空花乱墜
有翼の鬼神のごとき漆黒のアーク、ブルーム試作2号機 改め【グレナディーン】の
彼の声明は今この上野公園で彼らが起こしている惨劇の映像と共に世界中に動画配信され、注目を集めていたが、今の
知っていれば不特定多数の人々に己の情けない発言を聞かれることに羞恥を覚えただろうが、だとしてもやることは変わらないだろう。己の最も大切なもののために。
その1機の中から
「お前が怪盗忍者じゃないのは分かった。では改めて。
『聞いていなかったのかね? 『破壊と殺戮の
「『『‼』』」
おかげで腹が決まった!
他に方法がないのなら!
「
この中庭から外へと通じる3つの通路をそれぞれ塞いでいる、秘密結社の3機のロボット。
全高はどれも4m弱。
2足型の胴体が縦になっているのに対し、4足型の胴体は横になっている。その状態で同じ高さなら、もし4足型が後脚2本で立ちあがれば、2足型よりずっと高くなる。
4足型はそれだけ2足型より大きい。
それでは2足型のアイルルスの力でどかすのは困難だろうし、アイルルスが装備している対アーク用ネットランチャーの網では充分に絡まらず動きを封じられない恐れもある。
そんな心配がないのは、同じアークの
『分かったよ、リッカくん』
『それじゃ合図して、
そう話しているあいだに、
「サンニーイチ、ゴー‼」
ギュルッ‼ 3機のアイルルスが弾かれたように駆けだした。両足裏の車輪が高速回転して地面をこすり、その太ましく茶色い巨体を
まず
「⁉」
瞬間、
ジュッ‼
コクピットの天井モニターに映る、後方にある壁が赤熱した。思ったとおり、今の光は照らした対象を瞬時に加熱して破壊するだけの出力を持つレーザー光線、戦術高エネルギーレーザー。
グレナディーンの元の姿【ブルーム
『『うわわわッ‼』』
「
対する
ネットランチャーの装填数は1──これで打ちどめ。
敵のレーザー照射はすぐやんだが、中庭は壁や地面があちこち焼かれ、植えられた芝生や低木の一部が燃えている。
(まずい!)
ただでさえレーザーは光のため直進し反動がなく、命中精度と追尾性に優れる、よけるのが難しい武器だ。こんな狭い場所ではなおさら。
しかもアイルルスは防御力のために敏捷性を犠牲にしている。その防御力もレーザー相手では……これでは3機ともやられる!
「やらせない‼」
体勢を立てなおした
その弧状の穂先が刃になっているわけでもない、捕獲具である
だが転ばせることはできる。
地面に転倒させてしまえば
カッ! ──ドガァッ‼
だが
『ほう』
〔ネットランチャー〕から〔拳〕に変更されていた自機の左の主武装に、
それは
カァーン……
乾いた音を立てて。
(勝てない)
それは機体性能だが、そんな素早い一撃を、高速で動いている
今の反応を見ただけで
「くっ‼」
ザクッ……ガシャァァァァン‼
これではもう起きあがれない。
武器もない、なにもできない。
──詰んだ。
『リッカくん‼』『
愛する2人の悲鳴を聞きながら、
(ごめん、みんな‼)
『『イヤァァァッ‼』』
『ちょぉぉっと待ったァァァァァッ‼』
ズダァァァン‼
覚えのある男の声。続いてなにかが傍に落ちてきた音。それを聞いているということは自分はまだ生きている。
『怪盗忍者1号! 只今参上‼』
『これはこれは。真打登場かね』
天から舞い降りてきたのだろう、怪盗忍者1号の乗る黒一色の鳥人型アーク【ミルヴァス】が、背中に
予告した時間よりも早く現れて、不殺主義者の正義の味方だと思っていたのに人を殺して。これまで怪盗忍者に騙されていたと思ったが、とんだ冤罪をかけてしまった。
怪盗忍者が盗みを予告した現場に、予告した時間よりも早く、全く別の悪党の秘密結社ザナドゥが現れて殺戮を始めたという、真相が分かれば単純な、それだけの話だった。
怪盗忍者はやはり。
正義の味方だった。
『おうおうおう! よくも罪もねぇ人々を手にかけてくれたな! このオレが懲らしめて豚箱に送ってやっから覚悟しやがれ‼』
『この我を殺さず捕えると? 手加減してくれるのは結構だが、そちらが勝手にすること。こちらは遠慮しないが悪く思わないでくれたまえ』
『悪モンを悪く思わねーワケねーだろ‼』
ガキィィィン‼
ババババババババババッ‼
ガキィィィィィィィィン‼
どちらも地面どころか周りの壁さえ足場にして跳躍し、背中の翼で宙を舞い、互いが交錯する一瞬に刃と刃を打ちあわせる!
『やるではないか、怪盗殿』
『ハッ! オメーも、な‼』
何度も何度もそれをくりかえしつつ徐々に高度を上げていった両機は、ついに壁の高さを越えて舞いあがり、広い空へと戦場を移してさらに激しく戦い続ける。
(また、助けられた)
ロボットアニメの主人公のような〔
悔しくてゲーム中の死で気絶するほど精神的に追いつめられ、そんなドン底から這いあがろうと、今度こそヒーローになろうとここに来たのに、あっさり負けて、あろうことか。
また怪盗忍者に助けられた。
こんな惨めなことがあるか。
自分はヒーローの器ではなかった。ロボットアニメの主人公になりたいなどと憧れたのが間違いだった……打ちひしがれ、無意識の内に
目で辿るとその影が伸びてくる元は、パチパチと燃える中庭の中心で、この喧噪から取り残されたように静かにたたずむ──
【ブルーム試作1号機】
ダッ──頭に浮かんだ
ガチャッ!
鍵がかかっておらず、
もう使わないから起動キーを挿したまま放置されていたのか。だから
「……なんでだよ‼」
電源が入れば点灯するコンソールも、壁面メインモニターも、暗いままでチカリともしない。当然だ、最初から分かっていた。1号機の
分かっていてなお、こうするのが正しいという確信的な直感に従ったが、結局それが間違いだった? なにやってんだ馬鹿か‼
ガオォォッ‼
ンモォォッ‼
かつて聞いたのと同じ
「嫌だ」
体が言うことを聞かない。全身の細胞が理性に従うことを拒否していた。早く降りろ死にたいか! 早く早く早くマズイマズイマズイ──でも、こんなのは嫌だ‼
「お願いだ! 目を覚まして‼」
眠り続ける1号機のコクピットで、
ここは現実。
想いが奇跡を起こす、なんてご都合主義な法則がまかりとおるファンタジーな異世界じゃない。こんなことをしたって無駄だと分かっている……それでも!
「あああああああああ‼」
「僕と一緒に戦ってくれ! ブルーム‼」
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