第51話 片時も離れない①
私は特別怖がりというわけではない。
ただ、さっきスマホで観たホラー映画が、偶然にも私の苦手な怖さを詰め込んだような作品だっただけだ。
「ちょっと歌恋、さすがに動きづらいんだけど」
「少しぐらい我慢してください」
一緒に映画を観ていた彩愛先輩にピッタリと密着し、片時も離れまいという意思を示す。
雑誌を読んだりスマホをいじったりする際も同様なので、彩愛先輩が苦言を呈するのも無理はない。
「お子様のあんたには、まだ早かったかしら?」
「別に怖がってないです。これはただ、少しでも彩愛先輩のそばにいたいって思ったまでです」
彩愛先輩の煽りに、私は毅然とした態度で返答する。
ハッキリ言ってトラウマを抱えるぐらい怖かったけど、それを素直に告げるのはなんとなく悔しい。
「うっ、嬉しいけど、そういうことは建前じゃなく本音として言いなさいよね」
動揺する彩愛先輩を見て、自分の発言を振り返る。
怖いのを隠すのに必死で、意図せず大胆なことを口走ってしまっていた。
「本当に怖がってないですけど、いま言ったことも、紛れもない本音ですよ」
私がそう言うと、彩愛先輩は照れ臭そうに口をもにょもにょと動かし、無言のまま手をギュッと握ってくれた。
心が温まる幸せなひと時に癒されるのも束の間、彩愛先輩が「ちょっとトイレ」と告げて立ち上がる。
当然のごとく、私も一緒に立ち上がる。
「もしかして、トイレまで一緒に来るつもり?」
「もちろんです。私たちの絆は誰にも引き裂けませんよ」
彩愛先輩の疑問に、私は力強く即答した。
「まさかとは思うけど……さすがに中までは入らないわよね?」
「私たちはどんな時でも一緒ですよっ」
「……あんた、さっきの映画が相当怖かったのね」
「べっ、別にそんなことないですけど? そんなことより、早く行かないと漏らしちゃいますよ! ほらっ、急いでトイレに駆け込みましょう!」
「そこまで切羽詰まった状況じゃないから、ゆっくりでいいわよ」
「じゃあ、先に使わせてもらってもいいですか?」
実は密かに尿意を我慢していて、限界がすぐそこまで近付いている。
「はぁ……怖いならいくらでも付き添ってあげるから、恥ずかしがらずにもっと早く言いなさいよね。我慢しても体に害しかないわよ」
優しい上にどこまでも正論な言葉に、私はただうなずくことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます