凄い! 気持ちいい‼」
「うん! コレいいわ‼」
「
「おう。2人とも慣れたか」
「質問してもよろしいでしょうか」
「もちろん。なんでも訊いとくれ」
「ありがとうございます……レバーについてるボタン、ブルームより全然 少なくて右レバーのトリガーだけですけど、これ引くとどうなるんですか?」
「こうなるゾイ」
ビーッ! と総帥の乗るカートが右手に持っているオモチャの銃が音を鳴らし、チカチカ光った。
「これは……」
「ビームライフルじゃ。もちろん攻撃力はない。ただ、この光が他のロボット・カートの盾以外の部分に当たると〔攻撃命中〕という判定になる。そういうゲームのための機能じゃよ」
「あ~、なるほど!」
ロボット・カートの腕は前に突きだした形で固定されており、右手に銃、左手に盾がついている。腕を動かすことはできないが機体全体の向きを変えることが照準や防御になる。
ロボット・カートの最小限の機能でも、敵味方が動きまわって撃ちあうなかなか楽しいゲームができそう──と考えていたら、3人のほうから
「でもこれ、ブレーキはどうやんの?」
「レバーを
「あっ、こうか! ありがとうございます総帥!」
「なになに、どういたしまして」
(そうだったの⁉)
「このコースのゴールが目的地じゃ。では、行こうか」
「「「「はい!」」」」
フェンスの中の道路を5機は走りだした。ロボット・カートはアクセル全開でも大したスピードが出ないので、最後尾を走って子供たちを見守る総帥以外、全速力で。
「リッカ、競走だ!」
「いいね、やろう!」
「あー、わたしも参加するー!」
「アタシも! 4人で競走よ!」
ギュンッ‼
機体性能は全て同じ。勝敗を分けるのは操縦技術。この競走でそれは
自分が一番だと思っていた
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