第14話 ミヤビちゃんを育ててみた

 雅の看病をした日から二日経った夜の自室。雅の風邪は中々治らず、体に障るといけないので、メールを送るだけしか出来なかった。何も出来ない歯痒さを感じていた。出産を待つ旦那の気持ちとはこんな感じだろうか。

 たった二日間でも隣席が空席だという悲しみは計り知れなかった。今や俺は完全に雅の奴隷と化している。雅なしでは生きていけない体になっていた。雅様、早く登校して来て下さい、そう祈っていた。

 その悲しみを癒す為、スマホで雅似のエロ画像を漁っていると、あるソシャゲに出会う。


「何だ、コレは? ふむふむ、なかなか面白そうだ」


 全くゲームルール等は知らなかったが、とりあえずダウンロードしてみた。ネットで調べてみると、ダウンロード数が相当多い人気作らしい。プレイしてみると、納得できた。結果として、明日は学校だというのに夜通しプレイする羽目になってしまった。




* * * * * *




 次の日の朝、無理をした事を後悔する。学校に行きたくない、ズル休みしたい、そんな考えが頭を過った。だが、朝にメールをした所、『今日は行けるかも』という返信があったので、雅に会えるかもしれないという思いから、自然と登校する準備をしていた。


「頼むぞ、雅。今日こそは!」


 ひとり寂しく登校し、教室に入ると、またしても隣席は空いていた。


 ――またか……。おあずけし過ぎだよ。


 滅入る気分を晴らす為、授業中ずっとソシャゲをプレイする。昨日夜通しプレイした事もあり、相当成長している。


 ――もう少しだ。もう少しで最終形態だ。


 興味のある事に対する集中力は異次元だった。何の気配も音も感じない。一つの事に全魂を集中させられる。そう感じていると、


「ちょっと! 佐伯くん、聞いてますか?」

「えっ!?」


 教科書で頭をトンと軽く叩かれた。見上げると巨乳が俺の目の前に。千鶴先生だ。


「ちゃんと聞いて下さいよ?」

「はい。すみません」


 千鶴先生は教壇の方に戻っていく。もう少し拝みたかったが。その後は少しだけ数学の授業を聞いた。やはり何一つ理解できない。


 昼休みになったが、雅の居ない中、昼食を食べる気にならず、ソシャゲにいそしんでいると、


「あっ、鈴城さん。もう大丈夫なの?」

「ええ」


 教室の扉付近から会話が聞こえる。見ると、雅が登校してきた姿が見える。ようやく拝めた。


「久しぶりね、和哉」

「雅、やっと会えたね、ううぅぅ」

「何で泣いてんのよ、たった二日でしょ?」

「いや、もう俺、雅なしじゃ生きていけない体になった」

「何それ、気持ち悪いわね」

「もう風邪は治ったの?」

「まあね。もうスッキリよ」

「あっちの方もスッキリしてきた?」

「――ッ! してないわよっ! バカじゃないの!」

「うふふ」

「何で怒られて笑ってんのよ?」


 M体質になったわけじゃない。雅が登校してきた事が死ぬほど嬉しかっただけだ。ふと雅が俺のスマホに興味を持つ。


「何それ、ゲーム?」

「ああ、コレ? 昨日ハマり始めたんだ。雅に会ったら教えてあげようと思っていたんだ」

「へえ。面白いの?」

「うん。ジャンルは育成ゲームなんだよ。『育てて! マイヒロイン!』って言うんだ」

「へえ。ちょっと見せて?」

「良いよ」


 俺は自分のスマホの画面を見せながら詳しく説明する。


「最初は同じデフォルトキャラから始めるんだけど、与える物や行動によって最終進化の形態が変わるんだよ。称号だって付くんだ」

「へえ」

「俺のキャラはもうすぐ最終形態になろうとしている所なんだ」

「やり込んでるわね。……えっ!?」


 雅はスマホ画面のキャラを見て驚いている様子だ。


「コレ、私?」

「そうさ。ミヤビちゃんさ」


 キャラ名にはミヤビと設定し、金髪ロングにスタイル抜群、胸はやや小ぶりとしている。最後の事は決して言えないが。綺麗なグラフィックで描かれたキャラは雅と瓜二つだ。


「何だか恥ずかしいんだけど」

「良いじゃないか。可愛いんだから」

「……」


 赤くなっている。


 更には最終形態によってコスチュームが変わる。際どい物もある為、何に変貌するのかとても楽しみだ。ポロリもあるかもしれない。


「じゃあ、このアイテムを与えると最終形態になるから見てみよう」

「ワクワクするわ」


 最後の糧を与えると、最終形態への変身が始まる。眩く光った後、その姿は露になった。


「ちょっと! 何よコレ!」

「この子には雅の好きそうな物をあげてたから順当な結果だよ。これが雅の真なる姿さ」


 それは立派な城のひとり娘だ。布の面積が極端に少なく、全裸とほぼ変わらない。


「こんなのタダの露出魔よ」

「仕方ないよ。恐らく、雅の前世の姿さ」

「止めて! で、称号は?」

「えーっと、ちょっと待って」


 称号が書かれている場所を探すのに少し手間取ったが、


「あった! 『おてんば淫乱娘』だ!」

「ふざけんじゃないわよ! 何が淫乱よ。私、スケベじゃないわ」

「ホントに?」

「……ええ」

「でも、あの本棚の――」

「うるさいっ!」


 雅の顔は真っ赤である。だが、雅は奥手な筈だ。根が淫乱なのだろうか。そんな事に気を取られていると、昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴る。


「あっ、俺昼ご飯食べそびれた」

「えっ、まだ食べてなかったの? 私は家で食べてきたわよ」

「しまったなぁ。けど、雅と会えただけでお腹いっぱいだよ」

「……」

「照れてる?」

「……別に」


 最終形態を拝めた事でソシャゲからは暫しの別れを告げる。午後授業は隣に雅が居るという安心感でゆっくり寝る事が出来た。徹夜の疲れが少し癒えた。


 放課後になり、雅と二人で下校する。歩きながら積もる話をする。


「二日間、楓さんが看病してくれたの?」

「まあね。結構心配してたみたいよ」

「感謝しないとね」

「あんまりしたくないけど」

「でも、一度しか会ってないけど良いお姉さんじゃないか。優しいし、悩ましげだし、大きいし――あっ!」

「くっ! べ、別に気にしてないわ」

「い、いや、俺は雅の方が良いよ?」

「フォローしなくて良いわよ! お姉ちゃんと付き合いたいならどうぞ」

「そんな事は決して!」


 胸という地雷ワードは今後決して踏んではならない。まあ、そう言いつつも踏むんだろうけど。


「雅もさっきのソシャゲやってみたら?」

「えっ、私が?」

「あの結果に納得いかないなら、雅が育てたキャラを俺に見せてよ」

「分かったわ。望むところよ」

「良い称号だったら良いけど」

「私だったら、清楚とか美のカリスマとか、絶対そんな所よ」

「そ、そうだね」


 美のカリスマはともかく、清楚なお嬢様がエロ小説を読むだろうか。そんな思いが浮かんでいた。


 自宅に着き、俺達は別れた。


 自室に入り、


「あのゲーム、結構時間掛かるだろうから、結果を知るのはちょっと先だろうな」


 予想通り、初めてゲームをする雅は操作に不慣れで余計に時間が掛かった。俺は気長に待つ事にする。




* * * * * *




 夜の自室。あれから三日間経った。結果を知りたいので、雅に電話をする。


「あっ、もしもし、雅。あのゲーム、進んでる?」

『えっ、何の事?』

「えっ!? なに言ってるの? 淫乱娘のヤツだよ」

『イヤなこと思い出させないで』

「それで、雅が導いた真の姿は?」

『……もう止めない? このアプリ消そうかなぁ?』

「えっ!? 何で? 結果出たんでしょ?」

『……』


 どうにも歯切れが悪い。ゲームの進行に支障が出たのだろうか。


「ねえ、何か隠してる?」

『……こんなアプリ嘘よ! 絶対嘘!』

「なに言い出すんだ! さあ、言ってごらん!」

『ムリ』

「何で? 雅ちゃん、勇気を出して!」

『……一応、最終形態にはなった。とっても清楚な感じよ』

「じゃあ、問題ないじゃないか。さあ、称号を言うんだ!」

『これホントに万人向けのアプリなの?』

「そうだよ」

『……ただ、正直に育てただけなのに……何でこうなるのよ』

「そんな大層な代物なのかい? さあ、言ってごらん!」

『村一番の清楚系……よ』

「えっ、聞こえない。もっと大きな声で!」

『村一番の清楚系ビッチっ!』


 そう言い残し、電話は切られた。奥手な雅の内に秘める性癖を表しているのだろうか。淫乱な上にビッチか。将来結婚したら、俺の体力は持つだろうか、という嬉しい不安を抱いていた。

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