第4話 ついに彼女と初デート

 俺が大勝利を収めた日から一日過ぎた夜の自室。明日がデート当日だというのに未だにプランが立たないという窮地に立たされる。頼みの綱だった2ち○んでは、幾ら質問をしても親身になってくれる者は現れず、皆一様に卑猥な事を列挙しまくるというオチに遭う。とんだ思い違いをしていた。皆が協力してくれる電○男など、ただの夢物語だったというわけだ。


「そうだ! ギャルゲーの攻略の中にヒントが隠されているかもしれない」


 ヒロインを落とすゲームなら、きっと素敵なプランが存在する筈だと信じ、必死にギャルゲーをプレイした。メインヒロインの一人であるツンデレ属性の攻略に手間取り、躍起になる中、夜は更けていった。




* * * * * *




 目を覚ますと、そこは日曜日の自室だった。寝落ちした様だ。時計を確認すると午前八時を示している。おもむろにスマホを見ると鈴城さんから数回着信があったみたいだ。


「あっ! 鈴城さん、電話掛けてくれたんだ。親以外から電話があるなんて何年振りだろう」


 今起きた事象に感動していたのだが、とても重要な事に気付く。


「そうじゃないっ! 今日デートだったんだ。結局、プラン立たなかったな。情けない」


 燃えつきた……真っ白な灰に……と言わんばかりの格好でベッドに座っていると、鈴城さんからの着信をスマホが提示する。


『あっ、やっと出た。今日どうするのよ。行かないの?』

「なんの成果も!! 得られませんでした!!」

『えっ!? どういう事?』

「いや、ずっとプランを考えてたんだけど決まらなかったんだ」

『それじゃあ、デートは無しって事で。さよならぁーー』

「待って! 切らないで! 今考えるから」

『二日考えて思い付かなかったんだからムリよ。諦めなさい』

「とりあえず十時に駅前集合にしよう。それまでに考えるから。因みに、夜じゃないよ、朝の十時だよ?」

『そんなこと言われなくても分かってるわよ! 夜十時に集合してどこ行こうってのよ?』

「俺はそれでも良いんだけど」

『じゃあ、この話は白紙って事で――』

「切らないで! 冗談だよ、冗談。必ず来てね?」

『分かったわよ。約束は守るわ』

「ありがとう」


 鈴城さんとの電話を終え、時計を見ると午前八時半。家から駅まで徒歩三十分掛かる為、考える時間は一時間しか無い。いや、準備する時間を考慮するともっと少なくなる。やはり無理か。

 この時すでに、プランは到着してから考えよう、という案が脳裏の九割を占めていた。黒のズボンに紺のカッターシャツを合わせ、茶色のリュックを背負うという決めスタイルで家を後にした。


 集合場所に到着したのは俺の方が先だった。時間は午前九時四十五分。小学校で教わる十五分前行動だ。だが、親密な者同士なら五分前行動で良いと聞く。鈴城さんが俺の事を親密な者と認識している為にまだ来ていないのかも知れない。


 考えを巡らせていると、向こうから一人の美少女が姿を現す。赤のワンピースに白のショルダーバッグを提げている。素晴らしい容姿だ。キュン死しそうだ。


「アンタ、早いのね」

「まあね。今日の事が楽しみで寝られなかったんだ」

「朝、電話に出なかったじゃないの!」

「それより凄い恰好だね。よく似合ってる。俺の為に選んでくれたの?」

「はあ!? バカじゃないの。普段通りよ……」


 ズボンではなくスカートという事はラッキースケベもあり得るか。そんな事を考えながら下半身を見ていると、


「絶対見せないから!」

「へっ!? な、何の事だい、うふふ」

「何が、うふふ、よ。白々しいわね。下ばっかり見てたじゃない!」

「それはさておき、どこへ行くかが問題だ」

「えっ!? まだ決まってないの? 私帰るわ。さよなら」

「待って待って! そうだ、この駅前近くに映画館があるんだ。そこに行こう」

「映画? まあ良いけど」

「決まりだね」


 駅前からすぐ近くに存在する大きな映画館へと移動する。鈴城さんの姿に多くの男達が振り返る。そんな相手を連れている事はこの上ないステータスだろう。俺もとうとうリア充の仲間入り、か。


 映画館など滅多に来ないが、館内は床に綺麗な赤絨毯が敷き詰められて美しい。日曜日という事で多くの客が訪れていた。


「ねえ、何の映画を見るの?」

「そうだなぁ。俺はアニメ一択だな」

「えっ、私アニメ映画はちょっと……」

「えっ? 鈴城さんはアニメ見ないの?」

「私はあんまり見ないわね」

「エロ小説のアニメ化も結構あるから、アニメ見るのかと思ったんだけど」

「私は読むだけよ。って言ってもちょっとだけよ。そんないっぱい持ってるわけじゃないから」

「ホントに?」

「え、ええ」


 鈴城さんの頬が少し赤い。本当の所を知りたかったが、聞く事は止めておいた。


 見る映画を決めかね、館内の映画ポスターを眺めていると、


「あっ、私この映画が良い」


 それは純愛モノの洋画だった。主役の男性がいやに男前すぎる。腹立たしい。


「それは止めておこう」

「何でよ?」

「実写の恋愛映画は濡れ場が多い。特に、洋画は顕著だ。良いの? 俺と二人で濡れ場を見ても」

「……止めておきましょう」

「そうだろう、そうだろう」


 上手く説得する事に成功した。


 多くの映画ポスターの中、一番左隅の作品に目が留まる。


「これにしよう!」

「えっ、何コレ?」


 その映画は、劇場版『魔女っ娘 萌子ちゃん ~魔法でアナタは私の奴隷~』。全魔女っ娘達が奇抜な服装で描かれている。


「何て作品なの……。これが良くてさっきの洋画がダメな理由が分からないわ」

「この作品には濡れ場が無いんだ。作中全員女の子だからね。その上での濡れ場じゃあ百合になってしまう」

「じゃあ、この奴隷って言うのは?」

「俺達さ。視聴者を虜にするって意味だよ」

「へ、へえ」

「あれ? どういう意味の奴隷だと思ったの?」

「う、うるさいわね! 私もそうだとは思ってたわよ」

「ホントに?」

「さ、さあ行きましょ。コレで良いんでしょ?」

「えっ!? 一緒に見てくれるの?」

「良いわよ。コレで」

「ありがとう」


 俺の熱意に打たれた鈴城さんは賛成してくれた。受付でチケットを二枚購入する。鈴城さんが隣の売店を見て、


「ねえ、ポップコーンとかジュース買って行かない?」

「止めておこう。しゃく音が耳障りな上、トイレに行きたくなったら最悪だ。作品は全てのシーンを目に焼き付けなければ。トイレに行くその五分が命取りになる」

「アンタ、どんだけ真剣なのよ」


 またも俺の熱意に打たれ、意見を合わせてくれる。上手くリード出来ている様だ。生身の女性と接する機会が無かったので、不慣れだと思っていたが、ギャルゲーで鍛えたこの力、満更でもない様だ。


 入口でチケットを渡し、中の通路を歩く。


「私、映画館って久しぶりだわ。何だか新鮮」

「俺もだ。最近の映画館は綺麗なんだね」


 目当ての上映室に入ると、客は数える程だった。


「やっぱり不人気なんじゃない?」

「そんな筈ないんだけどなぁ。まあ、空いてるのは良い事だ」

「何か矛盾してるけど」


 椅子に座ると、照明が暗くなり、映画が上映され始めた。合計一時間半の映画だ。心から浸るとしよう。


 上映開始から一時間が経過し、山場に差し掛かった時、


「ねえ」

「しーっ、今、良い所だ」

「私、お手洗いに……」

「どうぞ」

「くっ!」


 どうやら鈴城さんの膀胱も山場を迎えていた様だ。その後の三十分、俺は映画を堪能した。その間、一切鈴城さんの事を気にも留めずに。


 照明が点き、左に座る鈴城さんを見ると、鈴城さんがキレている。


「えっ、どうしたの?」

「アンタ、サイテーね。私がトイレに行こうとしたのに案内しようともしない」

「えっ、トイレのマークが吊ってあったでしょ?」

「これは一応デートなのよ? デートだったら男がエスコートして当然でしょ?」

「ゴ、ゴメン……」

「ったく。アンタみたいな人間、この先一生ひとりじゃないの?」

「えっ、鈴城さんが貰ってくれるんじゃ?」

「いつそんなこと言ったのよ。一日だけって言ったでしょ」


 その時、俺は思い出した。このデートが一日限定だという屈辱を。


「もう出ましょ」

「そうだね」


 作品の魅力は堪能できたが、惨めな気持ちも堪能する事になろうとは。

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