第67話 いつも通りの幸せな光景
隣の家から漏れる爆音アラームで、夢から現実へと強制的に引き戻された。
この大音量ならすぐに起きるだろうと思いつつも、それが希望的観測に過ぎないことは痛いほど理解している。
布団を跳ね除け、カーテンと窓を開け放ち、身を乗り出して向かいの窓をドンドンとノック。
一連の行動は体に染みついているため、ほとんど無意識のうちに動いていた。
五回ほどのノックを経て、窓の向こう側で人影が動く。
こちらと同じようにカーテンと窓が開かれ、私は窓を伝って数十センチばかりの距離を詰め、彩愛先輩の部屋にお邪魔する。
「彩愛先輩っ、せめてもう少し音量を下げてください!」
寝ぼけ眼をこする彩愛先輩に対し、私は開口一番に苦言を呈した。
と、ここで二人の取り決めを思い出して、ハッとなる。
すでに怒りをぶつけてしまったけど、それを帳消しにするぐらいイチャイチャすれば問題ないはず。
都合のいい考えのもと、依然としてボーッとしている彩愛先輩の肩を掴む。
「なぁに? どしたの?」
昨夜は眠りに就くのが遅かったのか、いつにも増して眠気が残っている様子だ。
なにも分かっていない彩愛先輩に顔を近寄せ、おもむろに唇を重ねる。
「んぅっ!?」
「ちゅっ、んっ、ちゅ、ちゅるっ、んんっ」
動揺する彩愛先輩から視線を逸らさず、背中に手を回してギュッと抱きしめながら口付けを交わす。
そうしているうちに彩愛先輩も完全に目が覚めたらしく、キスをしながら私のことを力強く抱きしめてくれた。
朝早くから愛に満ちた本気のキスをじっくりと堪能した後、唇の端から漏れそうになっていた唾液をペロリと舐め取る。
「今日はやけに過激だったわね。もしかして発情期?」
「ちっ、違います! 取り決めを忘れて怒鳴っちゃったから、イチャイチャの度合いを強めれば帳消しになるんじゃないかって思ったんです」
「あー、なるほど。じゃあ、あたしも今度うっかりした時は真似させてもらおうかしら。せっかくだから、意表を突きたいわね」
事情を話すと、彩愛先輩はあごに手を当ててニヤリと笑う。
「ロクでもないことを考えてそうな顔ですね」
「そんなことないわよ。極めて純粋かつ健全な内容に決まってるじゃない」
「具体的には?」
「歌恋が快感のあまりなにも考えられなくなるまで徹底的に責め続ける」
「それでよく純粋かつ健全だなんて言えましたね……」
「歌恋への純粋な気持ちと、好きな人を気持ちよくさせたいという健全な欲求。なにも間違ったことは言ってないじゃない」
「嬉しいですけど、なんか屁理屈っぽいです」
「うっさいバカ! なんならいますぐ実行に移してもいいのよ!」
「バカはそっちですよ! 遅刻しちゃうじゃないですか! 帰ってからにしてください!」
決して時間に余裕があるわけではない、平日の朝。
私と彩愛先輩は、今日も変わらず騒がしいやり取りを繰り広げている。
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