ラブコメの神様、俺の物語のヒロインは誰ですか?

白玉ぜんざい

プロローグ

はじまり


「非常に言いづらいのですけれど、正直言ってタイプじゃありませんしそんなこと言われるほど親しくなったつもりもないのでごめんなさい他の人を当たってください失礼します」


 早口にそう言って、その少女は俺の前から去っていた。


 言いづらいと前置きするのなら、せめてもう少し言いづらそうにしてくれ。相手を傷付けまいという言葉なのに、今の俺は膝から崩れ落ちそうになるくらいダメージを負ったぞ。


 ていうか、今まさに崩れ落ちた。


「なに、何なんだ。普通に考えてあそこまで言う? 付き合う付き合わないは別にして告白されるのは嬉しいものだよ? ってナナクロの沙也加が言ってたのに! なんだよあれ嘘かよ!」


 俺は両手で顔を覆い、天に向かって叫ぶ。


 そもそも。


 付き合う気がないなら優しくすんなよ! ちょっと優しくされると勘違いしてしまう人だって世の中にはいるんだよ! それか優しく接する際に「あのう、別にあなたと付き合う気はないですけれど困っているようなので助けますね」とか言えよう!


 女の子ってのは、いつもそうだ。


 ちょっと思わせぶりな態度を取って、こっちがその気になったら気持ち悪い触れるな近寄るなみたいな反応をする。そりゃあ確かに、勘違いするこっちも悪いかもしれないけれど、全面的にこっちが悪いかと言われればそんなことはない。半分くらいはあっちにも責任あるよ。


 俺は静かに立ち上がり、盛大に深い溜息を漏らす。


 また、いつもと同じである。


「……帰ろ」


 校舎裏にいた俺は、ゆっくりと歩きながら校門へと向かう。


 ふと顔を上げると、校門にもたれ掛かる人影が見える。その人影は暗くなり始めた空を見上げて、その後に腕の時計へと視線を移す。こんな光景、この前やったギャルゲーで見たな。


 その人影がこちらを向く。目的の相手を見つけたのか、にっと笑って背中を壁から離す。こちらに来ることはせずに、そこで俺が近づくのを待っている。


「よお、終わったかい?」


 俺がそいつの横まで到着すると、そいつは静かにそう言った。


「……楽しそうにするな馬鹿め」


 大河内千尋。


 色の抜けた茶髪、整った顔立ち、高い身長、俺と比べれば全てが完璧なそいつは俺の親友である。今までにいくら告白されていたかなどはもう覚えていない。とどのつまりイケメン死ねである。


「してないよ、心配してたんだ。だからこの通りお前の帰りを待ってたわけだし。ついに天助にも彼女が出来る時がくるのかとハラハラしていた。で、結果はどうだった?」


「……見て分かんねえなら答えてやらん」


 俺はそう言って歩き始めた。その後を千尋が駆け足で追いかけてくる。


「これで何敗目だっけ?」


「……二九」


 二九連敗である。


 何がって? 聞くなよ、だいたいで察しろ。


「やっぱ告白までのスパンが短いんじゃないのか?」


「分かっている……でもなあ、あいつら思わせぶりな態度取るんだもん」


「勘違いするからだよ。もっと一歩引いたところから相手を見ないと。他のやつと接している時を見たか? きっとお前と接している時と同じ感じだぞ、もうちょっと冷静にというかだな、慎重に事を進めたほうが」


「やめて! 俺のライフはもうゼロだよ……分かってる、分かってるんだ。いろいろと学習はしてるんだよ。もうこんな失敗はしない」


「もう少し早く学習してほしかったものだけど」


 高校になれば、彼女が出来るものだと思っていた。


 そもそも、この考えが間違いだったということは今になって分かった。でも、ゲー

ムでも漫画でも、高校になって彼女が出来ていることは多い。そう言うと、それは漫画だからだろうと正論をぶつけられる。


「逆に何でお前は付き合わないんだよ? 毎日の日課のように呼びだされては告白されやがって」


「……何でって、お前は好きでもない女の子に告白されたら付き合うのか?」


「んー。かもしれん」


「お前のしているゲームの主人公は、女の子を好きになって付き合っているだろう? そういうことだよ、相手のことを知らないのに付きあおうだなんて思わないだけ。そう考えると、お前が今までに告白してきた女の子と同じかもしれないな。そういうのは、お互いのことを知り合ってからだと思う」


「チッ、ギャルゲーの主人公かお前は」


「そんなんじゃねーよ」


 人間というのは、生まれた時点で既に平等ではない。


 俺と千尋を並べただけでもそれは歴然である。俺よりも残念な人だっていれば、千尋よりも優れている人だっている。運動ができる奴、勉強ができる奴、話が面白いやつ、ただただイケメンな奴、それは個性であるかもしれない。


 それを個性というのかもしれない。


 それでも俺は、やっぱり世界は不平等だと思う。


「お前はさ、きちんと順を追って付き合っていれば良い奴なんだから、焦らずいけばきっと出来るよ、特別な人。さっきも言ったけど、俺は本当にその瞬間を待ち望んでいるんだぜ?」


 そう言う千尋が先導して歩くので、俺は何気なくついて来ていたけどこっちは俺らの帰路ではない。見覚えのない道を千尋は歩いていた。


「なあ、こっちは家じゃないだろ?」


「ああ、ちょっと寄り道だ。お前のこれからの恋愛譚がいいスタートを切れるようにお参りに行こうと思ってさ」


 そうして、到着したのは来たことのない神社だった。決して大きくはない、有名でもないであろう場所だ。千尋が中に入っていくので、俺もそれについていく。


 境内は外から見るよりは広く感じた。手を洗って賽銭箱のところへと向かう。


「藍神神社っていうらしいんだけど、聞いた話だとここは恋愛関係に強い神社らしいんだよ、そういうの好きだろ?」


「……嫌いではない」


 お金を投げて、手を叩く。二礼二拍手一礼であることは忘れない。


 占いであったり、まじないであったり、そういう類のものは嫌いではない。一瞬ではあるものの、幸せな気分になれるから。何となくだけれど、上手くいくような気がするからである。


(神様、もしも俺の願いが叶うのならばチャンスを下さい。俺だって、自分の物語の主人公でいたいんです。どうか、俺の人生にメインヒロインを……)


「出来たかー? こっちにお守り売ってるぞ」


 手を合わせて真剣にぶつぶつと唱える俺とは違い、千尋はささっと参拝を済ませていた。


「今行くー」


 こんな時間まで売店が開いてるなんてのも珍しいものだが、買えるならばそれに越したことはない。これから始まる新生活に備えて買っておこう。


「ご利益、あるといいな」

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