第38話 クレーンゲーム②
私と彩愛先輩はクレーンゲームで獲得したぬいぐるみを、お互いにプレゼントした。
おそろいの大きなぬいぐるみを抱いて帰路に着く――という穏やかな雰囲気にはならず、些細なやり取りが引き金となって例のごとくケンカが勃発する。
ゲームコーナーの中に足を踏み入れた私たちは、別々に行動し、飢えた肉食獣のごとく獲物を探す。
クレーンゲームの筐体は店内にもたくさんあり、ストラップやお菓子など、様々な景品が用意されている。
「……これならっ」
落とし口に半分引っかかっていまにも落ちそうなお菓子を見付け、すぐさま百円玉を投入。
お世辞にも自分だけの手柄とは言えないけど、無事に目的の品を獲得できた。
すぐ近くで、彩愛先輩が同じようにキーホルダーを手に入れている。
突発的に始まったこの勝負に、明確なルールはない。
けど、勝利条件なんて相談せずとも決まっている。
相手が負けを認めざるを得ないほどの戦利品をゲットした方が、今回の勝者だ。
それが暗黙の了解であると裏付けるかのように、私と彩愛先輩は一瞬だけアイコンタクトを交わし、立ち止まることなく次なる獲物に向かった。
時間が経つにつれ、追加で貰ったビニール袋が多種多様な品で重くなっていく。
使った額も顧みず、私たちは時に両替を挟みつつ、一心不乱にクレーンゲームの筐体を渡り歩いた。
***
およそ一時間後。私と彩愛先輩はほぼ同時に財布の中身が尽きて、その事実を冷静に受け止めて顔面蒼白になり、激しい後悔に苛まれながらトボトボと帰宅した。
常に全財産を持ち歩いているわけではないとはいえ、受けたショックは非常に大きい。
次にクレーンゲームで遊ぶ際は、あらかじめ使う金額を決めておかなければ。
落ち込んでいても仕方がないので、私の部屋でお菓子パーティーを開催することに。
「これとか、どう考えても普通に買った方が安いわよね」
「それは言わない約束ですよ」
「んっ、これ初めて食べたけど意外においしいっ。ほら、あんたも食べてみなさいよ」
「あむっ……んんっ、確かにおいしいですっ」
「あのお手玉みたいなマスコット、なかなかかわいいわね」
「ですよね。枕元が賑やかになって嬉しいです」
「いいじゃない。あたしも帰ったら飾ろうかしら」
先ほどまでの落ち込み様が嘘のように、私たちは明るい笑顔を浮かべていた。
ケンカの勝敗については、どちらも触れない。
こうして仲よく楽しめているのだから、今回は引き分け――というより、二人の勝ちということで。
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