コラボレーション
ズババァッ‼
まず首を刎ねられたことで、機体頭部にあるカメラと
次に胴体が斬られると、その中のコクピットの壁面モニター、それに囲まれた操縦席と、そこに座る
機体は機能停止し。
パイロットは即死。
だが。
今、
[YOU LOSE]
と、機外の景色を映さなくなった正面メインモニターに文字が表示され、物悲しげな効果音が流れただけ。
もし予想どおりになっていたら、VR感覚の鋭い
それでショック死したかも知れない。
その危険性を教えてくれた医師の話では、そうした事例は多く報告されているようだ。ならゲーム制作サイドがそれを認識して過度にVR感覚を与える演出を控えているのかも知れない。
だが、これまで
だから今回も条件は揃っている。
なのに、なにも起こらない。VR感覚を強めていた(と自分で判断した)精神の問題が解消されたことでVR感覚は弱くなったのではと期待はしていたが。
「リッカ‼」
「うわぁ⁉」
見れば
「トキワ、
「リッカ、無事か?」
「リッカ君、体、痛くない?」
「
「あ、うん! 『やられたのにVR感覚のショック来ないな~』って思ってボーッとしてただけなんだ。ごめんね、心配かけて」
3人は『は~っ』と息を吐いた。
「俺たちは遊ばずに対戦を見守って、お前がやられたらすぐさまゴーグルを外してショックを中断させようと構えていたんだが」
「ショック、なかったんだ。よかったぁ」
「つーか紛らわしいのよ、アンタは! 叫ばないし動かないし、死んじゃったかと思ったじゃない!」
「……ごめんね。心配してくれて、ありがとう。取りこし苦労にさせちゃったけど、どうなるのか事前には分からなかったんだ。対処してくれて正解だったと思う」
3人も微笑みかえした。
「ああ。徒労を恐れて対策を怠るのは愚かもののすることだ」
「うん。リッカくんの命がかかってるんだから」
「それで、VR感覚は治ったの?」
「分からないよ
「そっか、そうよね」
不確かな情報で惑わせたくないから言わないが、
やられたら死ぬ。
2年前の
そうすれば死にたくない一心で、高い集中力を発揮できる──という思いつきは、思っていた以上の効果を発揮した。
VR感覚が発現し、やられると本当に死ぬかと思うショックを受けるようになり、それが嫌で本当に死にもの狂いで練習して、目論見どおり上達して、世界トップクラスのS級にまでなれた。
だが。
先月、あまりのショックでついに気絶までして病院に運ばれ、そこで医師から『そのショックで死ぬ可能性もある』と教わった以上、もうそんな自己暗示はしなくなった。
だが、これまでずっとかけてきたのだ。意識的にかけなくても無意識にかけているかも知れない。それだけでVR感覚が消えるとまで楽観はしていない。
それより大きな要因と考えられるのは実機のアークの操縦と、ゲームであるアーカディアンとの体感の違いを再確認したこと。
先日、3月31日。
また、そこでは常に機動に伴うGを体に受けていた。軽業的な機動をした時などは絶叫マシーンのように振りまわされた。
だが今は。
先日と同じ
その感覚のあまりの落差から『ああ、これはゲームなんだ』と実感した。だから『こんなもので死ぬわけがないんだ』と心身が実戦とゲームを分断した感覚がある。
まだ1回、無事だっただけ。安心はできない。それでも両親と交わした『VR感覚を鈍くする方法がないか模索していく』との約束が一歩前進した。帰ったら2人に報告しよう。
とにかく今回、死亡する危険は去った。
その
「あの~」
「スミレ先生! お強いんですね。感服しました」
「ありがとう~
「ありがとうございます!」
負けたことは悔しい。しかし今回はそれを押し流すほど未知の強者、新たな目標の出現にワクワクしていた。これからこの人に学んで、もっと腕を磨いて、いつか超えてみせる。
「ところで~なんの話してたの~?」
「あっ、えーっと……それはですね」
「なるほど~、よ~く分かったわ~」
「それはよかったです」
「よ・く・な~いっ!」
「ヒッ⁉」
ズイッ! と
これまで笑顔を絶やさず、セクハラ野郎を粛正した時でさえ、決して表情には出さなかった怒気を!
(死んだ⁉)
「そういうことは、対戦する前に言いなさい! 先生、あなたを殺すところかも知れなかったってことじゃない‼」
「そういえば⁉ す、スミマセンッ! 殺さないでください‼」
「だから殺さないわよ⁉ 人をなんだと思ってるの‼」
「だって、今朝……」
「今朝のアレを厳しく罰したのは、セクハラなんて万死に値する罪を犯したからです! 今のあなたは配慮が欠けていただけで、他者の尊厳を踏みにじる意図はなかったでしょう?」
「もちろんです!」
「だったらいいのよ。今度から気をつけてくれれば。でも、無罪放免ってのも甘すぎるわね~? ちょっとお仕置きは必要かも。さ~て、どうしてくれようかしら~?」
「先生⁉」
「「ダメーッ‼」」
突撃してきた
「リッカくんの唇はわたしのです!」
「中学生にキスとか……淫行教師!」
「そんなつもりなかったわよ⁉ んもぅ、若いわねぇ。頭の中、そーゆーコトでいっぱいなのね~?」
「「がるるるるる……!」」
「やめましょ、まだ部活中よ~? でも
「は、はい!」
「だったら、わたしも残ります!」
「アタシも! 先生が
「構わないわよ~?」
「あ、俺は帰ります」
「部活が終わったら、すぐに帰るように言われているので」
「なら~なおさら~、こんなことしてる時間はないわよね~? 再開しましょう~? 次は誰が先生の相手する~?」
「
「「どうぞどうぞ」」
「ではスミレ先生、お願いします」
「は~い、
「はい」
「やきもち妬いてくれて、ありがとう」
もうVRゴーグルのヘッドフォンから響く音声しか聞こえなくなっているであろう
「リッカくんの浮気者~」
「他の女にデレデレして」
「浮気じゃないって! あんな巨乳美人に迫られたら、ドキドキするよ……そこは許して。ドキドキしようが、先生となんかする気は毛頭ない。僕がしたい相手は、2人だけだから」
「それは……信じてるけど」
「『だけ』っつーか『2人』の時点で多いのよ」
「そこは譲らないから!」
「「はいはい──あっ」」
ちゅっ♡
ちゅっ♡
「「お返し♡」」
ちゅっ♡ ちゅっ♡ 目を細めて顔をとろけさせた2人から、左右の頬に同時にキスされ
校内ではリスクが高すぎる。
「
「うっ」
「あんな、嫉妬 丸だしでリッカくんに抱きついて。絶対、先生に
「分かってる、悪かったわよ!
「うん。だから気持ちは分かるけど。先生になにか言われたら、どう言いわけするか考えておいてね?」
「はぁい……」
しょんぼりした
それから3人は、席に戻ってゲームをしてもよかったのだが、せっかくなので
戦いは、もう始まっている。
そのゲームの仮想現実での様子は、壁の大型モニターに第三者視点で映されており、3人はVRゴーグルはかぶらずそれで観戦することにした。
戦場のフィールドは、荒野。そこで
パォォォォォン‼
その姿は完全に象で、人型の要素はない。搭乗式人型ロボットというアークの定義から外れ、事実それはアークではなかった。
■ ベヒーモス ■
聖書に登場する陸の怪物の名をつけられたその象型ロボットは【
アーカディアンは、サービス開始当初はアークのみを操縦するゲームだったが、今はそれ以外のロボットも操縦できる。搭乗式ロボットの出てくる様々な創作物とのコラボという形で。
その作品のロボットを操縦したいというファンの願望を叶え、その作品の版権元にもお金が入り、その作品の人気にあやかってアーカディアン自体も繁盛する、みんなで幸せになれる企画。
■■■■とか‼
■■■■とか‼
ロボット物のアニメ・漫画・小説・ゲームの商業展開している作品のみならず、インターネットで無料公開されている非商業の作品も多数コラボしており、アークのUIで操縦できる。
この企画が始まってから
「いきます‼」
「きゃあっ‼」
ブシャアアアッ‼
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