第62話 前向きに捉えることが大事

 私のお母さんと彩愛先輩のお母さんが並び、テーブルを挟んで私と彩愛先輩が座る。


 尋常ならざる緊張感の中、私たちはリビングですべてを打ち明けた。


 先月から交際を始めたことはもちろん、ゴールデンウィーク中に一線を越えたことも。


 先ほど目撃された件について、決して軽い気持ちで行為に及んだわけではなく、心から愛し合っているからこそ肌を重ねたのだと、生まれて初めてと言っていいぐらい真剣に話した。


 その結果、お母さんたちが見せた反応は――


***


「いやー、まさかあそこまで祝福されるとは」



「予想外でしたけど、素直に嬉しいですよね」



 コンビニのイートインで先ほどの出来事を振り返り、ふふっと微笑む。


 あの時、お母さんたちは嬉し涙まで浮かべて、私たちの関係を応援してくれた。



「……でも、まだまともに顔を見れそうにないわ」



「……私もです」



 私たちの顔から笑みが消え、視線は虚空をさまよう。


 親に恋人を紹介した結果としてはこの上なく喜ばしい展開だと思うんだけど、やっぱり直前の出来事を頭から切り離すことができない。



「お母さんたちが家にいることを忘れて、我慢せずに喘いじゃった……あれ絶対聞かれてたわよね」



「私なんて、思いっきり目が合っちゃいましたよ」



 彩愛先輩が私をベッドに押し倒すような体勢だったので、視線をずらせば部屋の扉が目に映る。


 突如として現れた人影に気付いた瞬間、心臓が止まるかと思うぐらいビックリした。


 ここがコンビニじゃなくて自分の部屋だったら、頭を抱えて悶絶していたに違いない。



「で、でも、前向きに考えたら家族公認の仲になれたってことよね!」



「そっ、そうですよねっ」



 羞恥心を無理やり振り払おうと早口でまくし立てる彩愛先輩に、私も力強く同意する。


 お母さんにエッチを見られたショックは当分消えないだろうけど、私たちの関係を打ち明けるためのきっかけになったと思えばいい。

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