第61話 現実逃避したい時もある②

 悲劇が起きたのは、私たちがコンビニに足を運ぶ十数分前。


 さらに元を辿るなら、そこから半時間ほど前になるだろうか。


 学校から帰った後、私は彩愛先輩の家にお邪魔した。


 リビングでお茶を飲みながら話していると、彩愛先輩のお母さんが仕事から帰宅。


 なぜか私のお母さんも一緒だったので気になって理由を訊ねると、駅で偶然会ったとのこと。


 談笑の場としてリビングを譲り渡し、私たちは彩愛先輩の部屋へと移る。


 学生時代からの大親友であるお母さんたちは、話し始めるとかなり長い。それこそ、時間を忘れて盛り上がる。


 晩ごはんがいつもより遅くなるのはほぼ確定事項だ。


 半ば無意識でベッドに腰かけると、彩愛先輩が正面を塞ぐように立った。



「ねぇ歌恋、少し肌寒くない?」



「え? 別に――」



「寒いわよね?」



 私の言葉を遮って彩愛先輩が言葉を重ね、圧力をかけるように顔を近付けてくる。



「さ、寒いですね」



 有無を言わせぬ勢いに押し切られる形で、苦笑いしながら話を合わせた。


 次の瞬間、彩愛先輩の両手が私の肩をグッと掴み、そのままベッドに押し倒す。



「嫌ならすぐにやめるから、いつでも言いなさい」



 ここに来てようやく、彩愛先輩の意図を理解した。



「嫌なわけないじゃないですか。まったく、柄にもなく回りくどいことを……」



 私は彩愛先輩を抱き寄せ、同意を示すようにキスをする。


 動きやすいようにベッドの中央へと体をずらし、邪魔くさい制服を脱ぎ捨て、体を温め合うという名目のもと肌を重ねる。


 何度もキスをして、気持ちいいところを優しく触り合って。


 すっかり夢中になった私たちは、互いの敏感なところを密着させ、激しい運動でベッドを軋ませた。


 長年使っているベッドは思いのほか音を立て、振動は階下に響く。


 この部屋の真下にはリビングがあり、お母さんたちが会話に花を咲かせている。


 娘たちがいる場所から急に不自然な物音が聞こえれば、心配になるのも当然――ということを、愛の営みに熱中している私たちはわずかばかりも考えなかった。


 その結果、悲劇が起こる。


 俗に言う、親バレ。


 物心つく前から幼なじみとして姉妹同然に育ってきた娘たちが、一糸まとわぬ姿で交わり、淫らな喘ぎ声を上げている。


 驚きの度合いは計り知れず、お母さんたちの存在に気付いた私と彩愛先輩もまた、同等かそれ以上の衝撃を受けた。

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