ふたりで


 放課後、俺はとある場所に来ていた。


 ここにも、来るのが遅くなってしまったので、赤坂みたいに怒られても文句は言えないものであるけど、それを恐れていつまでも来ないとマジで怒られそうだ。


 藍神神社。


 そこはすべての始まりの場所である。あの日、ここに来たからこそ、俺の物語は始まったのだ。それからいろんなことがあり、楽しみ、悩んで、そうして今がある。


 賽銭を入れて、パンパンと手を叩く。


 まあ、ここにいるのがラブコメの神様なのかは分からないけど、これ以外に伝える方法も知らないし、届くと信じて手を叩く。


「なにをそんなに真剣にお願いしてるわけ?」


「お願いじゃない、事後報告だ」


 俺の隣には、菜乃花がいる。


 あの時、俺が伝えた気持ちを受け取り、涙を流して答えをくれた菜乃花が、今は俺の隣りにいる。その答えが何だったかなんて、今さら言う必要もないだろ? というか、緊張と嬉しさで忘れちまったよ。


「長引く?」


「まあ、ちょっと」


「あたしお守り見てくるねー」


 飽きっぽいのか、相変わらず自由な菜乃花は、一人でてくてくと行ってしまう。ここで追いかけないからといって「なんで追いかけてきてくれないのよバカ!」とか言う面倒な女じゃなくて良かった。


 さて、ラブコメの神様。俺の言葉は届いているでしょうか? それは俺には分からないので、届いていると信じてこのまま話を進めたいと思います。


 あなたに言われて、俺の物語は始まりました。いろんなことがありました、きっと忘れることもないと思います。


 あなたが言った、ゲームではないですがチャンスとリスクの話。


 俺の運命の相手は花咲菜乃花だったのでしょうか? そう質問しても、きっと答えは帰ってこないと思う。


 告白は成功した。だから運命の相手なんだと信じこむのは浅はかだ。これから何か起こるかもしれないし、油断は禁物だ。


 だから、答えは聞きません。


 俺は自分の気持ちに正直に、生きていこうと思います。俺が選んだメインヒロインを、これからも大切にしていきたいと思います。


 あなたが俺にくれたのは、チャンスでありリスクであったかもしれないけど、もっと大事なものを教えてくれた気もします。


 だから、これからも、俺は俺の信じる道を行く。


「おっそい。いつまでやってんのよ!」


「あ、ちょっと、まだ終わってな……」


 腕を掴まれて、無理やり連行された先は、先程まで見ていたのであろうお守り売り場だ。恋愛の神社なので、やはりそれ関係のものが多い。もちろん、他のものもあるけれど。


「せっかくだからさ、お揃いのお守り買おうよ」


「えー……と言いたいとこだけど、そういうの嫌いじゃないからまあいいぞ」


「ここ凄いんだよ、同じお守りでも色違いとかあったりするの。縁結び……は、今はもう必要ないよね。結ばれたもんね?」


「まあ、そうだな」


 改めて言われると、何だか照れくさい。それでもその照れくささでさえも楽しいと思えるのだから、恋愛というのは恐ろしい。


 毎日が楽しくなる。景色が変わる。実際信じていなかった言葉だが、まさかそれが本当だったとは。


「なにがいいのかなー?」


 過去の告白、つまり俺の初めての告白。あの時の答えなんて、今は何の意味もないことは分かってる。でも、やっぱり気になるのも事実なんだよなー。告白する時にああ言った手前何だか聞きづらいけど、意を決して聞いてみるか?


「やっぱ恋愛成就のお守りだね。あたしはピンクがいい、天助は?」


「赤」


「……そんなに赤色好きだったっけ?」


「まあ、他のに比べればな」


 菜乃花はピンクと赤の恋愛成就のお守りを一つづつ持って、レジへと向かう。後から追いかけて、一緒に精算を済ます。


 売り場を出たところで、聞いてみる。


「なあ、やっぱり気になるんだけどさ。昔の俺の告白の返事は、結局どうだったんだ?」


「え、なんで今さら? あの時はもうどうでもいいって言ってたのに」


「やっぱり気になったんだよ。別に教えてくれてもよくない?」


「別にいいけど……あの時あたし好きな人いたからごめんなさいって言ってたよ」


「え、うそ! まじでッ!?」


 神様、短い間だったけど、最後まで見届けてくれてありがとう。あの時勇気を出してほんとうに良かった。


 でもそう言うと、あんたはチャンスを掴んだのは貴様だ、私は何もしていない。とか言うんだろうな。あんたの言うとおり、リスクを負って、そのチャンスを掴んだのは確かに俺かもしれないけれど、でもやっぱりお礼は言いたいんだ。


「嘘だよ。あたしが好きなのは、あの時も今も……天助だよ」


 あんたはまた別の人のところへ行くんだろうけど、そうやって忙しい毎日なのかもしれないけれど、でも、もし気が向くようなことがあればまた俺の様子も見てくれよ。


 ――今度は、俺達の物語を、見せてやるからさ。


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ラブコメの神様、俺の物語のヒロインは誰ですか? 白玉ぜんざい @hu__go

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