第11話 原子爆弾
教授が去った後、レイだけが焦っていた。
地球での知識があるので、核の恐怖は知識で知っている。
帝国兵やレジスタンスは、原子爆発の威力を知らない。
「早く逃げるんだ! 全て吹き飛ぶぞ!」
「リーダーどうしたんですか?」
「爆弾ってなんですか?」
アイカやレジスタンスの仲間は、魔法が発達した世界では、爆弾自体を知らない。
(時間がないが、どう説明したらいいんだ……。そうか!)
「今から、1時間以内に凄じい威力の魔法が、帝国に放たれる。急いで逃げるんだ!」
「どこに、逃げるんですか?」
走って逃げても、馬で逃げても間に合わない。一体どうしたら……
「どうしたんだ? 一体なにが起きている? ひとまず、撤退するか? 別チームも気になるしな……」
「それだ! カイン兄さんは、さすがだ」
「えっ、そうか?」
照れるカインを無視して、レジスタンスに呼びかける。
「撤退! 至急、別チームに合流する! 全てにおいて別チームとの合流を最優先にする! 馬や馬車を手に入れて急いで行動せよ! 1時間以内に合流しなければ死ぬと思え!」
「「「了解!」」」
「帝国兵よ! 死にたくなければ早く逃げるんだ」
日頃からの訓練で、素早く動くレジスタンスのメンバー達。
レジスタンスの仲間達が、馬や馬車に乗っていても教授からの威圧のせいで、逃げる事も出来ずに座り込む帝国兵。
馬車に急いで乗り込むとカインやアイカに改めて説明をしながら、馬車を急がせる。
「そんなに、凄じい威力なのか? その、原子爆発ってのは?」
「数十キロを爆風と炎で焼き尽くし、爆心地はなにも残らない程の威力です」
「数十キロですか? じゃあ、間に合わないんじゃ」
「刑務所の壁は厚い、他の場所よりはマシなはずだ。地下が有ればいいんだが……クソッ! とんでもない物を作りやがる」
見た事も無いレイの焦りに、爆弾の威力が自分達の想像を遥かに超える物だと、ようやくアイカやカインは理解し始めていた。
「ハーピー隊に、連絡はつかないのか?」
「先程、報告がありウィンドラはウォル様を連れて刑務所に逃げたようです」
「本当かい? よかった」
不安だったが、ウォルとマーシュの救出。あと、少しで刑務所に着く。
レイン達と冒険者達が刑務所から撤退をしようとしていた。
「戻れ! 刑務所の中に入れ!」
「レイくん? 作戦は成功したのか?」
馬車から飛び出して、レインに質問をする。
「刑務所に、地下はあるか?」
「あるよ。どうしたんだ一体……」
「アイカ、カイン兄さん、説明を刑務所のメンバーにしてくれ!」
続々とレジスタンスのメンバーが到着すると同時に急がせる。
「怪我人を優先的に運ぶんだ! 運んだら、治療をしてくれ!」
「久しぶりだな。しかし、時間がないようだ。オレも手伝うぞ」
「ウォル兄さん! ありがとうございます。怪我人を地下に避難してください」
「なにがあったの……」
「時間がないんだウィンドラ、地下に避難を……」
「なに、あれ……」
キノコ雲が帝都の方で見える。
次の瞬間、世界から色が消えた……
♢♢♢
ウィンドラや風景から色が消えて、止まっていた。周りの仲間達も色が消えて、止まっている。
「なんだ? なにが起きている。声が……」
声が変な違和感がある。急に体が動かなくなり金縛りにかかった感覚がある。
背後から不意に声が聞こえてきた。
「困るな、こんな所で死なれたら……」
男か女か子供……よくわからない、声はつづける。
「力の使い方を一度だけ教えてあげるよ……」
なにかが、心臓に流れてくる。
「じゃね、わたしの切り札くん……」
不意に世界から色が、戻り始める。
♢♢♢
爆風が近づく中で、世界が別のなにかに見える。
力の使い方は、全て分かった。
「
天に刺さる程の巨大な4つの青白い十字架が、爆風を防いでいた。
「なんだこれは……これが、原子爆弾……」
十字架が防ぐ外は、爆風で全てが燃え上がり地面はえぐられていく。今まで、聞いた事がないほどの爆音とキノコ雲に、レジスタンスと冒険者達は驚愕していた。
「みんな、十字架をよく見てくれ!」
「あれは、父さん。母さん。みんな……」
「大丈夫だ。今まで戦って来た仲間が! 家族が! 我々を守ってくれている!」
油汗をかきながら十字架を維持している。レイがそこにはいた。
「みんな、リーダーを支えろ、リーダーだけに戦わせてはいけない」
レジスタンスの仲間達が支えていく、みんなわかっていた。また、奇跡を起こして助けてくれた事を全員が理解していた。
十字架は、今まで成仏させて来た人達が集まって出来ていた。亡くなった人達が、力を貸してくれて初めてできる技だった。
「これが、レイなのか?」
「ああ、ウォル兄さん。オレ達の自慢の弟だよ」
「はははははっ! 自慢の弟だな、カイン」
ボロボロになった二人は、レイを見ながら久しぶりに笑った気がした。生きていてよかったと初めてウォルは思っていた。
爆風が収まり、帝都の人間は誰一人生きていなかった。その日、地図から帝国が消えた……
♢♢♢
爆風が、届かない程の距離から教授は帝国を眺めていた。
「はぁ、やっと叶う夢にまでみた、クリーン兵器が……」
キノコ雲が現れ、衝撃がくると思った瞬間……
「
教授の疑問は、すぐに解消される。
青白い十字架が現れ、爆風を防いで焼け野原に刑務所だけが残った。
「あっはははは! 最高だ! 探し求めていた。″
狂ったように、叫び、笑う。今の、教授に近づく者はいないだろう。
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