第27話 相変わらずな私たち

 付き合い始めてから一夜明け、日曜日。


 二人とも特に予定がなく、いつも通り一緒に過ごすことになった。


 最近はなにかと私の部屋に集まることが多かったので、今日は本人からの申し出により彩愛先輩のお部屋に赴く。


 窓から窓へ移動するという横着な手段は用いず、靴を履き替えて普通に家を訪ねる。


 ご両親は買い物に出かけて不在とのことなので、合鍵を使って勝手に上がらせてもらった。



「お邪魔します」



 一声かけてからスタスタと足を進め、二階にある彩愛先輩の部屋に向かう。



「来ましたよー」



「ん」



 ベッドでゴロゴロしている部屋の主と短いやり取りを交わし、ポーチを適当なところに置いてベッドに腰かける。


 まさに、実家のような安心感。彩愛先輩が身にまとう甘い匂いが充満していなければ、自室だと錯覚してしまうかもしれない。


 辛い物ばかり食べているくせに、なぜ全身から甘美な香りが漂ってくるのだろう。



「彩愛先輩って、こっそり高級な香水とか使ってたりします?」



「はぁ? そんなわけないじゃない。香水を使うほど意識が高いなら、まず簡単なメイクから覚えるわよ」



「ですよね」



 以前からやけにいい匂いだとは思っていたけど、恋愛対象として意識し始めたからだろうか……この香りに包まれていると、いつになくドキドキする。


 ちょっと待って。


 私って臭くないよね?


 無自覚なだけで、実は体臭がキツかったらどうしよう。



「彩愛先輩、正直に答えてほしいことがあるんですけど……」



「なによ?」



「私って、臭いですか?」



「……正直に答えていいのよね?」



 彩愛先輩はスマホを枕元に置き、私の隣に座り直す。



「も、もちろんです。気遣いは無用ですから、正直に答えてくださいっ」



 どんな内容であろうと、恋人の素直な感想を受け止める覚悟はできている。



「ハッキリ言って、めちゃくちゃいい匂いよ」



「ほ、本当ですか!?」



 やった! 臭くないどころか、いい匂いって言ってもらえた!



「理性を保ち続けている自分を褒め称えたいぐらいだわ」



「う、嬉しいですっ、彩愛先輩もすっごくいい匂いですよ!」



「ありがと。でも、さすがに歌恋には負けるわ」



「いやいや、そんなことないですよ。彩愛先輩の方が遥かにいい匂いです」



「謙遜しなくていいわ。あんたの方がいい匂いよ」



「違います、彩愛先輩の方がいい匂いです! 大事なことだからって何度も言わせないでください!」



「それはこっちのセリフよ! 歌恋の匂いが世界一ってのは絶対的な事実なんだから、いちいち言わせんじゃないわよ!」



「このっ――」



「いい加減に――」



 頭に血が上った私たちは、胸倉を掴み合い、ベッドの上で激しく暴れた。


 こういう状況なのにエッチな雰囲気が皆無というのはちょっぴり残念だけど、いかにも私たちらしくてホッとする。

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