敗北
上野公園、上空にて。
秘密結社ザナドゥの大首領、
左腕を斬り。
両脚を斬り。
最後に胸を突いて、串刺しにした。
刀が抜けると、
それでも。
貫通された胴体、センサー類のある頭部、
アークは胴体内にある、機体の制御コンピューターか
全高3.8mの搭乗式人型ロボットであるアークは、大抵の人間から見れば自らの倍以上も巨大だが、その胴体だけ見ると意外と小さい。胴体内の大半を占めるコクピットは1人を詰めこむのが精一杯な狭さ。
その、人なら心臓がある胸の中心。
パイロットの頭はその辺りに来る。
そこを
翼を広げた!
ちょうど上野公園に生える──そして今その多くが燃えている──木々の頂の高さまで落ちてきたところで
ぶわっ!
滑空し、曲線を描いて斜めに降下した
そして、その胴体上面の
「ぐっ、あっ……」
頭巾の側頭部が破れている。機体が激突・落下した時の衝撃で全身打撲になり、起きあがれず両腕で弱々しく地を這っている。
そこは上野公園の外縁にある広場だった。
上野駅のすぐ傍。昼時の今、本来ならこの辺りには大勢の人がいる。しかし声やサイレンは聞こえるが音源が遠い。近くの人は避難したらしい。
だが上野公園は燃え、この広場にも
そして広場の中央に、空から
『やぁ、怪盗殿』
「よぉ、大首領」
『刀に血がついていないので妙だと思えば。さすが怪盗、さすが忍者。刀がコクピットを貫いた瞬間、頭を横にズラしていたか』
「へ、ご明察だ……」
『そして機体を動かさず死んだフリをし、落下することで我から逃れ、激突前に機体を動かして墜落死を免れた。だが、あと一歩 及ばなかったな。その体ではもう逃げられまい』
「ちっ……」
『見事に我を欺いた褒美にここは見逃してやりたいところだが。それでは部下に示しがつかぬ』
「いい上司だぜ……!」
『そういうわけで、だ』
『さようなら。怪盗忍者1号』
「ッ──」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ‼」
ピクッ──刀を振りおろしかけた
怪盗忍者2号。
頭巾で顔を隠しているが、忍装束のデザインとその声で女性と分かる。彼女は1号が国立科学博物館の中庭に登場したのと時を同じくして中庭の外に現れていた。
そして怪盗に備えて集まった警備スタッフのアークと一緒に、そこに現れて殺戮をしていた
しかし彼女以外は全滅。
勝ち目なしと隠れていたが──相棒の危機に飛びだしてきた。そして真っすぐ
その顔にある正面メインカメラ越しに、そのコクピットの正面メインモニターを見る
「この者を殺さないでくだされ‼」
『これはこれは。怪盗忍者2号殿』
「サガルマータ殿、拙者は見てのとおり女でござる。拙者の体を好きにする代わりに、1号は助けてくだされ」
「な……!」
『取引にならぬな。我がそう約束したとして、それを履行させる拘束力は? 我は君を好きにした上で、1号殿を殺せるのだぞ』
「お頼み申す!」
「いやナニやってんだよ2号‼」
己をかばう小さな背中に怪盗忍者1号は叫んだ。2号は視線は
「なぁに、お主を捨てて逃げられるものか」
「いや! オレを連れて逃げてくんない⁉」
「そうしたいのは山々だが怪獣ロボットとの戦いで忍具を全て、だから煙幕も使いきってしまった。姿を隠せぬのでは、手負いのお主を担いで逃げてもアークからは逃げきれぬ」
「ばっ……じゃあお前だけ逃げろよ!」
「それはできぬと言った! 話 聞いてろでござるよ‼」
「いや聞いてたよ! 聞いてたけど‼」
『フハハハハハハハハ‼』
「「ッ!」」
『怪盗忍者。君たちは本当に愉快なものを見せてくれた。それに報いてやれず心苦しいが……『破壊と殺戮の限りを尽くす』のが我らの方針。2人 仲良く──』
「2号、逃げろーッ‼」
「絶対、嫌ァァァッ‼」
『死ね』
ブンッ──振りかぶられた状態でとまっていた
ズバッ……ドスッ
刀は無慈悲に振りおろされ。
切先が地面に突き刺さった。
『なにッ⁉』
「「え?」」
怪盗忍者2名は生きていた。振りおろされる途中で
刀が折れたのは、太刀筋の途上に横手から差しこまれた棒状の硬い物体に当たったためだった。
バッ‼
それは【ブルーム試作2号機・改】である
偶然だが、現在その背中に鳥翼型ユニットを装備しているのも同じ。ただしその翼は淡紅色、本体は緑色で、全身が黒地に赤の縁取りの
『貴様は』
現役を退き、国立科学博物館に寄贈され、先刻までその中庭に置かれていた。燃料などは全て抜かれて動けないはずの──
【ブルーム試作1号機・
『1号機、なぜ動いて……いや、それより。我が手勢、
『そうだ!』
1号機から少年の、
しかし彼らが
(見捨てる理由は、なにもない‼)
『そうか、今の声。我が斬った
『なにが愉快だ‼』
ブォッ‼
折れる前の
それは
殺さぬための、足払い。
その太刀筋は低すぎた。
『おっと』
『あっ⁉』
『逃げるのか!』
『ああ、逃げる。手勢は全滅、我が愛機も丸腰となっては、君に勝てそうもないからね。おめでとう、君たちの勝利だ』
ブルーム
怪盗忍者2名にも今は飛ぶ手段がない。
誰も手が出せない高みで
『ククククク……勝者を称え、敗者から負け惜しみを贈ろう! 「戦術上の勝利などくれてやる、戦略目標は達成した」と‼』
『戦略……?』
『怪盗なんぞを逮捕するため動員された大勢の警察官・警備員。そのほとんどが死んだ。この欠員はすぐに埋まるものではない。この都を守る力は減衰した』
『‼』
『一方、今日ここに率いた我が手勢は、結社の戦力のごく一部。さて、これから始まる我らの大攻勢を、君たちは防げるかな?』
『これから……』
『只今より東京は、そして日本全土は! 我らザナドゥによって恐怖と絶望の淵に沈む!
3人はそれを見送るしかなかった。
怪盗忍者1号が、地面を殴りつけた。
「くっそォォォッ‼」
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