第42話 ストリップショー

 グループワークから帰宅して今は自室。


「ああ、とうとう雅と契を交わしたな。これで結婚確約かぁ。叶うと良いなぁ」


 今日の出来事を噛み締めていた。


 ふと鞄を漁っていると、赤糸のレプリカが出てきた。


「しまったっ。こんな粗末に扱ってはいけないっ。早く大切な物に巻き付けないとっ」


 一番大切な物、それはもう決まっていた。そう、雅から貰ったきんばクマだ。

 そのきんばクマの左手に赤糸のレプリカを巻き付けた。俺が儀式の時に付けていた方の手だ。


「これで良しっ。雅は何に巻き付けたんだろう?」


 そんな事を考えながら就寝するのだった。




* * * * * *




 次の日、赤糸のレプリカが巻き付けられたきんばクマに挨拶をして、鞄に取り付けられたソレと一緒に登校した。

 先に来ていた雅に挨拶をする。


「おはようっ」

「あっ、おはよっ。昨日、楽しかったわね」

「そうだね。とうとう雅と結婚できるんだね」

「わ、分からないわよ? 破談もあるかも」

「そんなっ。神に背くのかっ」

「……」


 背くとは言ってこなかった。受けてくれるのだろうか。

 机に鞄を置くと、


「あっ、アンタも」

「えっ、『も』って事は」

「――ッ!」


 突然、雅の机の右側に掛けられた鞄を背中に隠す雅。


「あっ、見せるんだっ、雅っ」

「あ、アンタには関係ないわっ」

「いいやっ、一番大事な物に付けろと言われたっ。恐らくは……」


 椅子に座っている雅は可動域が限られている。その背後に回り込み、鞄を奪う。


「あっ、ちょっとっ。見ないでっ」

「あっ、ほら、俺と一緒の物に巻いてある」


 どうやら雅もきんばクマに巻いたようだ。それも右手に。雅が巻いていた手の方だ。

 つまり、俺と雅は全く同じ発想をしていた事になる。相性抜群だ。


「俺たち、最高の相性だね。同じ事考えてたなんて」

「ふんっ、たまたまよ。良いのよ? 今、ここで外しても」

「じゃあ、俺も外そう」

「えっ!?」


 そう言って俺の鞄に付けられたきんばクマに手をかざす。


「う、嘘……」


 思った通り、相当ショックを受けている。


「冗談さ。一生巻いておくよ」

「アンタっ、騙したのねっ」

「雅、もう少し素直になっておくれ」

「大きなお世話よっ」


 そう言いながらも満更では無い顔だった。


 授業が終わり、放課後となった。

 隣教室から鏡花と月乃さんが入ってくる。


「やあ、いつも仲良いな」

「止めてよっ、鏡花。何か用事なの?」

「そうなんだ。今週日曜日に生徒会によるプール掃除が行われる。結構楽しいから誘いに来たんだ」

「えっ、楽しいって掃除が?」

「タダの掃除じゃないぞ。掃除が終わった後、この学校で一番最初にプールに入れるんだ」

「へえ、それは新鮮ね」


 それを聞いて素晴らしい気持ちになる俺。

 プールと言えば水着。水着と言えばポロリ。ポロリの後はペロリ。

 連想ゲームのようにアイデアが浮かんできた。


「お、俺は絶対参加するよっ」

「……」


 そう言った瞬間、三人が冷めた目で俺を見た。


「アンタ、水着見たいだけでしょ?」

「そ、そんな事ないさ。掃除がしたいだけさ」

「どうだか。作業は水着でやるんでしょ?」


 鏡花がその問いに答える。


「ああ。制服だったら濡れるしな」

「いやしかし、制服のまま作業をして、『ほれほれーー――きゃっ、濡れちゃったじゃないっ。やだっ、透けちゃってるぅー』というのも乙だな」

「……」


 また三人が冷めた目で俺を見る。


「アンタ、サイッテーね」

「いやいや、みんな下着をつけているんだから、下着が透けるだけさっ」

「それがサイッテーの発想だって言ってんのっ」

「だが、下着と水着。出てる所は余り変わらないのでは?」

「全然違うわよっ」


 左を見ると、月乃さんが震えている。


「あのぉ、私、今年は辞退しようかと」

「えっ、月乃なに言ってるんだ。毎年私としてただろ?」

「いや、和哉さんが……」

「私が見張ってるから」

「……なら」


 また百合が始まっている。

 そんなやり取りをしていると、向こうで一人机に座っている女子を発見する。放課後残っているのは、俺たちとその子だけだ。その子――美優だ。


「なあ、美優も一緒に掃除しないか?」

「ちょいまちっ。今いいとこっ」


 ゲームに集中している時は何を言っても意味がない。

 別の者との交流を不思議に感じた鏡花が尋ねる。


「和哉たち、友達が居たのか」

「うん。今まで俺も雅も友達居なかったけど、やっと出来たんだ」

「ちょっとっ。アンタと一緒にしないでっ。私が寂しい子みたいじゃないっ」

「けど、このクラスじゃあ友達居なかっただろ?」

「……まあ」


 四人で話をしていると、向こうから美優が合流する。


「何するって?」

「プール掃除だ。今週日曜日に」

「えーー、めんどくさいわ」

「でも、一番プールに入れるぞ?」

「うち、あんまプール好きやないねん」


 理由を探ろうと頭から足まで美優の体を眺める。


「胸が無いからか?」

「チッ! そんなはっきり言うなやっ。しばくぞっ」

「気にしていたのか」

「へっ! そんなん気にしとらんわ。胸なんて重いだけやし」

「だが、この中では一番寂しいと見える」

「くっ! はい撤収~~」


 機嫌を損ねた美優が鞄を取りに行く。


「待てっ。悪かったっ。雅も胸で苦労しているんだ」

「くっ!」

「あっ、しまった……」

「私も撤収ーーー」


 雅も鞄を持ち始め、帰ろうとする。


「待ってくれっ。雅が来ないプール掃除なんて、濡れ場の無い恋愛映画みたいなものだっ」

「なっ! アンタ、なんて例えすんのよっ」

「イタっ、ごめん、雅」


 鞄で俺の体を殴ってくる。

 横から鏡花が諭す。


「女心の分からない奴だな、まったく」

「鏡花、助けてくれ」

「はぁ。私からも頼むっ。生徒会を助けると思って」


 俺の代わりに頭を下げてくれた。


「……仕方ないわね。アンタの為じゃないからっ。鏡花の為だから」

「はい」

「んじゃ、うちも参加したるわ。鏡花の為に、なっ」

「はい」


 その場に正座をし、雅と美優からお叱りを受ける俺。情けない姿だった。


 その後、三人とは別れ、雅と二人で帰宅する。道すがら、


「去年と同じスク水、着られるかなぁ」

「そうだね。胸が成長しているだろうし」

「……わざと気遣ってない?」

「いやいや。本当の気持ちだよ。前にネットカフェで見た時、大きかったから」

「服の上からでしょ?」

「えっ!? パットで盛っていたのかい?」

「そんな事するわけないでしょーがっ」

「じゃあ、結構大きいじゃないか。僕好みだった」

「……それはどうもっ」


 急に良い事を思いついた。


「雅、家に帰って着てみないか? お互い見せ合おう」

「バカじゃないのっ。するわけないでしょ」

「けど、誰かに見て貰った方が客観的な意見を知れるよ?」

「……お姉ちゃんに見てもらうわ」

「やめておいた方が……。楓さんに見せたら何をされるか」

「確かに……」

「じゃあ、決まりだっ。急いで帰ろうっ」

「えっ、ちょっとっ」


 雅の手を取り、俺たちは走って帰宅した。




 帰宅後、俺の自室にふたり座る。


「ねえ、本当に見せるの?」

「ああ、男に二言は無い」


 帰宅後すぐ、各自の家で水着を着てその上から制服を着ている。


「じゃあ、俺からっ」

「――ッ!」


 俺はサッと上半身裸になり、ズボンに手を掛ける。

 見ると、雅は顔を手で隠している。しかし、指の間からご覧あるようだ。


「ねえ、恥ずかしいんだけど」

「じゃあ、脱ぐね?」

「ちょっと待ってっ。本当に水着着てるんでしょうね? 変な物見せたらタダじゃ置かないからっ」

「あっ」


 その時思った。何故、水着を着てしまったんだ、と。

 雅の言うように、産まれたての姿を見せ、反応を窺っても良かったかもしれない。しかし、初夜まで前は見せないと決めているし。


 悩みながら、なかなか脱げずに居た。


「やっぱり穿いてないんでしょ! 私帰るっ」

「待ってっ。ほらっ」

「――ッ!」


 勢いよくズボンを脱いだ。

 最初、雅は焦っていたが、水着を着ていると知ると、落ち着きを取り戻した。


「ま、まあ、似合ってるじゃない」

「じゃあ、今度は雅の番だよ」


 水着の恰好のまま、その場に胡坐をかく。


「それじゃあ……」


 制服姿の雅が立ち、上着のシャツのボタンを外していく。

 よく考えると、ストリップショーと大差ない。我ながら素晴らしい案を思いついたものだ。


 ギンギンギラギラした目を雅に向ける。


「ねえ、そんなマジマジ見ないでよ」

「気にしないで。さあ、脱いで」

「変態の言葉にしか聞こえないんだけど」


 両袖のボタンと前のボタンが外れ、これからシャツを脱ごうとしている。シャツの間から紺のスク水が顔を覗かせている。


「やっぱりムリっ!」

「えっ!?」


 そのまま部屋を飛び出していった。


「そんな……。俺のは見たのに……」


 雅のストリップショーを途中で中止にされ、悶々とする俺なのであった。

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