第16話 イヤホンを弄る少女
目的地が決まらぬまま、駅まで着いてしまう。
――どうしようかなぁ。このまま帰るしかないのか……。
考えていると、スマホにメールが入ってきた。
「んっ? ハマダ電機からだ。なになに、前にネットで予約した特典付きアニメDVDが入荷したのか。すぐ近くだし、好都合だな」
ハマダ電機とは、先程から言っている良く行く大型電気屋の事だ。この駅から歩いて五分で着く。最高のタイミングのメールに歓喜する。
道なりに五分歩き、ハマダ電機に到着した。
――いやあ、久しぶりに来るなぁ。日曜日だから人多いな。
五階建ての巨大な電気屋の中で目的の場所を探す。看板を確認すると、アニメDVDの販売フロアは四階となっている。エレベーターに乗り、四階を目指す。
エレベーターを降りてすぐ、小さな列が出来上がっている。ここでは予約をした商品を受け取る為に列をなす。予約した物は人によって異なるが、果たして俺が予約した商品を買う客は居るのだろうか。
同志の登場を期待していたが、その他の客は皆、別の商品を受け取っている様だ。俺が予約した商品は絶品だというのに。一度見てみれば絶対ハマるだろうに。皆、人生を損したいという事か。
ついに俺の順番が回ってきた。
女性店員は品物を奥から持って来て俺に見せる。間違いが無いか、確認する為である。
「あっ、それで合ってます」
確か店員が間違い防止の為に商品の名前を告げる決まりだった筈だが。この店員、商品の名前を口にしない。何故だ。
女性店員はすぐさま袋に商品を入れ、苦笑いでこちらに手渡す。というか、他の店員達も皆、俺の方を見ている。俺が一体、何をしたというのだ。けしからん。
内容物を確認する為に、袋を覗くと予約特典が入っていない。
「あのぉ、予約特典が入ってないんですが」
「あっ、申し訳ございません。取って参ります」
暫くすると、予約特典を持って店員が戻ってきた。また苦笑いでその商品を袋に入れる。失礼にも程がある。
「ありがとうございました!」
その声を背に受け、俺はその場を後にした。
暫く歩くと、椅子とテーブルが置かれた休憩所があったので、そこで品物を見る事にする。
――よしっ! やっと手に入った。入手困難と言われたこの品を。
その商品は『巨乳戦士パイーシャ』である。そして、予約特典は『パイーシャちゃんのおっぱいマウスパッド』。どちらも先着百名限定の物だ。
――いやあ、このマウスパッド、ぷにぷにする。実際の胸もこんな感触なのかなぁ。
目を瞑り、頭の中で雅を想像しながら胸を揉む。至極の時間だった。
ふと目を開けると、周りの客が俺を見ている。注目を浴びている様だ。確かに今の姿は、公共の場で胸を揉んでいる男にしか見えない。恥ずかしさは無かったが、通報されては困るので、その場を後にする。
――そうだ、新しいイヤホンが欲しかったんだ。ちょっと見てこよう。
パソコンでエロ動画を見る際、音漏れで親バレするとマズいので、イヤホンは欠かせない。両親は共に真面目を絵に描いた様な人物だ。何故あの二人が俺の親なのか、理解に苦しむ。その為、どうしても親バレするわけにはいかなかった。しかし、一度、興奮し過ぎて仰け反った際にイヤホンが抜けて悲惨な目に遭った事がある。あの時は、何事かと両親が自室に駆け付け、わいせつ物陳列罪を犯した男を見る様な目で棒立ちしていたのを今でもハッキリ記憶している。
三階へと移動し、イヤホンコーナーに到着した。
――ヘッドフォンの方が音質が良いんだけど、重いからなぁ。やっぱ、イヤホンだな。
そんな事を考えて思案していると、近くに女の子が居た。ピンクのお団子頭の小さな女の子。どう見ても小学生、行ってて中学生か。
その子はイヤホンを買おうとしているのだろうが、付け方が分からず、カナル型イヤホンを手で弄っている。それは乳首じゃないよ、と教えてあげなくては。
「ねえキミ、イヤホンを探してるの?」
「えっ!? そうですけど……」
「――ッ!」
横から見ていた時、彼女の腕で見えていなかったが、とんでもないお胸をお持ちだ。楓さんに匹敵するかもしれない。何故、こんなロリっ子が。けしからん。
「あのぉ、このイヤホン、形が変なんですけど」
「あ、ああ。それはね、カナル型イヤホンって言うんだ。良く見かけるイヤホンはインナーイヤー型だよ。カナル型の方が遮音性に優れているんだ」
「へえ。お兄さん、詳しいんですね」
「俺も買いに来たから探すの手伝ってあげるよ」
「良いんですか?」
「うん」
とても喜んでいる様だ。彼女の場合、外部の音が聞こえる方が安心するらしく、インナーイヤー型を購入する事になった。髪の色と同じピンクの商品を。
俺は没入感を味わう為、カナル型の黒のイヤホンを購入した。
「助かりました。一人じゃ分からなくて」
「お母さんは一緒じゃないの?」
「はい。一人で買いに来ました」
「偉いね。悪いオジサンには気を付けるんだよ?」
「えっ? どういう意味ですか?」
「い、いや、特に意味は無いよ」
俺も一瞬、悪いオジサンの仲間入りをする所だった。そんな中、グルグルという音が聞こえてきた。
「お腹空いてるの?」
「そうみたいです」
「一緒に何か食べる? 奢ってあげるよ?」
「えっ、悪いですよ」
「良いよ。それじゃあ、レストラン街がある五階に行こっか」
傍から見たら完全に悪いオジサンだ。だが、やましい気持ちはこれっぽっちも無いんだ。そう、決して。
ロリ巨乳を連れて五階を目指した。
レストラン街には数多くの店が存在していたが、女の子は洋食の方が好きだろうと予想し、可愛らしい洋食屋を選んだ。
入店し、メニューから品物を選ぶ。
「何でも好きな物言って」
「じゃあ……オムライスで」
「――ッ!」
満面の笑顔でそんなこと言われたら、オジサン、キュン死しちゃう。だが、俺には雅が居る。胸より中身だ。そう言い聞かせる俺は、先程手に入れたおっぱいマウスパッドに酷い罪悪感を抱くのだった。
注文したオムライスが届き、彼女は嬉しそうに食べている。
「凄く美味しいです」
「良かったよ。キミ、中学生?」
本当は小学生かと言いたかったのだが、気を遣ってそう言った。
「えっ、違いますよ」
「そっか」
やはり小学生だったのかと思っていると、
「高校生です」
「えっ!?」
不意の一言だった。この見た目で高校生。嘘じゃないのか、と感じていた。
「ほ、ホントに?」
「そうですよ。高校二年、十六歳です」
「そ、そう……」
高校生なら犯罪ではないのかと安堵していたが、人の成長過程とは十人十色だなと感じていた。一つ年下でコレとは……。絶対に雅には見せられないな。
「それじゃあ、一個下だね。俺は高校三年だ」
「そうなんですか。先輩ですね」
とても良い雰囲気で食事をする事が出来た。良い休日を過ごしているなと感じる。
食べ終えて店を後にすると、
「先輩、御馳走様でした」
「どういたしまして。もう帰るの?」
「はい。あっ、先輩はイヤホン以外にも何か買われたんですね」
「えっ!? こ、これはちょっと」
「何ですか?」
とても言い辛い。こんな純真無垢なロリ巨乳を目の前にして言える筈が無い。タジタジになる俺の背中に衝撃が走った。後ろを振り返ると、走ってきた小学生男子がぶつかってきたらしい。
「あっ! ごめんなさい……」
男の子は悲しげな表情だ。
「大丈夫。気にしないで。これからは気を付けるんだよ?」
「はいっ!」
許して貰えた事が嬉しかったのか、とても足取りは軽そうだった。
「優しいんですね、先輩」
声の方を向くと、後輩ちゃんが落ちた商品を拾っている。今気付いたが、先程の事故で俺は自分の購入品を床にぶちまけていた様だ。当然、DVDとマウスパッドも。
「あっ」
「これを買われたんですか? はい、どうぞ」
袋に全ての商品を詰め、俺に渡してくれた。何故か、商品を目にしても動じる事は無く、笑顔で接している。まさか、清楚系ビッチなのか。
「ねえ、商品見て嫌がったりしないの?」
「えっ、何でですか? ここで売られている商品なんですよね? 胸の形のマウスパッドがあるとは初めて知りましたけど」
「女の子は普通嫌がる物だよ?」
店員なら嫌がる事は無いだろうが、女の子は別だろう。まあ、先程の女性店員は嫌がっていた様だったが。
「そうなんですか? 嫌がって欲しいんですか?」
「いや、そうじゃないよ。でも、良かったよ。叫ばれて逃げられたらどうしようかと思ったよ」
「先輩は胸が好きなんですか?」
「まあ、そうだね。でも、実際触った事ないからこのマウスパッドの再現性が高いのか分からないけど」
「触ってみますか?」
「えっ!?」
ロリ巨乳が両手を広げている。やはりビッチか。触って良いのか。だが、雅を裏切る事になると感じた俺は、
「い、いや、止めておくよ」
「そうですか。じゃあ、私そろそろ帰りますね」
「あっ、うん。気を付けてね」
そう言って後輩ちゃんはお辞儀をし、店を後にして行った。残された俺は、少しばかり後悔した。あんなチャンス二度とないかもしれない。触っておくべきだったか。
俺は右手で物を掴む様な仕草をしながら、ロリビッチの胸を想像していた。
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