第二章 γ
思い交わる前夜
「もう嫌だ! 帰りたい!」
放課後の教室、現在午後の七時、男の悲しみの叫びが静かな空間に響き渡る。
男はここのところ、したくもない仕事を無理やり押し付けられ、ストレスを溜めて毎日を過ごしていた。それがたった今爆発した。周りではそんな訴えに耳を貸すこともなく、他の生徒が作業を進めている。よって、何だか悲しい人間みたいに見える。
というか、その男は俺である。
「なんで無視!?」
「はいはい、分かったから作業に戻りなさい葉月」
「軽く流すな赤坂!」
「僕らもこうして手伝ってるわけだしさ、もうちょっと頑張ろ」
「そうやって俺を使って好感度を上げようとするな千尋!」
「もう、そうやって文句ばっかり言うからモテないんだよ。みんな言ってるよ、葉月は文句しか言わないオタクだって」
「そういう心にくるやるこういう皆の目があるところで言わないで菜乃花!」
テンションがおかしくなりつつある俺は、今確実にクラスの中で浮いていた。
「満足した? ……じゃあ、気分転換に、買い出し行ってきてよ。今日はもうちょっとだけ作業あるし」
「えー……でもいいや、仕事サボれるなら何でもいい」
いつもは下校時間を超えることは許されないが、今日は完全下校時間が少しだけ伸びる。文化祭と同じで、直前の追い込みというやつが出来るようにだ。というか、ぶっちゃけ終わってないクラスがほとんどなので、今日はどこのクラスも明かりがついている。
創立者祭は明日。
「じゃ、お願いねー」
「え、ちょっと待って俺一人なの? 結構荷物になると思うんだけど」
「……ま、そうね。じゃあ誰か一緒に連れてきなさい」
「じゃあ千尋でも……」
クラスの中で女子と作業をする千尋を見たところで、何か殺意が湧いた。なにあいつ女子とキャッキャウフフしてんだよ。たまにマジで不幸な目に合わないかと切実に思うわ。
「あ、あたし行くよ。ちょうど集中切れてたし」
そう言って立ち上がったのは菜乃花だった。集中切れてたって……確かにあいつこういう仕事得意じゃなさそうだけどさ。分かりやすいな。
「じゃあ、花咲さんお願いね。ついでにこのアホがサボらないかも監視しといて」
「俺は罪を犯した人間か何かか?」
「これから罪を犯すかもしれない人間よ」
ぱちりと、イタズラにウインクをしてきた赤坂に背を向けて、俺は教室を出た。
ウインクとか、似合わねー。
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