第15話 フィギュアを手にする少女
雅が育てたキャラクターの称号を聞いた次の日。いつも通り学校に登校する。
「雅、おはよう」
「……おはよ」
「昨日のキャラクター見せてよ」
「もうあのアプリは消したわ」
「な、なんて事を。酷い、酷すぎる」
「大袈裟ね。あんな信憑性の無いアプリはダメよ」
「けど、内に秘める思いを表してるのかも」
「うるさいわね! 私は清楚ってだけで良いのよ。要らない物が付いてたわ」
「でも、心の中ではエロに興味津々だろ?」
「そんな事ないわよ! 興味ないわ」
「あんな本買ってるのに?」
「……」
もう少しで観念させられそうだったのに、授業開始のチャイムが鳴った。
その後、授業は順調に進み、休み時間に俺からある事を提案してみた。
「ねえ、今週日曜日どっか行かない?」
「ゴメン。今週は都合悪いのよ。お姉ちゃんに付き合わされるのよ」
「そっか。なら仕方ないね」
「また今度ね」
「うん」
遊びの誘いを断られた為、今週日曜日は時間を持て余す事になってしまった。
* * * * * *
時は過ぎ、日曜日がやってきた。何もする事の無い暇な日曜日が。
「あああ! 暇だな。今日一日どうしようかなぁ」
思案していると、良い事を思い付く。
「風邪の看病をした時、楓さんから借りたオモチャ、大事そうにベッドの下に入れてたな。使いたい時に毎回楓さんから借りるのも辛いだろうから、雅専用のモノを買ってあげよう」
俺は何て優しい男なのだろう。妻を甘やかし過ぎてしまう。だが、どこで購入するのか全然分からず、ネットで調べてみる事にした。
「ほうほう。ここで買うのか。ここは良く行く大型電気屋の近くだな。電車で二十分位か……。でも、雅を喜ばせる為だ。買いに行こう!」
少し遠出になるが、どうせ暇なのだからという理由でブツを求め、家を出発する。
家から徒歩三十分、いつもの駅に着いた。そこから電車に揺られること二十分。ようやく店がある最寄り駅に到着する。
――スマホの地図アプリで場所を確認しながら歩こう。
良くお世話になる大型電気屋とは反対方向を目指して歩く。駅から徒歩十分程と書かれていたのだが、中々見当たらない。店を探してウロウロしていると、アニメ関連のグッズ販売店ばかりが軒を連ねる通りに行き着いた。
――へえ、こんな所があったのか。普段、アニメDVDは電気屋で買ってるからな。
アニメ好きの俺は興味を抱き、少し探索する事にした。
色々な店があったが、俺が一番押している『萌子ちゃん』特集をしている店舗があり、その店内へと足を踏み入れる。
店内には多くの客が居るが、殆どがリュックスタイルだ。やはり、両手が空く事がメリットだろう。かく言う俺もリュックスタイルだ。『萌子ちゃん』のDVDやフィギュア、小物、タオルなど、本当に沢山取り揃えている。素晴らしい。
そんな中でも一際目立ったのは、『萌子ちゃん』の三十センチフィギュア。
やや大きめのフィギュアはとても精巧に作られている。商品の箱が大量に積まれているが、見本として一体だけ展示してあった。触れても良いらしい。
――スカートの中はどう再現されているんだろう?
男なら一度は抱くこの願望。チラッと見るだけだ、そう言い聞かせ、フィギュアに手を伸ばした。すると、左隣から同じ事を考える客が居たのか、手が当たってしまう。
「あっ! すみません」
「いえ、こちらこそ」
それは女性の声だった。女性ならパンツをチラ見する為ではないな、と感じ、その客の方へと視点を移す。その客はリュックを背負い、帽子にサングラス、更にマスクをしている。何かデジャヴ感が。
「――ッ!」
その客は俺の顔を見るなり、後ずさり始めた。
「あのぉ、フィギュア見たいんですよね? 先にどうぞ?」
「いえ、結構です……」
後ずさる彼女が被る帽子は、以前雅が被っていたニット帽よりも小さい為、少しだけ髪が露出していた。
――青みがかった髪か……。どこかで……。
「あのぉ、俺達どこかで会ってます?」
「そ、そんな事ないでしょ。気のせいですよ」
顔を近付けてみると、サングラスはそれほど厳しい黒さではなく、うっすらと透けている。その目を見て衝撃が走る。
「き、鏡花じゃないのか!?」
「――ッ!」
その瞬間、すぐにお辞儀をしてその場を離れようとする彼女。店の外まで追いかけて声を掛ける。
「待って! 良い事じゃないか! 恥じる事は無い!」
「……」
俺の声で立ち止まる彼女。
「バレては仕方ないな」
「やっぱり鏡花じゃないか。何で逃げたんだよ?」
「バカにされると思ったんだ」
「するわけないだろ! 俺もアニメファンなんだから」
「済まなかった。けど、雅には黙っててくれないか?」
「えっ?」
「ちょっと恥ずかしくてな」
俺は言えなかった。雅の方がもっと恥ずかしい趣味をお持ちだよ、という事を。
「分かったよ。それよりフィギュア見たかったんだろ? 一緒に見よう」
「そうだな」
再び先程の店へと入り、フィギュアの前まで移動する。
「先に見て良いぞ」
「えっ、良いの? それじゃあ」
鏡花に促され、俺が先にフィギュアを手に取る。じっくりと眺め、下の方から覗こうとすると、
「おいっ! パンツを覗くのか?」
「えっ!? い、いやそんなこと無いよ。ははは」
「まあ、このキャラクターが穿いてるのは見せパンだろうがな」
「えっ、見せパンって何?」
「見られても大丈夫な物だ。水着みたいな物だな」
「女の子にはそんな物が……。全然知らなかった。じゃあ、何で制服が風で捲れると手で押さえるんだ?」
「いや、制服には普通の物を穿くだろう」
「そうか。それは一安心だな」
「……覗くなよ? 逮捕されるぞ?」
「の、覗かないさ。俺は紳士だ」
「だが、和哉には前科があるからな。落し物の件が」
「いやだなぁ、あれは読み物さ。現実では紳士なのさ」
「まあ、そういう事にしておいてやろう」
「ありがとう」
鏡花の趣味を知り、友達としての絆が深まった感じがする。とても嬉しかった。そういえば、と急に思い立ち、
「鏡花と連絡先を交換してなかったな。交換しよう」
「あっ、そうだったな。和哉とはまだだったな」
「えっ、雅とはしたの?」
「ああ、友達になった後の休み時間にな」
「ズルい! 俺だけ除け者にして」
「ははは。済まない。ただ忘れていただけだ。ほら、コレが私の連絡先だ」
鏡花の連絡先をスマホに登録し、メールを送信する。これで三人目の登録者だ。雅、楓さん、鏡花。どんどんリア充感が増しているじゃないか。
それはそうと、雅の話題が出て思い出し、
「ねえ、前言ってた公園に落ちてた本って、どんな本?」
「ああ、アレか? 私の口から言うのは止めておこう。雅に直接聞くんだな」
「絶対教えてくれないと思うが」
「頑張れ!」
鏡花はそう言って、手を振りながら帰って行った。結局、本のタイトルを聞く事は出来なかった。そんなに隠すという事は、まさかエロ本。だが、幼稚園児でエロ本に興味を示すだろうか。いつの日か雅に聞いてみようと思う。
鏡花と別れた後、目的の店の前に辿り着いた。看板からしてスケベな感じだ。店内に入ると、全ての内装がピンクで統一されている。女性が使う物だから女性客ばかりなのかと思いきや、男性客も居た。俺と同じ優しい男性なのだろう。きっと相手は大喜びで使う筈だ。
色々な種類が売られているが、どれが良いのか分からない。
――こ、コレはとんでもなく太い。雅にはムリだろうなぁ。
大きい物は値も張る為、小さい物を買う事にした。店員は全て女性だったので、俺は素直に尋ねてみる。
「あのぉ、小さい物の中で、どれが一番気持ち良いですか?」
「へっ!? いや、私は試した事ないので……」
女性店員がうろたえている。この店で働こうと決めた割には覚悟が足りていない。俺はその店員とは別の女性店員に尋ねる。
「じゃあ、そちらのお姉さんのお薦めは?」
「――ッ! し、知りませんよ! 彼女さんに聞いて下さい!」
「それが、サプライズでプレゼントするので、聞けないんです。うぶで奥手な超可愛い子なんです」
「……。不慣れな方でしたら、コレなんかどうですか?」
その女性店員が提示したのは、ロー○ーなる物だった。小さくて中々良さそうだ。
「これはどこに当てるんですか?」
「わ、私の口からはちょっと……」
値段的には一番安い。だが、黒というのはちょっと頂けない。
「あの、コレ色違いは無いんですか?」
「ありますけど……」
「白かピンクが似合うと思うんです!」
「白は無いです」
「じゃあ、ピンクで!」
「……分かりました」
冷めた目で俺を見てくる。Sなのだろうか。女性店員が品物を探しに行っている際、後ろを振り返ると、殆どの客が俺を見ていた。すぐさま視線を俺から外す。何故だろう。俺は何か過ちを犯しただろうか。
「お待たせしました」
「あっ、ありがとうございます」
無事に雅へのプレゼントを購入し、店を後にする。一応、店員達は皆、お辞儀をしてくれていた。まあ、購入者に対して当然の事だろう。
時計を見ると、正午。家を早くに出発していた為、時間はたっぷり残っている。俺は次の目的地を考え始めた。
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