変わらないふたり
「んー、特に考えてなかったし、晩ご飯でも奢ってもらおうかなー」
ということで、俺は晩飯を奢ることになった。普通の女子なら可愛いものだけれど、菜乃花の場合は別だ。こいつの食欲は異常、胃袋の大きさが計り知れないので出来ることなら避けたいところだったが、何といっても拒否なしなので、文句も言えない。
ファミレスに入って注文を済ましたけど、普通に俺よりも頼むもんだから、遠慮とか云々よりももう純粋に感心した。もうすごいですわ。
料理が揃って、食べ始めたところで、菜乃花は眉をへの字に曲げて言う。
「全然食べないんだね、そんなんだから弱いのよ?」
「お前が食べ過ぎなんだよ。太るとか気にしないのかよ?」
「女の子にそういう事言うの、デリカシーに欠けると思わない?」
「本人がそんなに気にしていないように思えたので、そうは思いません。でも、そんだけ食ってても太ってる感じしないけど、実際のとこどうなの?」
「女の子に体重聞くとかこれはほんとうにデリカシーないですね。これでも、食べた分動いてるんだよ? 逆に言えば、消費した分を摂取してるみたいな? あたしってぇ、食べてもあんまり太らないんだーとか言う奴は敵よ」
芝居がかった口調で言った後、一人で溜め息をつく菜乃花を見て、ああ苦労しているのかと密かに思う。女の子って大変なんだな。
しかし、やはり変わらない。
小学生の頃も、菜乃花はよく食べていた。だから、今に比べて少し丸かったようにも思えるけれど。今はそれがいい感じに、いい場所の肉になっているのか、太っている印象は受けない。
見た目はほんとうに変わったけど、でも中身は全然変わってないんだよなあ。
俺が好きになった彼女そのままなんだ。
「……ん、なに? じろじろ見られてると食べづらいんだけど」
「え、ああ悪い。ほんとにあんま変わんないなって。大食いなとことか」
「まあ、美味しいもの好きだしね。子供の時に比べて悩みは増えたけど……。でもあれだよ、人ってそんな簡単に変われはしないよ? ちょっと数年離れただけで、劇的な変化が起こるって、それはもう高校デビューだよ。高デってやつだよ」
「高デって、そんな言い方すんのか? でも、環境変わるとそうもいかなくないか? 関わる人が変わるだけで影響受けることもあるだろ。女子なんか特に、周りに合わせないと生きていけない生き物なんだから」
「ほんと天助って、女子に対する偏見がすごいよね。そんなことないって言ってるのに……まあ、一部の女子はそうかもだけど、あたしはそうじゃないってば。誰かに合わせるとか好きじゃないし」
俺の言っていることに間違いはない。今までずっと見てきた結果として、出した結論なのだから間違っているはずがない。ただ、菜乃花の言葉が嘘ということもない。
例外もあるのだ。
菜乃花を見ていれば、それが分かるのもまた事実である。クラスの中でも、菜乃花は比較的自由に行動しているタイプだろう。したい時にしたいことをしている。誰かに合わせて行動しているところを、あまり見ない。
自己中とかそういうのではなく、確かな自分というものを持っているのだ。曲がることのない、曲げることのない意思を確かに持っている。だから、周りから信頼もされ人気もある。
そこも、昔と変わらないのだ。
「でも、変わらないって言ったら、天助だってほんとに変わってないよ? 前にも言ったけど、あたし一目で分かったもん。逆に、千尋くんはイケメンになりすぎて分かんなかったね」
「悪かったな、イケメンじゃなくて」
「そういうことじゃなくて……そういうとこも変わってないな。それにあれだよ、イケメンだからいいってわけじゃないんだよ? あたしだって、ほら……なんでもない」
「なんだよ、言いかけて止めるなよ。気になるじゃないか」
ぴたりと言葉を止めて、菜乃花はバクバクと食べ物を頬張り始めた。私はこれ以上は言いませんとでも言っているようだ。聞いても無駄だろうと察したので、仕方なく俺も再びフォークを動かす。
「ずっと気にしてろ」
「あ、なに? 口にもの入れたまま喋るなよ」
「うっさいばーか!」
「ほら、何か口から飛んできたぞバカが!」
「……っごく。バカって言う方がバカなんだよう!」
水で流し込んで、赤面のまま菜乃花が叫ぶ。
先にバカって言ってきたのそっちなんだけど、ツッコんだらまたうるさそうだから黙っておこう。
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