第33話 ひたすらイチャイチャしてみる②

 情熱的な抱擁を交わしてから半時間ほど経ち、自宅にて登校の支度を済ませた私は再び彩愛先輩の家を訪れた。


 自分で言うと悲しくなってくるけど、彩愛先輩が朝食当番の日は安心して食事ができる。


 テーブルにはサラダとコーンスープに加え、彩愛先輩の前にはピザトースト、私の前にはフレンチトーストが用意されている。



「彩愛先輩、きっといいお嫁さんになれますよ」



「ありがと。歌恋が貰ってくれるのよね?」



「ふぇっ!? は、はい、それはもう、も、もちろんです」



 寝起きのハグによる気恥ずかしさがようやく抜けた頃だというのに、いまのやり取りで再燃してしまった。



「そ、そんなに照れられると、こっちまで恥ずかしくなってくるんだけど……」



 彩愛先輩の顔も見る見るうちに赤くなり、二人していつになく弱々しい声で「いただきます」と言って食べ始める。


 ふわとろのフレンチトーストは一生食べ続けたいほどにおいしく、コーンスープもインスタントとは明らかに味の深みが違う。


 サラダの盛り付けもきれいで、炊事における実力の差を痛感させられる。


 同じ時間をかけて同じ材料を使ったとしても、私が作ると目も当てられない有様になるはずだ。


***


 朝食を終えて一緒に洗い物を済ませ、いつも通り二人で学校へ向かう。


 腕を組んで歩くという案も出たものの、いささかハードルが高いので、手を繋いで歩くことにした。



「毎日のことだけど、隣で胸をぶるんぶるん揺らされると腹立たしいわね」



「私としては、彩愛先輩の真っ平らな胸が羨ましいです」



 刹那、お互いに手を握る力が一気に強まる。



「謝るならいまのうちよ?」



「そっちこそ、いまなら土下座で勘弁してあげますよ」



 ギュウゥゥゥッッ。双方の手に、相手の指が食い込む。


 出血こそしていないものの、痣が残ってもおかしくないほどに力がこもっている。



「あんた、クラスメイトにおっぱい揉まれてるのよね?」



「そうですね、たまに」



 彩愛先輩ほどの頻度ではないけど、中学時代からの友人やノリの軽いクラスメイトは冗談半分で私の胸を揉む。


 女子校だからか、私に限ったことではなく、似たような光景はチラホラ見かける。



「あたしのおっぱいなのに」



「彩愛先輩のではないですけど……次からはちゃんと断りますよ」



 もともと彩愛先輩以外に触られることを快く思っていたわけではないし、ちょうどいい機会だ。


 こんなに嫉妬心を剥き出しにするなんて、なんだかんだ言っても私の胸を気に入ってくれているのかな?



「彩愛先輩が揉みたいなら、好きなだけ揉んでくださいね」



「周りに誰もいないからって、よく往来でそんなエッチなこと言えるわね」



「べっ、別にエッチな――って、言われてみれば、確かにそうかもしれないです」



「それと、あんまり誘惑するようなことを言わない方がいいわよ」



「なんでですか?」



「我慢できなくなったら、襲っちゃうかもしれないでしょ」



「なるほど……気を付けます」



 とは言ったものの、正直なところ彩愛先輩になら襲われても一向に構わないので、特に気を付ける必要はなさそうだ。

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