エピローグ
変わらない?
空は快晴。
本日も、平和な一日である。
「なに言ってんの?」
空を見上げて、ぼーっとしていた俺に、天恋が冷ややかな視線を向ける。こいつ俺の心を読んだのか? まさか、声に出ていたとは、独り言には気をつけなければ。
「なんでもない、いい天気だと思っただけだ」
「ふーん。ま、そこまで興味ないけど」
「そんなことはどうでもいいのはこっちも同意権だが、どうしてお前は俺の自転車の後ろに座ろうとしているんだ?」
同じ時間に家を出て、俺は自転車を使うために取りに行くと、天恋が先回りして既に腰掛けようとしていた。ぎくり、とかそういう反応をして「べ、別にぃ、お兄ちゃんと一緒に登校しようと思ってだだけだよ? 学校まで送ってもらって楽しようなんて、微塵も思ってないから」とか言うこともなく、我が妹は何一つ悪びれる様子もなくこう言う。
「え、別に深い意味は無いよ。送ってもらおうと思って」
意味的には一緒だが、こいつ妹キャラの重要性理解してないな。
普段なら歩いて行けというところだが、今日は時間に余裕もあるし、たまには妹に貸しでも作っておこう。
「仕方ない、さっさと行くぞ」
「やったお兄ちゃん話が分かるぅ!」
自転車に跨がり、俺は重くなったペダルを力いっぱい回す。
天恋の通う中学は、実は俺の通学路の途中にはない。つまり、こうして送っていく場合、遠回りをすることになる。だから普段はしたくないのだ。
「お兄ちゃんさー、最近楽しいのー?」
「はァ? なんだよ急に」
風を真正面から顔面に受けて、前髪を激しく揺らす天恋が、目を瞑りながら言う。突然言い出すので、俺は簡単な返事をする。
「なんかさー、柔らかくなったよねー」
「なっとらんわ」
「なってるよ。前だったら、今みたいに送ってくれるとかなかったし」
「たまーに送ってただろうが。主にお前が遅刻しそうなときとか」
「そういう緊急時だけだったもん。だから、こんな何もない普通の平和な日に送ってくれるとかは珍しいんだ。雨でも降らなきゃいいけど」
「今日の降水確率は〇パーセントだ、雨は降らん」
「それで降ったらほんとにやばいじゃん……。それにさ、なんか最近明るいんだよねー」
「俺はずっと前から明るい性格だばかやろう」
「そうでもなかったよ? ……いや、それはいいことなんだけどさ。何か昔は絶望した顔してたし、ちょっと前は苦しそうな顔してたし。今はすっきりした顔してるし。なんだろ、ゲームがクリア出来なかったのかな?」
こいつは俺を何だと思っているんだ。
ゲームをクリア出来なくて機嫌が悪くなるとか小学生か。
いや、でも。
「確かに、ゲームをクリア出来なかったわけではないけど、進み方が分からなかったってのはあるな。それが分かって先に進めたんだ」
天恋の言うことが、あながち間違ってはいないようにも思える。
すっきりしたのも事実だし。こいつはこいつで、意外と俺のことも見てるんだな。うん、お兄ちゃんポイントプラス一だ。
「やっぱゲームなんじゃん」
「そうだな、すげえ難しいゲームをプレイしてたんだ」
「へー。それってあれ、ナナラブ? 確かにあれは難しかったよね、特に幼なじみの神奈は簡単に見えて一番苦労したよ」
「お前はそろそろ俺のゲームを勝手にプレイするのを止めろ。ナナラブとか略称まで完璧にするな。せめて素人感出して『セブンスラヴァーズ~七色の音色~』とタイトルを全て言え」
「攻略サイトは一切見てないよ、自力で攻略したんだ」
「妹から攻略とかいう言葉聞きたくねえよ」
……。
何も変わらない朝の風景。そう思っていたが、どうやら俺の中で、小さな変化があったらしい。自分自身は気づいてはいなかったが、天恋は意外と周りを見ている。あいつが言うのならきっとそうなのだろう。
何も変わらないように見えて、実は少しづつ変わっているのかもしれない。
しかし、変わらないこともある。
やはり、本日も平和である。
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