第49話 1on1①

 家から住宅街の反対側に向けて十数分ほど歩いたところに、教室と同程度の広さを持つ小ぢんまりとした公園がある。


 老朽化した遊具が数年前に撤去され、代わりにバスケットゴールが一つ、新たに設置された。


 住宅街の方にバスケやテニスのコートを擁する運動公園があるので、前述の公園に足を運ぶのは私と彩愛先輩だけだ。


 私たちにしてみれば最寄りの公園だし、周りを気にせず動き回れるので好都合と言える。


 今日は一対一でバスケをしようという話になって、いままさに物置からボールを引っ張り出して空気を入れているところだ。



「なんとなく小さく感じるわね」



 彩愛先輩の言葉に同感して、私はうんうんとうなずく。


 私たちが通う女子校で使われているのは6号球で、手元にあるのは5号球。


 最後に触ったのが子供の頃であり、授業でワンサイズ上のボールを使い慣れていることも相俟って、記憶の中のイメージよりも小さく感じてしまう。


 まぁ、これはこれで扱いやすくていい。


 しぼんでいたボールが空気によってきれいな球形を取り戻したことで、私たちは家を離れて公園へと向かう。


 準備運動がてら走って行くことになり、ほどよく体が温まった状態で公園に着いた。


 バスケットボールを学校の体育館と家の庭以外で使うのは、何気にこれが初めてかもしれない。


 彩愛先輩は指の上でボールを回そうとして失敗し、落ちたボールを拾って再チャレンジしている。



「さすがのバスケットボールも、歌恋のおっぱいと比べたら迫力に欠けるわね、っとと」



 余計なことを言い始めたので、ボールを奪い取ってゴールまでドリブルで進む。


 体育館の床と公園の地面とではボールの弾み方が違うから、慣れるまで大胆なドリブルは控えた方がいいかも。


 ゴールの手前で立ち止まり、狙いをつけてボールを放る。


 ボードの四角い枠に当たって、リングの内側で何度か跳ねてからネットに吸い込まれた。



「やったっ」



 近い場所からとはいえ一発で決められたことが嬉しくて、無意識のうちに声が漏れる。



「ふっ、いまのうちに喜んでおくといいわ。この先あんたのシュートがリングをくぐることは、一度としてないんだから」



「その強気な態度、いつまで続くか楽しみです」



 煽り合いによって互いの闘争心が燃え上がり、すぐさま試合を始めることとなった。


 ジャンプボールではなくじゃんけんを行い、先攻は彩愛先輩。


 ルールは先に二点差を付けた方が勝ち。



「先輩の実力、しっかり目に焼き付けなさい。まぁ、目で追えればの話だけど――」



 彩愛先輩は重心を低く構え、ゆっくりとした動作でボールを地面に叩きつける。


 跳ね返ったボールが手元に戻った次の瞬間、私の目に映るのは、彩愛先輩の残像だった。

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