勇者と魔法使い
すぐに全員が揃う。
皆、昂揚していた。
元々はロボット好きではなかった
先日すでに全高3.8mの搭乗式巨大人型ロボット【アーク】の実機を操縦して戦うという強烈な体験をしていることから、これまでは他の3人ほどロボット島園に熱中できなかったが。
自分がそのアーク【ブルーム】に乗った時には気づかなかった操縦方法があるとアークによる模擬戦競技【
アークの操縦方法をそのまま採用したアーカディアンでそれが叶った
「今度は4人で対戦しよう!」
せっかく4人でここに来ているのだ。4人別々に同じゲームをするより、そのほうが『一緒に遊んでいる』と思える。
「ああ、そうしよう」
「うん!」
「いいんじゃない?」
「俺はリッカとは別チームがいい」
ぴくっ──と
揉めるのは目に見えているが、自分も
「僕は賛成。2人は?」
「わたしも賛成。
「アタシも賛成。
「
「
真剣で、少し不安そうな表情で──
「「どっちを選ぶの?」」
「順々に組もうよ。対戦1回じゃどうせ満足できないだろうし、2戦目は最初とは違う相手と組むってことで」
「そっか、それもそうだね。それじゃあ最初はわたしと」
「
「2人とも──」
「「どっちを選ぶの⁉」」
振りだしに戻った。正直、じゃんけんで決めてほしかったが、ここで〔自分では選べない態度〕を取ると、どちらからも嫌われそうだ。
どちらのことも大好きで──そんな気持ちは恋とは呼べないとしても──どちらからも嫌われたくない
女心なんて分からないが、ロボット物にも男女の恋愛を描いた作品は多くある。それらから得た知見によれば、男の優柔不断は女性に大変ウケが悪い──刹那の思考ののち
「
「はいっ!」
「ッ……!」
「(怖いのう)」
「(全くです)」
蚊帳の外で、総帥と
¶
昼食後ビデオ・アーケード館に戻った4人はアーカディアンの筐体が置かれた一角の〔チーム対戦台〕と書かれた通路にやって来た。
通路を挟んで左右に5部屋ずつ、アーカディアンの筐体である個室が並んでいる。同列の部屋に入った者同士がチームとなって向かい側のチームと対戦する仕組み。
右に
左に
それぞれ部屋に、
前方開口部の上半分を塞ぐように正面モニターが下りきると、そこに使用できる機体の一覧が映される。10機種ほどのアーク、その最初に並んだ2つの名が目についた。
[ブルーム
[ブルーム
ブルーム
午前中、機甲道のスタジアムで戦っていた2機のブルームも、色は紅白に塗られていたが形はこうだった。
ブルーム
鬼に見える。
こちらは先ほどのチュートリアルで初めて見た。さっき総帥に訊いたところブルームは〔汎用アーク〕で、それはごく標準的な素体に色んな機能を追加できる仕様とのこと。
追加機能のタイプによって様々に姿を変え、【
【
その名や色が、機体に現れる。
それで、ようやく謎が解けた。
花の意味のブルームという名のロボットに龍の意匠があるのがずっと不思議だったが、それは【ブルーム】でなく【
あの日、火災に遭った
そして少し離れた別の施設にあった【ブルーム試作2号機】は
企業秘密の問題ではない。
物騒な話題を伏せたのだ。
そうとは知らない
『このチームで対戦しますか?』
■ Aチーム ■
ブルーム
スノーフレーク
■ Bチーム ■
ブルーム
クレセント
2人とも機甲道の試合中それらを熱心に見ていたし、昼食時も『チュートリアルで動かせて楽しかった』と語っていた。
なら──
Bチームの残りの【ブルーム
[☞はい/いいえ]
正面モニターに表示された選択肢でカーソルが〔はい〕にある状態で、コンソールのタッチパネルを操作して決定。他の3人も〔はい〕を選んだ表記が出て──
室内が明るくなった。
これまでほぼ密閉された直方体の空間の中、前方上半分にある正面モニターとその下の横長コンソールだけ点灯していたのが、左右の上半分と天井の3枚のモニターも点灯したから。
そして前・左右・上の4枚のモニターに、戦場となる仮想空間にいる自分の機体の頭部の前・左右・上にあるカメラが撮影した(設定の)景色が映される。
見覚えがあった。
午前中に入った機甲道のスタジアム。あそこをVRで再現したフィールドか。
自分の乗った機体はそのグラウンドの端、出撃地点のサークル内にいる。右隣には
『その剣、かっこいいね』
「勇者の剣、って感じだよね」
『そうそう、そんな感じ~♪』
ゲームのブルーム
その刀身は機体の腕より少し長いくらいで、柄は前腕くらい。その寸法も、反りのない片刃の〔直刀〕な点も、あの日1号機が
ただ外装が異なった。
特にその、柄頭の形。
令和の大直刀の柄頭にはなにも付いていなかったが、こちらの柄頭には金属製の環状の飾りが付いている。
金色に輝くその環の中には、向かいあう2匹の龍の頭部の像があって、その2匹は互いに同じ宝珠を左右からくわえている……歴史の教科書で見たことがある〔
平安時代後期に〔柄頭の膨らんでいない曲刀〕である日本刀が成立するより前の日本列島で使われていた直刀〔
その、巨人用サイズ。
今年度、小5になって夢は潰えたが。
その主人公機に双龍環頭大刀を装備した今のブルーム
アークは現実に作られたリアルロボットなのでファンタジーな装いをしても神秘の力など宿らず、外見だけのコスプレになってしまうのは少し恥ずかしいが、気にしたら負けだ。
それは魔法少女っぽい外見なだけで本当に魔法が使えるようになるわけではない【スノーフレーク】も同様。
なら──
「ファンタジーロボット作品における勇者と魔法使いのコンビに成りきってるようなもの……なのかな。今の僕たちって」
『あっ、そうかも!』
「なら──よろしくね、魔法使いさん」
『はい! 勇者様♡』
『これより
ガイド音声のアナウンスに、
『3・2・1──スタート‼』
それに応えた
シャァァァァッ‼
ブォォォォォッ‼
その隣では
一方、戦場の反対側からは。
そして──
高架道路には昇らず、その柱が林立する地上部分を進むことにした
ロボットに乗って、
ただ夢の舞台は月面だったし、自分の機体の色は緑ではなく白だった。なにより殺しあっていた夢と違って、これはゲーム。
細部は違うが、あのまま現実になられても困る。より良い形で正夢になった。あの朝ロボットに乗れない現実に打ちひしがれたのが嘘のようで、
「さぁ行くよ、トキワ‼」
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