第32話 しゃせい会!?
ゴールデンウィークが終わり、登校初日がやってきた。
俺は昨日、雅からもらったきんばクマを枕元に置き、就寝した。雅と添い寝をしている気分になれて最高だった。
学校に付けて行って良いということなので、お言葉に甘えて鞄に装着する。そして、学校へと向かう。
通学路はいつもと変わらないのに、きんばクマが居るだけでとても安心する。幸せな時間を満喫していた。
教室に入ると、雅が先に座っている。珍しく雅の方から先に気付き、手を振っている。昔はこんなこと考えられなかったのに。
「おはよう、和哉」
「おはよう。さっそく、付けさせてもらったよ」
鞄のきんばクマを見せる。
「なかなか良いじゃない」
「ありがとう。昨日、この子と一緒に寝たんだ。そしたら、緊縛雅と添い寝している夢を見たんだ」
「やめてっ、そんな夢」
「でも、嬉しそうな顔で縛られていたよ」
「……」
顔を赤らめて目を閉じている。
HRが始まり、千鶴先生が入室してきた。時折、俺たちに目配りしてくれていた。温泉旅行の一件から距離が縮まったようだ。
そのまま午前授業は進み、昼休みがやってきた。
「昼、一緒に食べに行こう」
「そうね。……あっ!」
何かに気付いた雅は出口の方を指差している。そちらを見てみると、若菜ちゃんが立っていた。俺たちに気付き、手招きしている。
「なにかしら?」
「さあ? なんだい、大きな小人よ」
「くっ!」
俺は悟られないように言ったつもりだったのだが、勘の鋭い雅には丸わかりだったようだ。
「ち、違うんだっ」
「いえいえ、お気になさらず。大きなお胸の方へどうぞ」
「俺は雅の胸が良いっ」
「もうっ、早く行きなさいよ」
「うん」
窓の方を向いてこちらを見ない。機嫌を損ねてしまったが、呼ばれているため若菜ちゃんに会いに行く。
「あのぉ、雅先輩も良いですか?」
「えっ、雅も?」
おそらく窓の方を見て気付かないだろうと思いながら振り返ると、意外にもこちらを凝視していた。俺と若菜ちゃんの様子を気にしていたようだ。それに気付かれ、焦っているが、俺が手招きすると、
「えっ、私も?」
そう言って近寄ってきた。
俺が若菜ちゃんに尋ねる。
「なに?」
「美術部でやりたいことがあるので、今日の放課後部室に来てもらえますか?」
「えっ、ヌードデッサン?」
「ち、違います」
「なあんだ」
雅が突っ込んでくる。
「なあんだ、じゃないわよっ。変態っ」
「ごめん」
お辞儀をして若菜ちゃんはすぐ行ってしまった。なぜか企画内容は伝えずに。
「仕方ない。放課後ふたりで行ってみよう」
「良いけど、今日ちょっと用事があるのよ。それ終わってから向かうから先に行ってくれる?」
「わかった。必ず来てね」
「ええ、わかってる」
そのあと、食堂でふたり仲良く昼ご飯を食べた。
時間は過ぎ、放課後がやってきた。事前に言っていたように、雅は先に済ませる用事の方へ行ってしまった。俺はひとり東館四階の美術部室を目指すのだった。
部室の前に着き、扉をノックする。
「どうぞ」
ガラガラと音を立てながら扉を開けると、先に若菜ちゃんと琴音ちゃんが座っていた。
「ちゃんと来てくれて嬉しいです」
「部員だから当然だよ」
「雅先輩は?」
「用事があるからって。あとで合流すると言っていたよ」
「そうですか。じゃあ、先に和哉先輩にお伝えしますね。今週日曜日に写生会をしようと思います」
「なんとっ! 射○会だってっ!」
「はい」
若菜ちゃんは満面の笑みで答える。会と言っても、俺しか出来ない。俺の体が持つだろうか。
「ど、どこでするんだい?」
「学校から西へ二十分ほど歩いたところに綺麗な大きい公園があるんです。池もあるので、そこでしようと思います」
「なんとっ!」
池の中に出せということだろうか。だが、どちらにせよ、露出プレイになる。逮捕されるのは確実に俺ひとり。相当不利だ。
「べ、別のところにしない?」
「えっ、どうしてですか? 良い所なんですよ。先輩たちは初めてだと思うので、描きやすいと思うんですが」
「……」
――かきやすい、じゃなくて、かけやすい、じゃないのか? 俺のを雅にかけろと言いたいのか。
「ダメだ、まだできない!」
「えっ、でも……」
「俺には刺激が強すぎるっ」
「あそこは人気スポットなので、やってる人、たくさん居ますよ?」
「な、なんだって!」
不意に後ろから声がする。
「アンタ! 別のモノと勘違いしてるでしょ!」
振り返ると、そこには遅れて登場した雅の姿があった。
「バカじゃないの! 絵を描く方の写生よ」
「ああ、なるほど」
「ホント、バカよねぇ」
不思議そうな顔で若菜ちゃんが聞いてくる。
「あのぉ、なにと勘違いされていたんですか?」
「え、あ、えーっと、何とだっけ?」
俺は雅の方を向いて答えを尋ねる。
「えっ、私に振らないでよ」
「いや、知っての上で否定したよね」
「……うるさいわねっ! 黙って!」
琴音ちゃんが見かねて、
「若菜は知らなくて良いことだよ」
「そうなの?」
琴音ちゃんは詳しいようだ。どこまで詳しいのか知りたいところだが、セクハラになりそうなのでやめておく。
「それじゃあ、今週日曜日に公園集合で良いですか?」
「ああ、俺は構わないよ」
その返事を聞いて、
「私もその日は暇だし、大丈夫よ」
「良かったです。それじゃあ、その日、よろしくお願いしますね」
「持って行く物とかは?」
「私たちが用意していくので、手ぶらで良いですよ?」
「ありがと、助かるわ」
そう言えば、と思い立ち、
「若菜ちゃん達の連絡先を聞いていなかったね。いざという時のために交換しておこう」
「アンタ、そればっかりね」
ほうほう、と頷きながら若菜ちゃんがスマホを出す。
「確かに、待ち合わせの時に会えなかったら困りますからね」
「良かった。これが俺のアドレス」
若菜ちゃんと交換したのち、琴音ちゃんとも交換することが出来た。これで七人登録したことになる。女の子の名前ばかりだ。俺はそれをムフフな表情で眺めていた。
「なに、ニヤニヤしてんのよっ」
「い、いや、なんでもない」
「変なところに呼び出したりするんじゃないわよ? 逮捕されるから」
「そ、そんなことするわけないだろ。俺を信じろ」
「……」
ジト目で無言のままの雅。このままでは、と思い、話を変える。
「それじゃあ、その日、よろしくね」
「はい! お二人とも良い絵描けると良いですね」
二人に挨拶をして部室を後にした。そのまま二人で一緒に下校する。
下校途中で、
「アンタ、ホントやらしいわね。あんなモノと間違えるなんて」
「はは、ごめん。雅に言われるまで気づかなかったよ」
「でも、絵なんて描いたことないから不安だわ」
「そうだ。帰りに本屋で絵の本を見ておこうか」
「良いわね。寄って帰りましょ」
俺たちは『月影書房』を目指した。
入店し、一階を散策する。いつもは二階に行くのだが。
「雅、二階のものは良いの?」
「き、今日は良いわ」
「そう」
品物を物色していると、ある美術本に目が留まる。
それは、『ヌードデッサンの全て』というタイトルのもの。
雅は別の棚を調べているので、少し立ち読みしてみるとする。
――ほうほう、ここがこうなって。ああ、なるほど。絵でここまで再現できるとは。
その本に没頭していると、
「あたっ!」
後ろから頭をチョップされる。
「何を見てんのよっ! ちゃんと探しなさいよっ」
「ご、ごめん。けど、コレ見て」
全裸の娼婦が描かれた絵。そこには女性の乳首の位置が鮮明に描かれていた。
「俺、確かにこの位置に刺したのに。雅のは変な位置に付いてるってこと?」
「なっ! やめてよっ」
「それにこの女性。すごく剛毛だね」
「……」
「雅は? 薄いの?」
「か、帰るわっ!」
そのまま本当に店を出てしまった。後を追いかけて、
「ごめん、冗談だよ」
「変態っ! ついてこないでっ!」
「何で怒るんだっ。薄いって美しいことじゃないかっ」
「うるさいっ!」
今日は手もつないでもらえず、帰宅するのだった。
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