第42話 一緒にシャワーを浴びるなんて当たり前①

 少し遅めの朝ごはんを食べた後、食後の運動として近所を散歩することになった。


 ゴールデンウィーク初日とはいえ、交通量や人通りはいつも通り。


 住宅街の方へ行けば飲食店やコンビニなどが普段以上に賑わっているんだろうけど、あえてその中に飛び込むという発想はどちらの口からも出ない。


 道路と田んぼに挟まれた歩道を歩き、ある程度進んだところで引き返す。いつも通りの散歩コースだ。


 今日は思っていたより陽射しが強く、家に着く頃には全身がじっとりと汗ばんでいた。


 先ほどまで彩愛先輩の家にお邪魔していたので、今度は私の家に招待する。


 ひとまずシャワーを浴びることになり、彩愛先輩は一旦自宅に着替えを取りに戻った。


 再合流して脱衣所に行き、一刻も早く汗のベトベト感から逃れようと服を脱ぐ。


 あっという間に脱衣を終えた私たちは、浴室に入る前にふと向き合い、ピタリと動きを止める。


 一緒にシャワーを浴びるなんて幼い頃からの習慣だけど、朝にあんなやり取りを交わしたばかりだから、どうしても相手の体を意識してしまう。



「歌恋……っ」



 先に動いたのは、彩愛先輩だった。


 とは言っても、浴室に足を踏み入れたわけではない。


 向き合ったまま、私をギュッと抱き寄せた。



「汗をかいてるのに、甘い香りがするわ。すごくいい匂い」



 胸に頬ずりしながら、そんなことを漏らす。


 私が照れて反応に困っている間に彩愛先輩は谷間の奥へと顔を埋め、大きく深呼吸をする。



「ここはさすがに汗臭いわね」



「なっ! む、蒸れやすい場所なんだから仕方ないじゃないですか!」



 一瞬にして羞恥のピークに達した私は、慌てて彩愛先輩を引き離し、タオルを持って一足先に浴室へと移動した。



「歌恋っ!」



「な、なんですか?」



 大きな声で呼ばれ、何事かと振り返る。



「こんなこと言ったら、ドン引きされるかもしれないけど……あ、あたしは、あんたの汗の臭い、わりと好きよ」



「なかなか特殊な性癖を持ってるんですね」



 私はちょっと意地悪な返答をした後、さらに言葉を重ねる。



「私も同類ですから、彩愛先輩を責めることはできませんけど」



「えっ!?」



 彩愛先輩が驚きの表情を浮かべ、私はふふっと微笑む。



「それって……歌恋は自分自身の汗の臭いが好きってこと? えっ、それはさすがに引くんだけど……」



「バカ! 違いますよ! どう解釈したらそういう意味で捉えられるんですか! 彩愛先輩が私に言ってくれたのと同じように、私も彩愛先輩の汗の臭いが好きってことですよ!」



 とんでもない勘違いに、私の顔から笑みが消えた。



「あ、なるほど。まったく、紛らわしい言い方するんじゃないわよ」



「全っ然、紛らわしくないですよ!」



「まぁ、改めて考えればそうかもしれないわね。ふむふむ、歌恋はあたしの汗に興奮して劣情を抑えられなくなる、と」



「別にそこまで言ってませんよ!」



「そうなの? あたしは正直、あんたの汗の香りを嗅ぐとめちゃくちゃ興奮するわ」



「んなっ!?」



 衝撃の事実が発覚して、私は目を見開いて驚きの声を上げる。


 さっきの『わりと好き』というのは、控えめな表現だったらしい。


 一緒にシャワーを浴びるなんて日常茶飯事なのに、今日はなにかとイレギュラーが多い気がする。


 なにかの前触れだったりするのだろうか。

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