第40話 ゴールデンウィーク②

 平常心を取り戻した彩愛先輩と共にベッドに腰かけ、事の詳細を聞く。



「さっきも弾みで言った気がするけど、要するに予行練習よ。あんたと、その……エッチする時、どういう風に誘おうかと思って」



「そこにいきなり私が現れた、と」



「そう。さすがのあたしも、ちょっとだけ動揺しちゃったわ」



 ちょっとだけ……?


 いや、彩愛先輩がどう思おうと自由だ。なにも言わないでおこう。


 蒸し返してまた暴れられても困る。



「せっかく二人きりなんですから、イチャイチャしましょうよ」



 私はそれとなく移動し、彩愛先輩との距離を詰める。


 暑苦しいと言われるのは承知の上でギュッと密着して、そっと腕に抱き着く。



「そ、そそそっ、そうね、せせ、せっかく二人きりなんだから、いいい、イチャイチャしたいわね」



「大丈夫ですか? 様子がおかしいですけど……」



「べっ、別におかしくないわ! あんな話の後だから、あんたのおっぱいを意識してエッチな気分になってるだけよ!」



「そ、そうですか」



 いくら私たちの仲とはいえ、よく堂々と本人相手に言えるものだ。



「さっきから一人で慌てて、みっともないわよね。すぐに普段通りのクールさを取り戻すわ」



 と言って、彩愛先輩はゆっくりと呼吸を繰り返す。


 普段の自分がクールだという呆れた思い込みについては、いまは指摘しない方がいいかな。



「――よしっ、落ち着いたわ。それじゃ、とことんイチャイチャするわよ!」



「はいっ、イチャイチャしましょう!」



「まずはキスよ!」



「望むところです!」



 私たちは体勢を変え、ベッドに腰かけたまま相手の方を向く。


 手を握り合いながら顔を近付け、チュッと唇を重ねた。



「……い、勢いに任せてみたけど、やっぱり照れるわね」



「そ、そうですね」



 これまでにも経験しているとはいえ、キスにはまだいろんな意味で慣れていない。


 数秒ほど唇が触れ合っていただけなのに、幸せな気持ちで心がいっぱいになって、体がポカポカと温かく、彩愛先輩を愛しく思う気持ちが際限なく溢れてくる。


 見慣れた顔を直視できないくらい照れてしまい、一度視線を逸らした後、すぐには目を合わせられない。


 つくづく痛感させられる。


 子供の頃にあいさつ感覚でしていたキスと同じはずなのに、まったくの別物であると。



「キスがこんなに気持ちいいなんて、子供の頃は思わなかったわよね」



「奇遇ですね、私も同じようなことを考えてました」



 その先にある行為は、いったいどれだけ気持ちいいのだろう。


 肌を重ねて、心で通じ合う。一線を越える時は、そう遠くない。


 あえて言葉には出さなかったけど、彩愛先輩も同じことを考えている気がした。

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