第12話 恋愛について

 学校からの帰り道、辺りに誰もいないことを確認してから、やや早口で話を切り出す。



「彩愛先輩って、カップルのキスシーンを目撃したことあります?」



「は? 急にどうしたのよ?」



「実は、昼休みに校舎裏で見てしまったんです。二人ともすごく幸せそうで、恋愛って素敵だなぁって。あっ、もちろんすぐに立ち去りましたよ!」



「なるほど、そういうことね。まぁ、うちの学校ってカップルがめちゃくちゃ多いから、そういう現場に出くわすこともあるわよ」



「そ、そうなんですか」



 初耳だ。百合趣味な人が多いことは知っていたけど、そんなにカップルが多いとは。


 先生や用務員さんも全員女の人だし、もしかしたら職場恋愛とか、生徒との禁断の恋なんてパターンも……。



「ところで、彩愛先輩は恋人とか好きな人っているんですか?」



「別にいないわよ。言い方は悪いかもしれないけど、恋愛にそれほど興味ないし」



 彩愛先輩の返答を聞いて、なぜか心から安堵した。


 それと同時に、恋愛に興味がないという発言に悲しみを覚える。


 恋愛観が十人十色なんてことは百も承知だけど……なんだろう、自分でもよく分からない。



「そんなこと言って、本当は自分と無縁だからって強がってたりしません?」



 得体の知れないモヤモヤした気分を振り払うため、彩愛先輩をからかうことにした。


 ケンカになるかもしれないけど、いまはその方がありがたい。



「違うわよバカ。こう見えても、あたしは高校に入ってから二回も告白されたのよ。強がる必要なんて――」



「嘘っ!? だっ、誰にですか!? 私の知ってる人ですか!? 返事はなんて言ったんですか!? 実は私に内緒で付き合ってたりしませんよね!?」



 衝撃が強すぎて、食い気味に質問を連発してしまった。



「な、なんでそんなに取り乱してるのか知らないけど、少し落ち着きなさいよ。さっき言ったでしょ、恋愛にそれほど興味ないって。二人とも断ったわよ」



「す、すみません、つい……そうですか、断ったんですね」



 よかったぁ……。


 ん……あれ?


 私、なんでこんなにホッとしてるんだろう?



「彩愛先輩なんかにフラれるなんて、その二人がかわいそうです。ひどいです、鬼畜の所業です」



「殴られたいなら素直にそう言いなさいよ。好きでもないのに付き合う方が、よっぽどひどいじゃない」



「それもそうですよね、ごめんなさい。ちょっとからかっただけなので、気にしないでください」



「で、あんたはどうなの? さっきの口ぶりだと恋愛に憧れてるっぽいけど、好きな子とかいるの?」



 好きな子と言われても特に思い当たらないので、「いないです」とだけ答える。


 あまりにも付き合いが長く、こうして一緒に下校していることもあって彩愛先輩の顔が浮かんだけど、この話とは関係ないので黙っておく。


 冗談でも『真っ先に彩愛先輩の顔が浮かんだ』なんてことを口にすれば、どれだけの期間いじられ続けるか分からない。


 恋愛に興味のない彩愛先輩を慮って、この辺りで話題を変えることにした。

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