番外編
今日は百合の日
六月二十五日は、百合の日と呼ばれている。
幼なじみにして犬猿の仲でもある私と彩愛先輩も、いまではれっきとした恋人関係だ。
平日だから夕方まで学校があるし、なにか特別なことをするわけではないけれど。
「今日ぐらいは、ケンカせずに仲睦まじく過ごしたいですね」
「それに明日は休みだから、今日は夜通し愛し合うわよ」
そんな会話を繰り広げながら登校して、普段通り放課後を迎えた。
さりげなく手をつなぎ、他愛のない雑談をしながら帰り道を歩く。
ちょうど中間地点ぐらいまで進んだところで急に雲行きが怪しくなり、スマホで降水確率を調べている間に頭上から雨粒が降り始めてきた。
「歌恋、折り畳み傘持ってる?」
「ないです。彩愛先輩は?」
「持ってると思う?」
「……走りましょうか」
「そうね。転ばないように気を付けなさいよ」
こうして私たちは足元に注意しつつ、駆け足で帰宅した。
「あたしたちへの嫌がらせみたいなタイミングで降ったわね」
「本当にそうですよね。玄関の扉を開ける頃には、ちょっと晴れ間も見えてましたし」
天気に文句を言っても無意味なのは重々承知しているけど、それにしても間の悪い通り雨だ。
時間にして十数分程度とはいえ、ゲリラ豪雨と言ってもいいレベルの激しい降り方だった。
おかげで制服はもちろん、下着や靴下もずぶ濡れ。
「彩愛先輩、とりあえずシャワー浴びましょうか。一緒に浴びますよね?」
私がそう訊ねると、彩愛先輩は「もちろん」と即答。
あんまりのんびりしていると風邪をひいてしまうため、着替えを用意してすぐさま脱衣所へ向かう。
彩愛先輩の着替えは、以前泊まった際に置いて行った服がある。
「ずぶ濡れの服を脱いだだけでも、ちょっとした爽快感があるわねっ」
脱衣所に着くや否やあっという間に一糸まとわぬ姿となり、清々しい笑顔を浮かべる彩愛先輩。
私も少し遅れて脱衣を済ませ、棚からタオルを取る。
「ほら歌恋、今日は特別にあたしの色っぽい姿を見せてあげるわ。地面にめり込むぐらい深く感謝しながら、しっかりと目に焼き付けなさい」
なんてことを口走りつつ、彩愛先輩が胸とお尻を強調した独特なポーズを決めた。
正直な意見を述べるなら、色気なんて微塵も感じない。
とはいえ、「全然色っぽくないです」なんて言ったら彩愛先輩を傷付けてしまう。
ここはひとつ、オブラートに包んだ返答を心がけよう。
「頑張って背伸びしてる子供みたいでかわいいです」
「ふざけんなこのバカ! なによ、ちょっとばかり――というかめちゃくちゃ胸がでかいからって! 腹いせに揉んでやるわ!」
言うが早いか、彩愛先輩が私の胸を両方とも正面からガシッと鷲掴みにする。
「まったく、腹立たしいわ! 相変わらず大きさも柔らかさも弾力も質感もなにもかも最高のおっぱいで、一度触り始めたら手が離せないじゃない!」
「お、怒りながら褒めないでくださいよっ」
こうしている間にも、彩愛先輩の指が不規則に動き続け、私の胸に甘い刺激を走らせている。
ボディタッチに対する捉え方は人それぞれだと思うけど、個人的な意見としては、大好きな人に触ってもらえるのはこの上なく嬉しい。
反抗的な態度を取ったり文句を言うこともあるものの、彩愛先輩に触られて嫌だと感じたことは一度もない。
つまるところ、いまの状況は非常に危険だ。
少しでも油断すれば、シャワーを浴びる前のちょっとしたスキンシップに過ぎない行為で絶頂を迎えてしまう。
「彩愛先輩っ」
私は彩愛先輩の手を掴んで引き離すと同時に、正面からギュッと抱きしめた。
「えっ、な、なに? ど、どうしたのっ?」
「私なりの反撃ですっ、覚悟してください!」
「あたしだって負けないわよ!」
抱き合ったままお互いに相手の体を撫で回し、肩を甘噛みしたり首筋にキスをしたりと、スキンシップの内容が段々とエスカレートしていく。
それから少しして我に返り、シャワーを浴びてしっかりと体を温めてから私の部屋で楽しい時間を過ごす。
仕事から帰ってきた両親が寝静まった後、彩愛先輩が今朝の登校中に言っていた通り、私たちは夜を徹して愛し合うのだった。
犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話 ありきた @ARiKiTa9653
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