催し物の行方は
大幕高校といえば、別にそこまで偏差値の高い学校でもないし、進学率や就職率がずば抜けて良いわけでもない、制服の可愛さなんかの個人的な意見は分からないけれど、ともかく、学校選びにおいてそういった面ではあまり他と差をつけれてはいない。
しかし、実際のところ大幕高校に人が集まるのは、学校行事の面で食いつく人が多いのだとか。つまりどういうことかと言うと、他の学校に比べて行事が豊富らしい。
「今月の後半に創立記念日があるのは、皆さんご存知ですよね?」
いつもの、太陽のようなぽかぽかな笑みを浮かべて、今日も成瀬先生は教壇に立つ。
四月の二四日は大幕高校の創立記念日である。去年は「やったー学校休みだー」とか騒いだものだけど、この休みを利用した行事が行われるのだ。
創立者祭。
まあ、読んで字の如し。創立記念日に行われる、言ってしまえば文化祭よりも規模が小さい祭りのようなもの。生徒自体は自由参加であるが、この成績が後の文化祭に響いたりもするので、みんな結構真剣に取り組む。
学校の関係者とかいろいろ偉い人も来たりするらしいので、そちらの対応もそうだが、新入生に対する歓迎祭のような意味もある。去年は俺達も歓迎される側だったのだ。俺は行ってないけど。何してたって? もちろんゲームだ。
でも今年はそうにもいかない理由がある。
「今日はその日に行われる創立者祭の催しを決めたいと思います。実行委員とかそういうの設けるとまた時間がかかるので、今回はクラス委員に仕切ってもらうことにしますね」
そう言って、成瀬先生はクラスの中の二人にアイコンタクトを送る。二人というのは、もちろん男女のクラス委員一人づつだ。
「それじゃ、お願いね。赤坂さん、葉月くん」
これが、俺が今年サボれない原因である。
そもそも、俺はクラス委員になることすら納得してないというのに。どうせ放課後暇だろうとか勝手に決めつけられて、押し切られた。何故か知らんが部活してる生徒が大半の我がクラスだったのだ。暇だからアニメを見るゲームをするという考えは捨ててほしい。アニメやゲームは予定の一環なのだ。暇人とか思われたら迷惑だ。
とはいえ、なってしまっては文句も言えないので、俺は仕方なく仕事を引き受ける。今回だって、渋々教壇まで向かう。
唯一の救いは、女子側が赤坂だと言うこと。
赤坂飛鳥。
去年同じクラスだったから、少しは知っている。もちろん、あっちは俺のことなんて知らないだろうが。何というか、言い表すならば委員長になるべくしてなった委員長、みたいな? 完全にゲームとかでいる委員長キャラなんだよなあ。
あまり関わりはしなかったから、深くは知らないけど成績は良い。先生からの信頼も厚いし、クラスメイトからの人気もある。ザ・優等生な印象である。
「えーっと、それじゃあ何にするか決めていくけど、案ある人いる?」
前髪はピンで纏めている。視力が悪いのか常にメガネをかけている彼女は可愛いというよりは美人という言葉が似合う。姿勢もよく、背筋はピンと伸ばされていて、そのせいか胸の部分が強調されてたまに目のやり場に困る。黒髪は長く伸ばしており、妹の天恋よりもよっぽど大和撫子のイメージに近い。
「はいはいはーい、メイド喫茶がいいよやっぱ」
元気よく手を挙げて発言するのは、目を細めて笑う巧だった。あれだ、もう完全に主人公の親友ポジションキャラだ。だとすると、俺とキャラ被ってんだよ、俺だって今のところ千尋の親友ポジなんだからな。
「そういう私情が入ってるのは却下。そもそも女子の負担が多すぎるわ。他には?」
「んじゃんじゃ」
「鳴子はちょっと発言を控えて。うざい」
「ウザい!?」
心臓を撃ちぬかれたのか、言われた巧は死んだように椅子に座って黙りこんだ。悪いことをしたなと、少しでも思っているのかと横目で委員長を見ると、スッキリしたような顔をしていた。この人、鬼やで。
「他には、何かないかしら?」
しかし。
教室内はシーンと、静まり返っていた。これだよ、普段は必要もないのにうるさいのに、発言を求められると黙りこむ。俺こういうのホント嫌いなんだよ。だから、逆に言えば形だけじゃない本物のうるさい奴は割りと認めている。
「あれね、他のクラスとは被りたくないわね」
あまりにもクラスが静かで空気を読んだのか、それともただ単に発言したかっただけなのか、成瀬先生が気の抜けた声でそう言った。
「確かに、そうですね。メイド喫茶なんて他のクラスもやりそうですし。去年だって何クラスかやって被ってた。新鮮味がないわ」
よほどメイド喫茶を嫌がっているように見える。何かあったんか?
「ちょっと葉月、あなたも何か言いなさいよ」
「……俺に矛先来んのおかしくない?」
「代表でしょ? 何か案出しなさい」
怖いなこの人。こういうタイプは黙って従っておくに限る。逆らえばどんな面倒事に巻き込まれるか分かったもんじゃないからな。
「去年やってない出し物とか分からないんですか?」
俺が案に困っていると、千尋が助け舟を出してくれた。お前ほんとマジでイケメンだわ。女じゃなくても惚れてしまいそう。
「うーん、リストアップとかはしてるんだろうけど、調べてみないとわからないですねー。皆さんの記憶で、そういえばこういうのなかったなーと思うものを挙げてみて
はどうですか?」
「……そうですね、そうしましょう」
そう言って、再び教室内に視線を戻す赤坂。問題が変わったというのに、しかしクラスメイトはだんまりを決め込んでいる。そもそもこいつらが黙っているせいで俺に矛先が来るんだよ、なんちゃってヤンキーもちょっとは発言しろよ。
「そういえばお化け屋敷はなかったんじゃないかな?」
結局、発言したのは千尋だった。その言葉にぼーっと話を聞いていた菜乃花が反応する。
「そんな大掛かりな感じなの? それってもう文化祭じゃない?」
「花咲さんは初めてだったわね。まあ、あなたの言うとおり文化祭と類似のものと考えてもらっていいけれど、準備期間が短かったりでやれることの自由は文化祭に比べて無いわ」
創立者祭初経験の菜乃花は、さっきまでの発言の場で意見を言えることもなかったか。昔はこういうお祭り的なもの好きだったし、率先して発言だってしていたような記憶があるけど、空気を読むことを覚えたのかな?
「花咲さんは何かない? やりたいこと」
「んー、去年のことは分からないし、被るかもしれないけど、たこ焼き屋とかがいいかな。あたし前まで大阪の方にいたんだけど、美味しくてハマっちゃて」
こいつ、転校前は大阪にいたのか。初耳だぞ。まあ聞いてないしそこまで興味も持ってなかっただけだけど。
「いいんじゃない、たこ焼き屋。被ったとしてもオリジナリティで勝負は出来ると思うけどな」
菜乃花の意見に千尋も賛成のようだ。
一人が賛成し出すと、クラスの中もだんだんとざわつき始める。この様子だと、この案で決定だろうな。良かった、俺に害なくすんなり決まって。菜乃花と千尋に感謝
だ。
「……」
黙っていろと告げられていた巧が、発言すべく挙手をした。委員長はそれを見て、少し考えた後に、こくりと頷く。この短い間で、何の葛藤があったのだろうか?
「たこ焼き屋をやるのは俺も賛成だ。実は俺も関西の血を引いててな、たこ焼きってなると腕がなってくるぜ。ところで委員長、当日の服装だけどやっぱ可愛い方がウケがいいと思うんだ、だからメイド服――うぎゃ」
「黙ってなさい、メイドは却下って何度言えば分かるの?」
投げたノートを見事に巧に命中させた委員長が、冷たい声を浴びせた。この人まじで怖い。
「でもさ、赤坂さん。可愛い服の方がいいっていうのは、あたしも巧くんの意見に賛成なんだけど」
メイドはダメだが、その意見に関して菜乃花を始めクラスの女子の賛成の意見がもちらほら見える。
「そうね、でもあまり時間もないから出来ればそうするようにします。じゃあ、みんなたこ焼き屋でいい? 文句あるなら今のうちに言いなさいよー?」
しかし、反対の意見は出なかった。そもそも、このクラスの中にも不参加の不真面目生徒がいるんだから、そもそもまず何人が参加希望なのかを確かめるべきだと思うけど。
「そしたら、参加希望の方を聞いていきます。別に強制じゃないので、やりたい人は手を挙げてー?」
俺が思いつくそんな考えに、赤坂飛鳥が思い至らないわけがない。
そう、ここに俺がいる意味はほとんどないのだ。委員長に言われたことを適当にサポートする程度の仕事ならば、引き受けても構わないと思ったのだ。というか、他の委員よりも楽かもしれない。
「じゃあ、この方向でまとめていくわね」
こうして、催しが決定した。
「今回は働いてもらうわよ、葉月」
……俺が面倒なことに巻き込まれることも決定した。
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