第43話 一緒にシャワーを浴びるなんて当たり前②

 片方がバスチェアに座って洗っている間、もう片方は湯船の淵に腰を預けて待つ。


 先に洗い終えた彩愛先輩と言葉を交わしながら、私はボディタオルを体に走らせる。



「それにしても、あんたってホントにきれいよね」



「な、なんですか、急にそんなこと……」



 唐突に発せられた賛辞に、一瞬体が強張る。


 怪訝に思いつつも、好きな人に褒められたことで気分は否応なく高揚してしまう。



「照れ臭いのを我慢して正直に褒めてあげてるんだから、あんたも素直に受け取りなさいよ」



 やたらと上から目線なのが気になるけど、先ほどの言葉が紛れもなく彼女の本心であると分かって、さらに胸が高鳴る。



「あ、彩愛先輩だって、その……き、きれいですよ」



 手を動かしながら視線をチラッと隣に移し、私も本音で答える。


 キラキラと輝く黄金の髪、宝石のような紺碧の瞳、幼くも整った容姿に、透き通るように美しい色白の珠肌。


 小学生と見紛うほどに未成熟な体型ではあるけれど、それは美しいという評価を覆す要因には成り得ない。



「どっ、どこ見て言ってんのよ! 嬉しいけど、なんか恥ずかしいじゃない!」



 彩愛先輩は予想と違う反応を示し、いままで大胆に開いていた両脚を勢いよく閉じる。


 不思議に思って少し考えてみたところ、アソコについての感想を漏らしたと誤解されたのではないか、という結論に至った。



「勘違いしないでください! 私は顔とか体とか、彩愛先輩の全身に対してきれいだって言ったんです! 確かにそこもきれいですけど、その一点に絞って褒めたわけじゃないですよ!」



「ホントに? 自分で言うのもなんだけど、あたしの体なんて歌恋と比べたら魅力の欠片もないわよ?」



「そんなことないです! 彩愛先輩は充分すぎるほどに魅力的です!」



「そ、そう?」



「はい、断言できますっ」



 体を洗う手を止めて、彩愛先輩の目を見てキッパリと告げる。


 すると、彩愛先輩は視線を顔ごと左右に泳がせ、空っぽの浴槽に身を隠した。



「ずっと怖くて聞けなかったんだけど……同情とか気遣いじゃなくて、歌恋はホントにあたしとエッチしたいって思ってくれてる?」



「思ってますよ」



「こんな子供みたいな体でもいいの? ちゃんと愛してくれる?」



 どうやら私が思っている以上に真剣な悩みだったらしく、彩愛先輩の声はいつになく弱々しい。



「もちろんです。彩愛先輩がどんな体型だろうと関係ありません」



「そっか……」



 私の返答を聞いた彩愛先輩の声は小さいままだったけど、しみじみと噛み締めるような、とても満足気な声色だった。



「よしっ、これでもう完全に吹っ切れたわ! 歌恋っ、この後エッチするわよ!」



「ゔぇっ!?」



 スッと立ち上がった彩愛先輩がとんでもないことを口走ったおかげで、私は驚きのあまり変な声を漏らし、ついでにボディタオルも落としてしまう。


 彩愛先輩は意気揚々とシャワーヘッドを手にして私の目の前へと移動し、体中の泡を洗い流してくれる。



「ん、オッケー」



「ありがとうございます」



「ところで、返事をまだ聞かせてもらってないんだけど?」



「まったく……」



 答えなんて最初から決まってるのに。


 私はバスチェアから立ち上がり、彩愛先輩の両肩を優しく掴む。


 そしてゆっくりと顔を近付け、唇を重ねる。


 この行為は言葉よりも鮮明に、私の意思を届けてくれた。

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