第46話 ハレンチ少女
無言の時間が続く。片手を繋がれたままそっぽを向く雅。
「ね、ねえ、何かしない? 暇だし」
「……変なことするんでしょ?」
「しないしない。そ、そうだ、本でも読もう」
「本?」
本棚を指差すと、そちらの方に視線を向けている。
「気晴らしになるだろ?」
「……それもそうね」
ふたりで協力して立ち上がり、本棚の前に移動する。
「どれにしようか?」
「スカッとするものが良いわ。まだ読んでなかったヤツは……」
本を選んでいるのだが、利き手ではない左手が空いている雅は上手く本を掴めない。隣に俺が居る事も災いしているのだろう。
そんな時、ある本が床に落ちてしまった。
「んっ、これは?」
「あっ、駄目っ、それは……」
手に取ってみると、拘束プレイモノのエロ小説だった。今の俺たちとどこか似ている。
「素晴らしいっ。これにしよう」
「バカじゃないのっ。別のにしましょう」
「因みにコレ、もう読んだ?」
「……買ったばっかだからまだ」
「ならちょうど良いじゃないか。さあ座ろう」
「やめてっ。そんなのふたりで読んだら」
「読んだら?」
「べ、別に何ともならないわよっ。良いわよっ、望むところよ」
了解を得た所で二人そろって床に座る。
「じゃあ、そっちを持って」
「え、ええ」
俺が右側、雅が左側を持ち、ページを捲る。新しいページ側は雅の方なので、雅が先を送るという贅沢仕様。
読み進めていくと、序盤はそれほど変化はなく、ラノベかと思える程だった。だが、敵陣に乗り込んだ女主人公が眠り薬を吸わされ、意識を失ったところから急展開する。女主人公が目を覚ますと、拘束された両手を上にあげられ、椅子に座っていたという展開。目の前には敵のボスがひとり立っている。この場にいるのはふたりだけ。
「次の展開、気になるね」
「……ねえ、もう止めない?」
「ページを捲って」
「……」
渋々、続きを捲る雅。
尋問に屈しない女主人公に棒のようなものを近付ける。胸をなぞり、股をなぞり、まさにやりたい放題だ。凛々しいはずの女主人公が徐々に動揺していく。そして、とうとう胸をはだけさせられ、パンツも脱がされてしまう。最高のシチュエーションだ。
「ねえ、もうムリよ」
「いやいや、これからだよ? さあ、ページを捲るんだ」
「……」
内容に集中していて気付かなかったが、雅の膝が少し動いている。感じているのだろうか。
胸の先を弄られ、頬を真っ赤に染める女主人公。怒鳴りながら応戦する。だが、下に棒をあてがわれた瞬間、態度は急変する。怒鳴っていた態度は鳴りを潜め、足を激しくばたつかせて耐え続ける。徐々に激しさを増す棒。
「す、ストップっ。もうムリっ」
「えーーー、そんなぁ」
そこで本は閉じられた。もう少しだったというのに。
「雅にも当ててみようか?」
「バカっ。……でも、どうしよう」
「えっ!?」
膝を震わせながら訴えてくる。しても良いのか。
「じゃ、じゃあ、オモチャで」
「ち、違うわよっ。……トイレ」
「えっ! けど、今回は拘束されているから体育倉庫の時みたいに距離を取れないよ?」
「だから、困ってるのよ。どうしよう」
「飲もうか?」
「サイッテー! 真剣に考えて」
「はい」
怒られたが、どれほど考えても妙案が浮かばない。普通にトイレでするしかないのでは。
「耳を塞げば大丈夫。さあ、トイレに行こう」
「だけど……」
それしか策がないと向こうも思ったのか、素直に一階のトイレに向かう。繋がれているため、階段はかなり怖かったが。
扉を開けると、うちと同じ大きさだった。
「ねえ、ホントにするの?」
「仕方ないだろ。さあ、パンツを脱ぐんだ」
「ちょ、ちょっと待って。スカートだから隠せるかもだけど、音が……」
「そんなこと気にしないさ」
「私が気にするのよっ。耳を塞いでみて」
空いた右手で右耳を塞ぐ。だが、左耳はどうやっても塞げない。雅の真横に座れば可能だが、それだと間近くで見聞きすることになる。
「じゃあ、トイレットペーパーで耳栓を作ってそれを差し込もう」
「そんなんでいけるの?」
一生懸命耳栓を作っている。そして、きつく左耳に突っ込まれる。
「イタっ!」
「ご、ごめん。やっぱ止める?」
「大丈夫。さあ、入れて」
最後まで差し込むと今は右からしか音がしない。これならいける。
「よし、いける。これで右耳を塞げば聞こえない」
「良かったぁ。じゃあ、するから離れて目を瞑って」
「分かった」
扉を開けたまま廊下とトイレの境で這いつくばる。目を閉じてじっとする。左手だけでパンツを脱ぐとは器用なんだなとは思ったが。
だが、事件は起こった。きつく突っ込んだはずの耳栓がズレてきたのだ。右手で直そうものなら右から聞こえ、このまま外れれば左から聞こえるという状況。焦った俺が顎を動かした時、ついに左耳が開放された。
――あっ、聞こえちゃった。便器の中のお水たちがはしゃいでいる。じょろじょろと音を立てて。
しばらくして音は鳴り止んだ。怒鳴らない所を見ると、まだ俺の状況に気付いていないようだ。見ることだけはあってはならないと固く目を閉じ続ける。
「えっ、耳栓……聞こえてたのっ」
「えっ、どうかなぁ……」
「はぁぁぁ、バカぁぁぁぁああああああああああ!」
目を開けた時にはパンツを穿き終えていたようで、雅は立ち上がっていた。
それよりも、体育倉庫とは違って無臭のこの場で、何とも甘い香りがする。それは牛乳のような香り。
「ねえ、今日牛乳飲んだ?」
「えっ、朝に飲んだけど」
「あっ、どおりで……この香り」
「――ッ! いぃぃぃぃやぁぁぁああああああああ!」
トイレひとつでこの有様。一日がとても愉快だ。
あのあと、相当お冠だったが、お腹が空いたので現在キッチンに居る。
「昼ご飯作ってあるって言ってたわね。冷蔵庫開けてみて?」
「分かった」
利き手が使える俺が用事を頼まれることが多い。
冷蔵庫を開けると特大オムライスが目に入った。大皿にひとつだけ。
「なによ、コレ。ふたりで食べろって言うの?」
「とりあえず出してみよう」
取り出すと、特大オムライスの真ん中に大きくハートがケチャップで描かれていた。
「絶対わざとだわ。あの人……」
「でも、美味しそうだよ? 飲み物は何にする?」
「あっ、私リンゴジュースで」
「はい」
リンゴジュースの大きなパックを取り出し、コップを二つ用意する。上からゆっくりと注ぐと、甘い香りと音がする。まさに再現しているかのように。思わず顔がにやけてしまう。
「何を想像してんのよっ」
「してないしてない。ただ、入れてるだけだよ」
「ホントに?」
「うん。さっきのはもうちょっと大きい音だったから」
「バカっ!」
テーブルに運び終え、椅子に座る。
「あっ、左手じゃあ食べにくいだろ? ほら、あーんして」
「イヤよっ。自分で出来るわよ」
しかし、何度やってもうまく持ち上げられないでいる。その焦り顔は本当に可愛かった。
「どうする?」
「……じゃあ、お願い」
観念したようだ。
早速、スプーンの上に一口分のオムライスを乗せる。それを雅の口に運ぶ。初めてのあーんだ。
「はい、あーん」
「あーん。……むぐむぐ、まあまあね」
ああ、とうとう食べてくれた。雅と知り合って三ヶ月。とうとうやったのです。
俺は自分で食べるしかなかった。まあ、今後付き合い続ければしてくれる日もくるだろうと思いながら。
昼食を終え、雅の部屋に戻ると時間は午後三時。楓さんが帰ってくるまで三時間もある。ベッドに持たれながら床に並んで座り、何をしようか考えている。
「そういえば武勇伝では三時間って言ってたなぁ」
「な、なに考えてんのよ。しないから」
「安心して。俺はそんなに持たないさ。恐らく一分くらい」
「そんな情報要らないわよっ」
暇だなぁと思い、空いた右手でベッド下を漁っていると何かが手に当たった。掴んで引っ張りだす。
「こ、コレはっ」
「あっ、やめてやめて」
「俺がプレゼントしたオモチャをこんなところに」
「や、や、返して」
焦りながら左手で奪い返そうとしてくる。右手に持つ先端をポイすると、見事に雅の上着の胸元にゴールインした。
「えっ、うそっ」
「スイッチオンっ」
「あぁぁっ! ストップっ」
服の中で激しく振動している。
「どうだい、雅?」
「ほ、ホントに……マズいって……」
「ほーれほーれ」
「止めないと……別れる……から」
光の速さでスイッチを切る。
「ごめんなさい」
「ほんっとサイッテー!」
「でも……どうだった?」
「えぇ……悪く……なかったけど」
「うふふ、やっぱり。そんな顔してたから」
「ちょっとっ。人をハレンチ少女みたいに言わないでくれるっ」
「ごめん、ごめん」
その後、楓さんが帰宅して手錠は外された。
何もしなかったことに楓さんは激怒していたが、俺たちにとってはとても良いプレゼントだったと思う。
告白を断り続ける美少女がエロ小説ばかり読む俺なんかと恋仲になったワケ 文嶌のと @kappuppu
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