第3話 隅々まで把握されていた

 カレーを食べ終えた私たちは、手分けして洗い物を済ませてから家を出た。


 広々とした土地の中に犬山家と猿川家だけがポツンと並び建ち、周囲を囲む田畑は大半が放置されたまま数年が経過している。



「へぇ、体育あるのね。なにやるの?」



 私の手に体操服用のバッグが握られているのを見て、彩愛先輩がつぶやく。



「はい、六限目に。確か……バスケだったと思います」



「バスケかー、あたしもやりたいわ。ところで、あんたの胸ってバスケットボールぐらいあるわよね。去年はサッカーボールぐらいだったのに」



「先輩は小学生の頃から変わらないですよね」



 胸に限らず、全体的に昔のままだ。


 本人いわく、ここから爆発的に成長するらしい。夢を見るのは個人の自由。私はなにも言うまい。



「はぁ? 誰がまな板よ!」



「え、いや、別にそんなこと一言も言ってないんですけど」



「小学生の頃はみんなまな板でしょうが! つまり、まな板扱いしてるのと同――って、そう言えば、あんたは小5の時点でDカップはあったわね」



「ありましたね」



 男子はチラチラ見てくるし、女子は遊び半分で触ってくるし。胸に関していい思い出はない。



「で、いまはIカップと。はぁ……ホント、少しでいいから分けてほしいわ」



 彩愛先輩が横目で私の胸を恨めしそうに見ながら、深い溜息を漏らす。



「って、あれ? 彩愛先輩、なんで私のカップ数を知ってるんですか?」



「この前二人でお風呂に入った時、ジーッと観察したからよ」



 前回一緒に入ったのは、一昨日だったかな。


 言われてみれば、いつもより視線を感じていた気がする。



「見ただけで分かるんですか?」



「ふふんっ、あたしの隠れた特技よ。とはいえ裸を凝視する必要があるから、歌恋にしか使えないわ」



「もしかして、身長や体重、スリーサイズも……?」



「もちろん。体重はさすがに分からないけど、身長159cm、バストはトップが110でアンダーが75、ウエストが57で、ヒップが89。他にも腕回りや股下、足のサイズ諸々もれなく把握してるわ」



 うわぁ……。


 正確すぎて言葉を失ってしまった。


 こう見えて口が堅い人だし、彩愛先輩以外に漏れないのなら、まぁいい。



「好物や苦手な物も知ってるわよ」



「あ、それは私も知ってます」



「それもそうよね。十年以上の付き合いがあるんだから」



「さすがにスリーサイズまで把握されてるとは思いませんでした」



 彩愛先輩とお風呂に入る時は、次から私も観察するようにしようかな。



「何年かしたら、あんたも似たような特技が身に着くかもしれないわよ?」



「彩愛先輩の上位互換で、体重とか体脂肪率とか、不足してる栄養素まで分かっちゃうかもしれませんね」



 そんな他愛のないことを話しながら、足並みをそろえて通学路を進む。


 いつもは途中で罵り合いながらの競走が始まったりするけど、今日は学校に着くまで終始同じペースだった。

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